江戸幕府の法令集。江戸幕府では通常の単行法令は,必要に応じて御触書の形で公布した。狭い範囲の人や役所にあてられたものを,とくに御達(おたつし)という。高札(こうさつ)も御触書の一種と見てよい。御触書は老中,若年寄の合議体である御用部屋で方針を定め,奥右筆組頭が調査,起案し,将軍の裁可によって制定法となる。表右筆は書付(かきつけ)と称するその写しを作成し,支配の筋に応じて諸方面に配布した。大名には大目付が殿中で渡し,あるいは留守居を老中宅に召して手交した。旗本以下は役職に応じて,大目付か目付を通した。これらの御触書は末端では町村役人まで回覧され,町村役人から庶民に申し渡された。幕府の御触書には御料だけに触れられるものと,全国に触れられるものとがある。その区別は一様ではないが,倫理,宗教,外交,貿易,貨幣,交通,度量衡,酒造などに関することは全国に強制された。大名や旗本などはみずから定めた独自の御触書と幕府からの御触書とで制定法を形成していた。通常,御触書の内容は命令,禁止の事項を簡単に記したもので,幕府の年中行事,倹約,火事・犯罪の予防,犯罪者の捜査などに関するものが多い。将軍徳川吉宗は法令の整備につとめ,《公事方御定書》(1742)の制定後,評定所に命じて1615年(元和1)以後の御触書を中心とする幕府諸法令を整理,編集させた。1744年(延享1)に1743年(寛保3)までの分がまとめられ《御触書》と呼ばれた。編集は続行されて,60年(宝暦10)に1744-60年の分,89年(寛政1)ごろに1761-87年(宝暦11-天明7)の分,1841年(天保12)に1788-1837年の分が成立した。これらはいずれも《御触書》が書名であるが,成立年の年号を冠して《寛保集成》《宝暦撰集》などと呼んで区別することもあった。原本は国立国会図書館,国立公文書館などに蔵されているが,高柳真三・石井良助共編《御触書寛保集成》《同宝暦集成》《同天明集成》《同天保集成》はその刊本であり,かつ編者は年号を冠する書名に統一している。幕府の法令集には,私撰のものも各種あるが,《御触書》各集成は官撰のものとして価値が高い。
執筆者:平松 義郎
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江戸幕府の評定所が編纂した幕府官撰の法令集。『御触書集成』は、1934年(昭和9)に刊行が計画された際に新たに冠せられた書名で、『御触書寛保集成』『御触書宝暦集成』『御触書天明集成』『御触書天保集成』の総称である。8代将軍徳川吉宗は、1742年(寛保2)にいわゆる「公事方御定書」が完成した直後、それまで個別に出されていた幕府法令の編纂を命じた。これは、1744年(延享1)に完成し、そこには1615年(元和1)以降の触類が収められ、「御触書」(寛保集成)と称した。その後、この事業は評定所に創設された御定書掛三奉行を中心に継続され、10代家治(いえはる)による『宝暦集成』、11代家斉(いえなり)による『天明集成』、12代家慶(いえよし)による『天保集成』が完成した。13代家定も御触書編纂を企図し、その作業が開始されたが、完成には至らなかった。その欠を補うために幕末期の触書類の編纂を待望する声が上がり、これに応えるかたちで1992年(平成4)から1997年にかけて、日本法制史の研究者の尽力によって編纂・刊行されたのが、『幕末御触書集成』である。
[坂本忠久]
『石井良助著『民法典の編纂』(1979・創文社)』▽『石井良助・服藤弘司編『幕末御触書集成 別巻』(1997・岩波書店)』▽『石井良助・服藤弘司編『御触書集成目録 解題』(2002・岩波書店)』
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江戸中・後期に幕府評定所が編集した官撰法令集。御触書とは幕府や藩が公布した成文法のこと。江戸幕府では8代将軍徳川吉宗以来,幕府の御触書の収集編纂が行われた。1615~1743年(元和元~寛保3)の御触書3550通を編纂した寛保集成51巻,44~60年(延享元~宝暦10)の御触書2060通を編纂した宝暦集成33巻,61~87年(天明7)の御触書3020通を編纂した天明集成52巻,88~1837年(天保8)の御触書6607通を編纂した天保集成109巻がある。54年(安政元)にも編纂が開始されたが未完。書名はいずれも「御触書」で,寛保集成などのよび名はそれぞれを区別するための通称。岩波書店から刊行。
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