日本大百科全書(ニッポニカ) 「張良(能)」の意味・わかりやすい解説
張良(能)
ちょうりょう
能の曲目。五番目物。五流現行曲。観世(かんぜ)小次郎信光(のぶみつ)作。漢の高祖の臣下張良(ワキ)は夢のなかで老翁に会い、馬上から落とした沓(くつ)を拾って履かせたことから、兵法伝授を約された。半信半疑で出かけると、老翁(前シテ)は張良の遅刻を怒り、再会を試すといって消えていく。後日、張良は同じ橋のたもとで威風正しい黄石公(こうせきこう)(後(のち)シテ)と会い、川に落とされた沓を拾おうとするものの、大蛇(ツレ)が現れて妨げるが、剣を抜いて沓を奪い、黄石公に履かせる。試練に合格した張良は、兵法の奥義を授けられ、大蛇は守護神になろうと消える。激流に沓を拾う演技が見もので、後見の投げる沓の落ちた位置によって臨機に演技せねばならず、ワキの重い習いであり、ワキ方にとっての登竜門の能である。
[増田正造]
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