恐怖症(読み)キョウフショウ(英語表記)Phobia

デジタル大辞泉 「恐怖症」の意味・読み・例文・類語

きょうふ‐しょう〔‐シヤウ〕【恐怖症】

そう感じることが無意味であると思いながら、特定の事物や状況に対して強い不安や恐怖を感じる神経症不潔恐怖症高所恐怖症対人恐怖症など。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「恐怖症」の意味・読み・例文・類語

きょうふ‐しょう‥シャウ【恐怖症】

  1. 〘 名詞 〙 神経症の一つ。一つの対象を理由もなく、恐れる病気。赤面恐怖対人恐怖動物恐怖、高所恐怖などいろいろの種類がある。
    1. [初出の実例]「私は此頃恐怖症にかかってゐるのかも知れない。人がみなおそろしく思へる」(出典:放浪記(1928‐29)〈林芙美子〉)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

家庭医学館 「恐怖症」の解説

きょうふしょう【恐怖症 Phobia】

[どんな病気か]
 恐れる理由はないことがわかっていながらも、たいして危険でも、脅威でもないような対象や状況に対して、不釣り合いなほどの激しい恐れを抱く症状をいいます。不安障害の場合の不安は、特定の対象のない恐れの気持ちでしたが、恐怖症の場合の恐怖は、対象が不安に比べてはっきりしている点が異なります。
 さまざまな精神科の病気にともないますが、この恐怖症しか症状が現われない人もいます。恐怖の対象になるものには、200種類以上の対象が認められていますが、大きく分けると、4つの範疇(はんちゅう)があります。
広場恐怖(ひろばきょうふ)
 単に「広い場所がこわい」というものではなく、慣れた場所を離れて孤立するのがこわいという点が特徴です。
 細かく分けると、外出恐怖(がいしゅつきょうふ)、遠出恐怖(とおできょうふ)や、閉所恐怖(へいしょきょうふ)(エレベーターなどの狭い場所がこわい)、乗(の)り物恐怖(ものきょうふ)(電車やバスに乗れない)、空間恐怖(くうかんきょうふ)(広い空間を横切るときに、支えがないと倒れそうになる)などがあります。
社交恐怖(しゃこうきょうふ)
 他人とかかわることに恐怖を感じるもの全般をさします。
 代表的なのは、対人恐怖(たいじんきょうふ)で、他人が同席する場面で緊張感が強まって、人に不快感を与えるのではないかと心配になってしまい、人付き合いを避けたり、自室にこもってしまったりすることもあります。
 対人恐怖を細かく分けると、人前で顔が赤くなることを恐れる赤面恐怖(せきめんきょうふ)、自分の視線が他人を不快にするのではないかと悩む自己視線恐怖(じこしせんきょうふ)、自分が極端に醜(みにく)い姿をしていると考える醜形恐怖(しゅうけいきょうふ)、自分からいやなにおいが流れ出ていると考える自己臭恐怖(じこしゅうきょうふ)などがあり、他人に危害を与えてしまうのではないかと心配になる加害恐怖(かがいきょうふ)もあります。
■特定恐怖(とくていきょうふ)
 対象が非常に限定されるものを特定恐怖と呼びます。単純恐怖(たんじゅんきょうふ)ともいいます。高所恐怖(こうしょきょうふ)、尖端恐怖(せんたんきょうふ)、雷恐怖(かみなりきょうふ)、暗闇恐怖(くらやみきょうふ)、動物恐怖(どうぶつきょうふ)など、さまざまなものがあります。
■疾病恐怖(しっぺいきょうふ)
 恐怖の対象が疾病に関連したもので、細菌恐怖(さいきんきょうふ)、がん恐怖、エイズ恐怖などがあります。なにかに、さわると汚れる、バイ菌がつく、病気がうつるなどと考えてしまい、他人が触れたドアの取っ手にさわれないなどの場合は不潔恐怖(ふけつきょうふ)といいます。
 これらの恐怖症の症状、「……がこわい」というものは、正常な人にも多少はみられるもので、少しでもこの症状があるからただちに病気だ、というものではありません。症状が極端に強くて社会生活が損なわれる場合、強迫性障害(きょうはくせいしょうがい)(強迫神経症(「強迫性障害(強迫神経症)」))などの他の病気の症状の一部として生じている場合などもあるので、決めつけて考えずに精神科医に診断を任せましょう。
●どう対応すればよいか
 恐怖症の人の恐怖感は、他人からみればなぜそのようなものに恐怖を覚えるのか理解できない場合が多く、周りの人は「気にするな」とか、「そんな弱い精神ではいけない」などといいたくなってしまいます。本人にとってみれば、理屈(りくつ)抜きにたいへんな恐怖で、自分でもなぜそんな恐怖感を覚えるのかはわからないので、こうした助言は好ましくありません。少なくとも、そのつらさに理解、共感を示し、少しでも安心感を与えるよう努めることがたいせつです。
 恐怖症は、さまざまな病気の一部の症状として出現することもあれば、人間の無意識の願望の裏返しであったり、家族・生育環境のなかで徐々にできあがってしまったものであったり、いろいろな場合があります。
[治療]
 恐怖症の形をとっていても、なんらかの精神科的な病気が背後にある場合は、そのもととなる病気の治療を行なうことが第一です。それらが存在しなくて、この恐怖症が主症状である場合には、不安障害に準じて、抗不安薬抗うつ薬などを用いた薬物療法を行ないます。やはり薬物療法に加えて、短時間精神療法認知療法、精神分析的精神療法、徐々にその恐怖の対象に慣らしていく行動療法など、さまざまな治療法を組み合わせることもあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「恐怖症」の意味・わかりやすい解説

恐怖症 (きょうふしょう)
phobia

特定の対象,行為あるいは状況に対する過度で不合理な恐怖を示す状態。phobiaは〈恐れ・逃走〉を意味するギリシア語フォボスphobosに由来する。このような恐怖をもつ人物は,恐怖すべき対象,行為あるいは状況を避けるようになる。この回避行動が社会生活に支障をきたすものとなれば,治療を必要とする神経症の一類型となる。もっとも,軽度の恐怖は,多くの人に見られるもので,社会生活に影響を及ぼすほどのものではない。中でもヘビ,クモ,ネズミなどに対する軽度の恐怖は広くみられる。

 神経症としての恐怖でもっともしばしばみられるのは,その場から逃れることが困難であり,またかりに急に不安や病気や事故に襲われても援助を期待することが予想しにくいような公共の場--雑踏,エレベーター,電車や飛行機などの乗物,締め切った建造物の中--におもむくことへの恐怖であり,現実にこれらの場でいちじるしい不安を経験したことが発症のはじまりとなる。個人が他者の観察にさらされる局面を恐れ回避する場合は,英米では〈社交恐怖social phobia〉とよぶ。これは日本で使用される〈対人恐怖〉とまったく同じではないが,あい重なる側面をもっている。公衆の面前でしゃべったり,なにかをなしとげたり,書いたり食べたりすることに対する恐れなどがその例である。

 高所恐怖,閉所恐怖など,恐怖(フォビア)を付した用語は,西丸四方(よも)によると200以上もあるという。それらを羅列することはあまり意味があることとは思われない。恐怖症には,より不安神経症に近いもの,ヒステリー的色彩を帯びたもの,強迫神経症に近い構造をもったものなど,その構造はさまざまである。〈不潔恐怖mysophobia〉という言葉はよくしられているが,これは恐怖症というよりは,強迫神経症の部分症状とみなすべきである。軽い恐怖は治療の対象にはならず,放置して差しつかえないが,神経症の水準にある恐怖に対しては,森田療法,精神分析療法,行動療法といった治療が適用される。
神経症
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「恐怖症」の意味・わかりやすい解説

恐怖症
きょうふしょう

なんらかの対象を不合理に恐れることを特徴とする神経症の一種で、フォビアphobiaともいう。恐怖の対象となるものには人間や動物などのほか、特定の物や状況、さらに自分自身の身体の一部などがある。たとえば、針やフォークなどのとがったものを見ると、それが目に刺さってしまうのではないか、知らぬまに他人を傷つけてしまうのではないか、という恐れが生ずる尖端(せんたん)恐怖、同じようにナイフや包丁などを恐れる刃物恐怖、細菌や排泄(はいせつ)物などが知らぬまに手についてしまうのではないかと恐れる不潔恐怖、対人場面で顔がこわばったり緊張したりして人との接触を恐れる対人恐怖、とりわけ相手の視線を恐れたり自分の視線が気になったりする視線恐怖、自分の顔面が紅潮してしまうのを恐れる赤面恐怖、エレベーターなど狭い場所に入ると出られなくなってしまうのではないかと恐れる閉所恐怖、高いビルや梯子(はしご)などを極端に恐れる高所恐怖、乗り物に乗っていて急に気分が悪くなったらどうしようと恐れて電車などに乗れない乗り物恐怖、ウマ、ヘビ、イヌ、クモなど特定の動物を極端に恐れる動物恐怖、悪性の病気にかかってしまったのではないかと恐れる疾病恐怖、客観的にはけっして異常とはいえない容貌(ようぼう)なのにもかかわらず自分の顔が醜いと信じてしまう醜貌恐怖などである。これらの恐怖の対象となっているものは、実は自分自身の心のなかにあるなんらかの恐れが象徴化されたものであるといわれる。一般には精神安定剤の内服や精神療法などで軽快するが、ときには統合失調症(精神分裂病)などの一症状として現れる場合もあり、いずれにしても専門医の診察を受ける必要がある。

[岩崎徹也]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「恐怖症」の意味・わかりやすい解説

恐怖症【きょうふしょう】

強迫観念の一種。反復して頭に浮かんでくる強迫観念の内容が特に不安や恐怖を伴う具体的なものであり,このために日常生活に支障をきたすようになるもの。人に会うと赤面するため人に会えなくなる赤面恐怖症,不潔だからといって物にさわらなかったり何回も手や物を洗い直す不潔恐怖症,その他,高所恐怖症,異性恐怖症,閉所恐怖症等がある。
→関連項目出社拒否症対人恐怖症投射

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の恐怖症の言及

【アンビバレンス】より

…もし愛しか存在していないなら,恋人が別の人に走っても,その幸福を願うはずだから。このような自責や嫉妬は一応正常のうちに入れてもいいが,恐怖症や強迫神経症などの症状は,アンビバレンスを解決しようとする失敗した試みと考えられる。たとえば動物恐怖は,父親なら父親に対する憎しみを抑圧してある種の動物に振り向け,その動物の復讐を恐れているのである。…

【神経症】より

…戸締りや火の始末を何度も確かめずにいられない例や,手洗いを反復する例などがある。強迫思考が特定の対象に集中したものを恐怖症といい,不潔恐怖,尖鋭恐怖,広場恐怖,高所恐怖,疾病恐怖,対人恐怖などがある。恐怖症は恐怖神経症として独立の類型として扱われることもある。…

【投射】より

…例えば,ある人に対し,敵意なり,逆に恋愛感情なりをもっていて,そのような自分の気持ちを認めたくないとき,その敵意や恋愛の感情は自己の中では抑圧され,相手に投射されて,あたかも相手が自分を憎んでいる,あるいは愛していると感じるメカニズムである。疾病においては,パラノイアや恐怖症成立のメカニズムとして説明できる。ハイミスにみられる妄想反応としての被愛妄想は,彼女自身の愛情欲求の投射であろうし,人の視線を恐ろしいものと感じとる正視恐怖の裏には,周囲の世界に対する攻撃性の投射をみることができる。…

※「恐怖症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

スキマバイト

働き手が自分の働きたい時間に合わせて短時間・単発の仕事に就くこと。「スポットワーク」とも呼ばれる。単発の仕事を請け負う働き方「ギグワーク」のうち、雇用契約を結んで働く形態を指す場合が多い。働き手と企...

スキマバイトの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android