忘れる(読み)ワスレル

デジタル大辞泉 「忘れる」の意味・読み・例文・類語

わす・れる【忘れる】

[動ラ下一][文]わす・る[ラ下二]
覚えていたことが思い出せなくなる。記憶がなくなる。「電話番号を―・れる」「―・れられない出来事
何かに熱中してうっかり気がつかずにいる。「美しさに我を―・れる」「時のたつのを―・れる」「寝食を―・れて働く」
うっかりして物を置いてくる。「車の中に書類を―・れる」
意識的に思い出さないようにする。「歌をうたって悩みを―・れる」
すべきことをしないでいる。「戸締まりを―・れる」「銀行に行くのを―・れる」
対象が記憶から消える。
面形おもがたの―・れむしだは」〈・三五二〇〉
[下接句]乞食こじきも三日すれば忘れられぬ寝食を忘れる前後を忘れる喉元のどもと過ぎれば熱さを忘れる我を忘れる暑さ忘れて陰忘る雨晴れてかさを忘る一朝いっちょうの怒りにその身を忘るうおは江湖に相忘るうおを得てうえを忘る老いたる馬はみちを忘れず治まりて乱るるを忘れず初心忘るべからずすずめ百まで踊りを忘れずに居て乱を忘れずねずみ壁を忘る、壁鼠を忘れず
[類語]失念物忘れ忘却忘失ど忘れ

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「忘れる」の意味・読み・例文・類語

わす・れる【忘】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 ラ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]わす・る 〘 自動詞 ラ行下二段活用 〙 覚えていたことが自然に頭から消える。ある物事の記憶がなくなる。
    1. [初出の実例]「沖つ鳥 鴨著(ど)く島に 我が率寝し 妹は和須礼(ワスレ)じ 世のことごとに」(出典古事記(712)上・歌謡)
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 ラ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]わす・る 〘 他動詞 ラ行下二段活用 〙
    1. 物事についての記憶をなくしてしまう。失念する。また、おぼえそこなう。
      1. [初出の実例]「妹が袖別れて久になりぬれど一日も妹を和須礼(ワスレ)て思へや」(出典:万葉集(8C後)一五・三六〇四)
      2. 「なほ過ぎにたる事わすれぬ人は、いとをかし」(出典:枕草子(10C終)一六一)
    2. 他に熱中したり思いつめたりする物事があって、それが、ある事を気にかけない状態にしたり、思い捨てたりさせる。
      1. [初出の実例]「このごろはよろづわすれて、このことをいそぐ」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
      2. 「こよなくあたたまりて、寒さもわすれ侍にき」(出典:大鏡(12C前)六)
    3. うっかりして、持って行ったり持って来たりするべきものを、ある所に置いたままにする。
      1. [初出の実例]「道路に遺(ワスレ)落せる物有るを見る」(出典:石山寺本大般涅槃経平安初期点(850頃)二〇)
    4. すべきことを、うっかりしてしないままにする。動詞の連用形に付けても用いる。「火を消し忘れる」「手紙を出し忘れる」など。
      1. [初出の実例]「あはれ、やり戸を明ながら、わすれてきにける」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)三)

忘れるの語誌

( 1 )「わする」は下二段型のほかに、上代の東国語を中心に四段型がある。この二語については、四段型を古形、下二段型を新形とみるとらえ方と、四段型は意志的行動としての記憶の消去、下二段型は自然の心理現象としての忘却とみるとらえ方とがあるが、活用の型が異なるということは、原初的には文法的意味が異なっていたもので、有坂秀世は、四段型に受動態を示す辞が加わって融合したのが下二段型であると説明する(国語音韻史の研究‐「わする」の古活用について)。「万葉集‐三四九八」の「海原の根柔ら小菅あまたあれば君は和須良(ワスラ)す我れ和須流礼(ワスルレ)や」は、両者の意味の違いがよくみてとれる例である。
( 2 )しかし、[ 一 ]挙例「古事記」の「和須礼(ワスレ)じ」は、「書紀‐神代下・歌謡」では「和素邏(ワスラ)じ」とあり、かなり古くから両者は混同されていたようで、次第に下二段型が四段型の意味領域を侵すようになる。その意味では、「隠る」「恐る」などと同様、四段型は古形、下二段型は新型としてとらえることができよう。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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