感染症(読み)カンセンショウ(英語表記)(Infections Disease)

デジタル大辞泉 「感染症」の意味・読み・例文・類語

かんせん‐しょう〔‐シヤウ〕【感染症】

病原体が生体内に侵入・増殖して引き起こす病気。インフルエンザ赤痢せきりマラリアなど伝染性のものと、破傷風肺炎など非伝染性のものとがある。→感染症予防法伝染病
[類語]疫病はやりやまい伝染病

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共同通信ニュース用語解説 「感染症」の解説

感染症

ウイルスや細菌、原虫などの病原体が体内に入り、感染することで起きる病気の総称。日本の感染症法は危険性の高い順に1~5類に分類するなどし、予防措置や拡大防止策を定めている。致死率の高いエボラ出血熱やペストのほか、新型肺炎(SARS)、結核などがある。グローバル化に伴い、伝染性の感染症が国境を越えて広まる危険性が高まっており、予防や発生後の対応は国際的な課題となっている。世界保健機関(WHO)などが取り組みを進めている。

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精選版 日本国語大辞典 「感染症」の意味・読み・例文・類語

かんせん‐しょう‥シャウ【感染症】

  1. 〘 名詞 〙 病原微生物が人体に侵入・増殖することによって起こる病気。
    1. [初出の実例]「これらの薬は感染症をアレルギー体質に変える変換器の役割を果たしていることになる」(出典:くすり公害(1971)〈高橋晄正〉薬石効なく)

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家庭医学館 「感染症」の解説

かんせんしょう【感染症 (Infections Disease)】

 微生物が体内に侵入し、そこで繁殖(はんしょく)したためにおこる病気を感染症といいます。感染症の多くは伝染する危険があるので、周囲の人にうつさない配慮が必要です。
●感染と発病
●キャリア(保菌者)
●感染症と伝染病
●免疫(めんえき)とは
●感染源と感染経路
●飛沫感染(ひまつかんせん)(経気道感染(けいきどうかんせん))
●経口感染(けいこうかんせん)
●性行為感染(接触感染)
●経皮感染(けいひかんせん)
●昆虫による媒介
●医療的行為に起因する感染
●日和見感染(ひよりみかんせん)
●院内感染(いんないかんせん)
●交差感染(こうさかんせん)
●自己感染(内因感染)
●垂直感染(すいちょくかんせん)と母子間感染(ぼしかんかんせん)
●水平感染

●感染(かんせん)と発病(はつびょう)
 病気をおこす微生物を病原微生物といい、小さい順にウイルス、細菌(マイコプラズマクラミジアリケッチアスピロヘータ、一般細菌)、原虫、寄生虫(きせいちゅう)などがあります。これらの病原微生物が体内に侵入し、臓器や組織の中で繁殖することを感染といいます。
 病原微生物が感染すると、発病する場合と、発病しない場合とがあります。たとえば、飲食物にまじっていた赤痢菌(せきりきん)が飲み込まれ、腸管内で繁殖すると、発熱や下痢(げり)がおこりますが、繁殖の程度がわずかな場合は、病気らしい症状が現われないこともあります。前者を顕性感染(けんせいかんせん)(発病)といい、後者を不顕性感染といいます。

●キャリア(保菌者(ほきんしゃ))
 病原微生物が、不顕性感染の状態で体内にすみつくこともあります。B型肝炎やエイズなどでしばしばみられます。このように、病原微生物を体内にもっている人をキャリアといい、周囲の人に病原微生物を感染させる危険がありますし、体内の病原微生物が繁殖して、将来、発病する恐れもあります。

●感染症(かんせんしょう)と伝染病(でんせんびょう)
 感染症には、インフルエンザや赤痢のように人から人へと伝染する伝染性感染症と、膀胱炎(ぼうこうえん)や破傷風(はしょうふう)のように人から人へは伝染しない非伝染性感染症とがあります。このうち、伝染性感染症はふつう、単に伝染病といいます。
 なお、マラリアや回虫症(かいちゅうしょう)のように、かなり高等な生物による感染症は寄生虫病といい、別に扱われます。

●免疫(めんえき)とは
 はしか、おたふくかぜ、風疹(ふうしん)などにかかって治った人は、再びその病気になることはありません。からだの中に抗体(こうたい)というものができていて、再び同じ病原微生物が侵入してきても、繁殖させないように抑えるからです。
 このからだのはたらきを免疫といいます。病気によって、免疫の続く期間が異なります。はしか、おたふくかぜ、風疹などは一生続く免疫ができます。これを終生免疫(しゅうせいめんえき)といいます。
 インフルエンザ、ジフテリアなどは、短期間の免疫しかできません。
 ブドウ球菌(きゅうきん)、レンサ球菌による扁桃炎(へんとうえん)などでは免疫ができないので、同じ病気に何度もかかる可能性があります。

●感染源(かんせんげん)と感染経路
 感染の源になるもの、つまり、病人、キャリア、感染動物、媒介(ばいかい)する昆虫、病原微生物で汚染された排泄物(はいせつぶつ)や、それによって汚染されたものなどを感染源といいます。
 病原微生物が、感染源から人体に侵入する道筋を感染経路といい、つぎのようなものがあって、病原微生物によって感染経路がちがいます。

●飛沫感染(ひまつかんせん)(経気道感染(けいきどうかんせん))
 インフルエンザにかかった人が、せきや会話の際に口から飛ばす飛沫(目に見えない細かい水滴=しぶき)の中には、インフルエンザウイルスが含まれています。この飛沫を周囲の人が吸い込むことによって、インフルエンザは人から人へと伝染します。このような感染経路を飛沫感染といい、扁桃炎、はしか、風疹、溶連菌感染症(ようれんきんかんせんしょう)(猩紅熱)、ヘルパンギーナ、手足口(てあしくち)病などがこの感染経路をとります。

●経口感染(けいこうかんせん)
 病原微生物や寄生虫の卵が、口から入って感染するのを経口感染といいます。コレラ、腸チフス、赤痢(せきり)、腸炎ビブリオ食中毒、カンピロバクター食中毒、サルモネラ食中毒、回虫症、蟯虫(ぎょうちゅう)症などは、飲食物にまじったり手指についたりした病原微生物や寄生虫の卵が口から入って感染します。

●性行為感染(せいこういかんせん)(接触感染)
 性行為の際に、皮膚や粘膜(ねんまく)の病変部、体液の中にいる病原微生物が人から人へと感染するのが性行為感染です。淋菌性尿道炎(りんきんせいにょうどうえん)、梅毒(ばいどく)、腟(ちつ)カンジダ症、腟トリコモナス症、性器ヘルペス、エイズ、B型肝炎などがこの感染経路をとります。

●経皮感染(けいひかんせん)
 病原微生物が、皮膚から侵入して感染するのが経皮感染で、ワイル病の病原菌のレストスピラや日本住血吸虫(にほんじゅうけつきゅうちゅう)は、健康な皮膚からでも侵入して感染しますが、破傷風菌や狂犬病ウイルスは、皮膚の傷口から侵入して感染します。

●昆虫による媒介
 マラリアや日本脳炎は、カに媒介されて、ペストはノミに、発疹(ほっしん)チフスはシラミに、つつがむし病はダニに媒介されて感染します。

●医療的行為に起因する感染
 導尿(どうにょう)に関連しておこった膀胱炎(ぼうこうえん)、病人、とくに自覚症状のない病人の血液の輸血によるB型肝炎や梅毒の感染、消毒していない注射器によるエイズの感染などをいいます。

●日和見感染(ひよりみかんせん)
 私たちの体内(鼻腔(びくう)、口腔(こうくう)、大腸(だいちょう)、腟など)や皮膚の表面には、常在菌(じょうざいきん)といって、いろいろな微生物が常に付着したり、すみついたりしています。また、私たちの周囲にも無数の微生物が存在しています。しかし、健康なときには、これらの微生物に対する抵抗力がからだに備わっているので病気になることはありません。からだの抵抗力が低下すると、これらの微生物が異常に繁殖し、病気になることがあります。これを日和見感染といいます。
 日和見感染をおこす原因には、①がんなどによる衰弱(すいじゃく)、②エイズ、重症糖尿病、腎不全(じんふぜん)、肝不全、脳血管障害などのからだの抵抗力が低下する病気、③薬剤(抗がん剤、免疫抑制薬、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬など)使用による免疫力の低下、④広域抗生物質の連用による菌交代現象、⑤放射線療法の副反応による骨髄(こつずい)障害、⑥高年齢、などがあります。
 日和見感染によっておこる病気としては、緑膿菌感染症(コラム「緑膿菌感染症」)、真菌症(しんきんしょう)(「皮膚真菌症とは」)、MRSA(多剤耐性(たざいたいせい)ブドウ球菌)感染症などがあります。

●院内感染(いんないかんせん)
 病院内でおこる感染を院内感染といいます。腎臓病で入院中の子どもがはしかにかかる、排尿困難で導尿している人が膀胱炎にかかるなどのほか、見舞いに訪れた人や病院職員なども病院内で感染症にかかれば院内感染です。感染のしかたには、つぎの2つがあります。

●交差感染(こうさかんせん)
 病原微生物が、病人から直接に、または間接に(器物を介してなど)他の人に感染するケースです。たとえば、はしかの発病初期の子どもが、はしかとはわからず原因不明の発熱などの病名で入院したため、入院中のほかの子にはしかが発生するとか、給食課の職員にサルモネラ菌の保菌者がいたため、入院している病人にサルモネラ食中毒が集団発生する、などがその代表です。また、B型肝炎の病人から採血した注射針を誤って自分の指に刺してしまい、看護師がB型肝炎にかかるのも交差感染です。

●自己感染(内因感染)
 自分の皮膚、口腔、鼻腔、腸管、腟などにいる常在菌が感染して病気がおこるのが自己感染です。常在菌は、常在している部位にいるかぎり病気をおこすことはありませんが、ほかの部位に移動すると病気がおこることがあるのです。
 たとえば女性の膀胱炎の多くは、自分の大腸の常在菌である大腸菌が感染したための自己感染です。
 しかし、導尿の際に、器具を介して病院内の細菌が感染しておこる女性の膀胱炎もあります。この場合は、交差感染ということになります。

●垂直感染(すいちょくかんせん)と母子間感染(ぼしかんかんせん)
 母親の体内にいる梅毒やB型肝炎などの病原微生物が、胎盤(たいばん)を介して胎児(たいじ)に感染してしまうことがあります。
 また、母親の産道(さんどう)にいるクラミジアや淋菌(りんきん)などの病原微生物が、出産の際に赤ちゃんに感染して結膜炎(けつまくえん)をおこすことがあります。
 このように、母から子へという縦の関係で感染するのを垂直感染といいますが、これも、広い意味での交差感染の一種です。
 また、育児中の母と子は、授乳その他の濃厚な接触によって、母親のもっている病原微生物が赤ちゃんに感染することもあります。このような感染を含めて母子間感染ともいいます。

●水平感染(すいへいかんせん)
 感染症が、母から子へと縦に感染するのを垂直感染というのに対して、インフルエンザのように、周囲の不特定多数の人々へ横に広がる感染(交差感染)を水平感染といいます。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「感染症」の意味・わかりやすい解説

感染症
かんせんしょう
infectious disease

微生物が体内に侵入し、繁殖したためにおこる病気をいう。感染症には、インフルエンザや赤痢のように人から人へ伝染する伝染性感染症と、膀胱(ぼうこう)炎や破傷風のように人から人に伝染しない非伝染性感染症とがあり、伝染性感染症は単に伝染病ともいわれる。また、マラリアや回虫症のように、細菌などより高等な生物による感染症は寄生虫症として別に扱われる。

 かつては感染と伝染を同義に扱っていたことがあり、感染症と伝染病が紛らわしかった。本来、伝染病という概念は疫病から始まったもので、疫病というのはなにによらず多数発生する疾患をさし、ペストPestなどとよばれていた。これには甲状腺腫(せんしゅ)やビタミン欠乏症(くる病や壊血病)まで含まれていた。その後、増殖可能な病原体でおこるものという考え方が加わったが、破傷風、肺炎、ハンセン病などのように増殖可能な病原体でも多発しない疾患があることから、疫病とは、増殖可能な病原体でおこり、しかも多数発生する疾患をいうようになった。

[柳下徳雄]

感染症の種類・分類

感染症の種類は多く、分類の観点も病原微生物の種類、感染経路、侵される部位、病気の経過が急性か慢性かなどさまざまである。以下に伝染する感染症のおもなものをあげる。

[柳下徳雄]

病原体の微生物学的観点による分類

〔1〕ウイルス性感染症 インフルエンザ、日本脳炎など
〔2〕リケッチア性感染症 ツツガムシ病、発疹(はっしん)チフスなど
〔3〕細菌性感染症 赤痢、腸チフス、ジフテリアなど
[柳下徳雄]

感染経路による分類

〔1〕飛沫(ひまつ)感染 結核、ジフテリア、しょうこう熱、インフルエンザなど
〔2〕経口感染 コレラ、赤痢、腸チフスなど
〔3〕接触感染
(1)直接接触(性感染) 淋疾(りんしつ)、梅毒、軟性下疳(げかん)、非淋菌性尿道炎、膣(ちつ)カンジダ症、膣トリコモナス症、性器ヘルペス、B型肝炎、C型肝炎、エイズ(AIDS)など
(2)間接接触 トラコーマ 流行性角結膜炎など
〔4〕昆虫による媒介感染 日本脳炎、マラリア、ペストなど
〔5〕経皮感染 日本住血吸虫症、狂犬病、破傷風など
〔6〕医療行為の際や器具による感染 導尿に起因する膀胱(ぼうこう)炎、輸血による梅毒・肝炎・エイズ
[柳下徳雄]

侵される部位による分類

〔1〕呼吸器系感染症 インフルエンザ、ジフテリアなど
〔2〕消化器系感染症 赤痢、腸チフス、細菌性食中毒、コレラ、レプトスピラ症など
〔3〕脳・神経系感染症 日本脳炎、流行性髄膜炎、急性灰白髄炎(ポリオ)など
〔4〕発疹性感染症 麻疹(ましん)(はしか)、しょうこう熱、水痘、風疹(ふうしん)など
[柳下徳雄]

発病および経過の緩急による分類

〔1〕急性感染症 インフルエンザ、赤痢、コレラなど
〔2〕慢性感染症 結核、ハンセン病、梅毒など
[柳下徳雄]

内外の感染症の動向

世界保健機関(WHO)が種痘を武器として常在国の痘瘡(とうそう)(天然痘)の撲滅作戦を展開した結果、1980年には痘瘡根絶宣言が行われ、痘瘡という病気は地球上から消滅した。20世紀前半まで世界中で流行がみられたポリオもワクチンの導入後は激減し、日本では1981年(昭和56)以来、野生株ポリオウイルスによるポリオ患者の発生はない。コレラはアジア、アフリカ、南米地方で流行的発生がつねにみられるが、日本、欧米、豪州では輸入感染症として散発的な発生にとどまっている。赤痢や腸チフスは、日本ではインドや東南アジア地域の旅行者の輸入感染のみで、まれになった。ジフテリアは予防接種の普及で先進国では激減し、日本も1986年以降は年間の患者発生数は数名となったが、旧ソ連圏では政権崩壊の影響で予防ワクチンが不足し、1991~95年に毎年数万人の患者が発生した。

 このように生活環境の改善、治療薬やワクチンの進歩などから、感染症流行の時代は終わったと考えられたが、エボラ出血熱、クリミア‐コンゴ出血熱、レジオネラ症、エイズ、カンピロバクター腸炎、O157による腸管出血性大腸炎、C型肝炎、E型肝炎などの新しい感染症が出現して新興感染症emerging infectious diseases(1980年ごろより新たに出現した感染症、エマージング感染症ともいう)と称された。また、薬剤耐性結核、コレラ、ペスト、デング熱などはふたたび多発するようになったので再興感染症re-emerging infectious diseasesという概念が用いられるようになった。WHOでは1990年代から再興感染症という用語を用いている。

[柳下徳雄]

感染症対策

(1)国レベルでの対策 感染症を監視し対処する国の機関として、アメリカにはCDC(疾病対策センターCenters for Disease Control and Prevention)があり、イギリスにはCDSC(感染症サーベイランスセンターCommunicable Disease Surveillance Center)がある。日本では、従来の発生時中心の予防対策に加えて、流行を予測したり流行を未然に防ぐといった平常時の防疫体制を強化するために「感染症サーベイランス事業」が1981年(昭和56)7月に発足した。これは、都道府県、指定都市の協力を得て、麻疹様疾患、風疹、流行性耳下腺炎などの感染症の全国的な発生状況を週単位で、また病原体の検索などの検査情報を月単位で収集、集計、解析し、適切な流行防止対策をたてるためのシステムである。また、1997年(平成9)からは国立予防衛生研究所国立感染症研究所に改組し、危機分析重点管理制度(HACCP(ハサップ))を導入しているほか、伝染病予防法にかわって、1999年4月より感染症予防・医療法(感染症法)が施行され、細かい改正を加えながら現状への対応が図られている。

(2)個人レベルでの対策 感染症には、赤痢のようにまだ確実に有効な予防接種のないものもあるが、大部分は有効な予防接種があって、法律で幼児期から予防接種を受けることが定められている。また、海外旅行の際は訪問国の疾病事情を確かめて予防対策に留意し、国内でもオートバイの運転をする人など、外傷を受ける可能性の高い人は破傷風の予防接種を受けておく心がけが望ましい。

[柳下徳雄]

『神谷茂著『新興・再興感染症』(1998・全日本病院出版会)』『小池雄介著『2001年 感染症の恐怖』(1998・PHP研究所)』『中山宏明・多田功・南嶋洋一編『知っておきたい現代感染症事情1、2』(1999・医歯薬出版)』『清水喜八郎監修著、山口恵三・岩本愛吉著『だれでもわかる感染症』(1999・へるす出版)』『町田和彦著『忍び寄る感染症』(1999・早稲田大学出版部)』『本田武司・飯島義雄著『あなたを狙う感染症』(2000・小学館)』『一山智・丸山征郎編『感染症』(2000・メディカルレビュー社)』『ブライアン・ウォード著、ロブ・ドゥサーレ監、唐木利朗日本語版監『ビジュアル博物館84 感染症』(2001・同朋舎)』『脇口宏・友田隆士編『こどもの感染症ハンドブック』(2001・医学書院)』『相川正道・永倉貢一著『現代の感染症』(岩波新書)』『井上栄著『感染症の時代』(講談社現代新書)』


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内科学 第10版 「感染症」の解説

感染症(ほかの疾患に伴う肝障害)

(1)感染症
 急性および慢性の肝障害の病因としては,A型からE型肝炎ウイルスが主体を占めているが,それ以外の感染症においても全身感染症の一症状として肝障害が惹起されることがある.大半は軽症かつ一過性の肝障害であるが,重症化する場合もある.ウイルス性肝炎の約2割程度を占めると推定されている.伝染性単核球症(infectious mononucleosis)の多くはEpstein-Barrウイルス(Epstein-Barr virus:EBV)によって発症する.発熱,咽頭痛,リンパ節腫脹,発疹,肝脾腫などの多彩な症状を呈し,肝障害が約80%,肝腫大が約20%にみられる.リンパ球増加を示し,異型リンパ球が10%をこえることが多い.トランスアミナーゼが著明に上昇することは少なく,黄疸の出現もまれである.サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)感染症は不顕性が多いが,ときに,リンパ節腫脹,異型リンパ球増加,肝障害,肝脾腫などの症状が出現する.成人でのCMV感染症の大半は,免疫抑制状態でのウイルスの再活性化により発症する.臓器移植後のCMV感染は移植片機能不全の原因としても重要である.さらに,肝障害を伴う特殊な感染症としては,黄疸出血性レプトスピラ症(Weil病),真菌感染症,マラリア,カラアザール(内臓型リーシュマニア症)などがあげられる.
a.後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)
 AIDS症例の肝組織では正常肝は10%以下との報告が多く,低栄養による脂肪肝を高率に認める.また,日和見感染症と腫瘍の肝転移による肝障害も多い.日和見感染は全身播種性感染の肝への波及であり,CMVと非結核性抗酸菌によるものが多く,カンジダ,クリプトコックス,ヘルペスウイルス,トキソプラズマ,ニューモシスチスなどによるものもある.また,日和見腫瘍の肝への浸潤は悪性リンパ腫が最も多く,欧米に多いKaposi肉腫はわが国では少ない.近年,ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染者の予後は著しい改善をみせ,死因にも変化がみられている.米国の報告では,日和見感染症などによるAIDS関連死は約半数にとどまり,残りは非AIDS関連死とされている.非AIDS関連死の約90%が肝関連死であり,その大半がC型肝炎ウイルス(HCV)感染症による.HIVとHCVは血液を介して感染するため,重複感染を起こす可能性が高い.米国ではHIV感染者の約30%,わが国では約20%がHCVに重複感染している.特に,血液製剤によってHIVに感染した例では,ほとんどがHCVとの重複感染を起こしている.重複感染例ではHCV量が多く,肝病変の進行が早く短期間で肝硬変に進展する.
b. 敗血症
 敗血症では,しばしば高度の黄疸を伴う肝不全を合併する.原因として,循環障害やショック,DIC,薬物性肝障害などによる肝障害が考えられる.さらに,エンドトキシンは胆汁うっ滞をきたすことが明らかにされており,機序として細菌の菌体成分による黄疸が想定されている.[西口修平]

感染症(移植後合併症の予防と治療)

(3)感染症
 造血幹細胞移植後の感染症は予後を左右する重要な合併症であるが,免疫再構築の状態に従い移植後の時期により傾向が異なる.前処置開始後から好中球が回復するまでの期間は,細菌および真菌感染症が好発する.好中球の回復後,移植後100日頃までは細胞性免疫が抑制されていることによりサイトメガロウイルス(CMV)やアデノウイルスなどによるウイルス性疾患のリスクが高く,それ以降は肺炎球菌など莢膜を有する細菌による感染症,および水痘ウイルスによる帯状疱疹などの発症頻度が多くなる.
 そのため,好発する時期にあわせた感染症予防対策が取られている.好中球が回復するまでは,広範囲スペクトラムの抗菌薬と抗真菌薬による予防投与と,好中球増加の促進目的でG-CSFを用いるとともに,清潔管理に留意する.また,監視培養や血清学的スクリーニング検査,CMVに対する抗原血症検査などを利用し,個々の病原体のモニタリング結果に合わせた早期治療体制を整えることによって,感染症の重症化を防ぐ.好中球回復後も免疫抑制薬投与期間中はアスペルギルスなど真菌感染に対する予防薬や,単純ヘルペスや水痘ウイルス再活性抑制目的のアシクロビル,ニューモシスチス肺炎予防のST合剤を継続する.[高橋 聡]
■文献
Atsuta Y, Suzuki R, et al: Disease-specific analyses of unrelated cord blood transplantation compared with unrelated bone marrow transplantation in adult patients with acute leukemia. Blood, 113: 1631-1638, 2009.
Blazar BR, Murphy WJ, et al: Advances in graft-versus-host disease biology and therapy. Nat Rev Immunol, 12(6): 443-458, 2012.
Filipovich AH, Weisdorf D, et al: National Institutes of Health consensus development project on criteria for clinical trials in chronic graft-versus-host disease: I. Diagnosis and staging working group report. Biol Blood Marrow Transplant, 11: 945-956, 2005.

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改訂新版 世界大百科事典 「感染症」の意味・わかりやすい解説

感染症 (かんせんしょう)
infectious disease

病原微生物がヒトおよび動物の体に侵入し,定着,増殖して感染をおこすと組織を破壊したり,また,病原微生物が毒素を出して体に害を与えると,一定の潜伏期をへた後に病気となる。この病気を感染症という。病原微生物が現在のようにわかったのは19世紀に入ってからで,L.パスツール,R.コッホらに負うところが大きい。日本でも,北里柴三郎は1894年にペスト菌を,志賀潔は98年に赤痢菌を発見している。現在では病原微生物として,細菌,スピロヘータ,リケッチア,ウイルス,真菌,原虫,寄生虫などがある。感染経路には,直接病巣にふれたり,病原微生物をふくむ唾液や喀痰の飛沫を吸入して感染する飛沫感染,病原微生物で汚染された食品や飲料水,空気(塵埃(じんあい)),土壌,ネズミ,昆虫,ダニなどの節足動物を介して感染する間接感染がある。病原微生物の体への侵入口としては,呼吸器,消化管,泌尿器,生殖器,皮膚(通常傷口)などがある。病原微生物が単にヒトの体に侵入したのみで増殖しないときは感染とはいわない。また感染をしても病気の症状がなく,健康にみえる場合を無症状感染または不顕性感染という。代表的な細菌感染症には猩紅(しようこう)熱,赤痢,腸チフス,結核,ハンセン病,肺炎球菌性肺炎,気管支炎,腎盂(じんう)腎炎,膀胱炎,皮膚化膿症などが,スピロヘータ感染症には梅毒,黄疸出血性レプトスピラ症などが,リケッチア感染症には発疹熱,ツツガムシ病などが,ウイルス感染症には風邪症候群,インフルエンザ,肝炎,黄熱,日本脳炎,流行性耳下腺炎(おたふく風邪),麻疹(はしか),風疹,水痘などが,真菌感染症にはカンジダ症,アスペルギルス症などが,原虫感染症にはアメーバ赤痢,マラリア,トキソプラズマ症,寄生虫感染症にはジストマ病(吸虫症),条虫症(サナダムシ病),顎口虫症などがある。類似の語に〈伝染病〉があるが,これは伝染性の感染症をさす。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「感染症」の意味・わかりやすい解説

感染症
かんせんしょう
infectious diseases

微生物の感染によって起る疾患をいう。病原体別に,細菌感染症,ウイルス感染症,リケッチア感染症,スピロヘータ感染症,真菌感染症などに分けられる。感染症のうち,病原体の毒力が強くて,人から人へと連鎖的に感染の広がるものを,特に伝染病と呼ぶこともある。病原体は,健康人には通常みられない病原菌であることが多いが,ブドウ球菌や大腸菌のように人体に常在するものが突然,病原性をもつようになることもある。さらに,化学療法の進歩に伴う薬剤耐性菌の出現や菌交代現象 (→菌交代症 ) も関係して,感染症の病態も変貌しつつある。感染経路としては,接触感染 (性病) ,飛沫感染 (インフルエンザなど) のような直接感染と,食物や動物を介する間接感染 (食物→腸チフス,カ→日本脳炎など) とがある。一般に,感染してから潜伏期があり,次いで前駆症状が出て,そののちに発症することが多い。感染症に対する治療は,患者の血液,尿,髄液,喀痰などから早急に病原体を検出し,最も有効な抗生物質を選んで投与する。

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妊娠・子育て用語辞典 「感染症」の解説

かんせんしょう【感染症】

「うつる病気」の総称です。原因は微生物で、ウイルスや細菌のほか、真菌(しんきん:カビ類)、寄生虫などたくさんあります。「人から人」へだけでなく、動物や虫、食べ物や水から人の体内に入ってくることも。近年は鳥インフルエンザなど、「動物(ペットも含まれます)と人が共通にかかる感染症」も大きな問題となっています。なお、病原体が体内に入り込んだだけでは「感染」とは実はいいません。入り込んだ病原体が体内で増えたとき「感染」、そして何らかの不快な症状が出てきたときに「病気=感染症になった」といいます。

出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報

栄養・生化学辞典 「感染症」の解説

感染症

 寄生虫,細菌,ウイルス,カビなどが感染することによって起こる症状.「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」によって予防およびまん延の防止の措置が講じられる.伝染病は,感染症の一つで,「自然の状態で急速に接触や空気感染で広がり,社会的に大きな影響を与える感染症」とされる.

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百科事典マイペディア 「感染症」の意味・わかりやすい解説

感染症【かんせんしょう】

伝染病

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世界大百科事典(旧版)内の感染症の言及

【感染】より

…微生物が体内に入っても,すぐに死滅してしまったり,素通りしてしまう場合は感染とはいわない。感染の結果,生体が全身性あるいは局所性に異常を生じてくることを発病といい,その病的状態を感染症infectious diseaseと呼ぶ。感染が成立しても,まったく病的状態が起こらないで,健康にみえる場合を無症状感染あるいは不顕性感染といい,症状をあらわす場合を顕性感染と呼ぶ。…

【感染】より

…微生物が体内に入っても,すぐに死滅してしまったり,素通りしてしまう場合は感染とはいわない。感染の結果,生体が全身性あるいは局所性に異常を生じてくることを発病といい,その病的状態を感染症infectious diseaseと呼ぶ。感染が成立しても,まったく病的状態が起こらないで,健康にみえる場合を無症状感染あるいは不顕性感染といい,症状をあらわす場合を顕性感染と呼ぶ。…

【伝染病】より

…昔から〈はやり病(やまい)〉〈疫病〉として人から恐れられてきた病気のことで,病原微生物の感染によって発病する。日本では,感染と伝染の区別があいまいで,この二つは同義語のように用いられることが多いが,感染infectionとは病原微生物が生体に侵入して増殖し,生体に害を与える場合(この病的異常状態が感染症infectious disease)をいい,伝染とは感染症の経過中,感染生体から分泌物や排出物とともに病原体が出て,それが接触または媒介によって他の生体を感染させる場合をいう。したがって伝染病は感染症に含まれるが,感染症のなかでも伝染力(伝播力)の強い感染症をさすわけである。…

【病原細菌】より

…ヒトのおもな病原細菌を表にまとめた。
[感染症]
 病原細菌を含めて,一般に病原微生物(細菌,ウイルス,リケッチア,真菌,原虫,スピロヘータなど)が宿主体内に侵入し増殖することを感染と呼び,感染によって起こる疾患を感染症という。感染と発病は,病原微生物と宿主との相互の力関係に基づいて成立する。…

※「感染症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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