( 1 )①は、「平家‐一」に「(清盛は)存命の為に忽に出家入道す。法名は浄海とこそ名のられけれ」とあるように、おおむね「法名」と呼ばれていたようであるが、室町期には「戒名」も用いられるようになった。
( 2 )②は仏典にも外国にも存在しないと「和訓栞」などで指摘されているが、日本では中世後期には行なわれている。なお浄土真宗では受戒がないので、戒名ではなく、法名という。
仏教で受戒によって与えられる宗教的な名称をいい,仏弟子たることを表す。僧侶の名も戒名であるが,一般には死後に与えられる名称が戒名と思われている。しかしこれも引導作法が受戒の形をとるので,戒名が与えられたのである。これが戒名というものの常識的な意味であるが,宗教的には人間としての人格を捨てて,仏となって永遠の仏格を得たことを表す。いわゆる成仏したしるしとして戒名で呼ぶのである。したがって戒名は,仏教とその成仏を表現できるような文字を選んで名付けられるものである。多く漢訳経典のなかの文字を選んだので,2字,4字,6字などの漢字をもって戒名とするようになった。これでわかるように,戒名は本来は生前に仏教に帰依して優婆塞(うばそく),優婆夷(うばい),または沙弥,沙弥尼の戒律を受けたとき付けるべきものである。これを逆修(ぎやくしゆ)戒名というが,これを表すものが居士(こじ),大姉(だいし),信士,信女などの位号と呼ぶものである。これは生前に受戒入道して仏道修行をしたという意味である。また受戒入道した居士,大姉,信士,信女の仏道修行は寺院においてでなければならないので,その寺院名を院号で表す。これは別に寺院を建立するという意味ではなくて,その人の住宅を院に見立てて仏道修行すればよいことである。そのよい例は修験道の坊号と院号で,在俗の俗家に住んでいても,修行さえすれば,坊号と院号が許される。しかし過去の貴族や武将などは,入道とともに広壮な寺院を建立して,そこに移り住んでいる。そのために法成寺殿(藤原道長)とか知足院殿(藤原忠実)とか呼ばれたので,院殿号という院号ができたのである。また浄土宗のような浄土門では,入道後は念仏団体である蓮社に加入して,念仏にはげむというたてまえから蓮社号という戒名を授けることになる。これらはすべて生前の受戒入道と仏道修行をたてまえとしているが,事実,古代・中世には逆修戒名を受ける機会が多かった。平安時代には天下の人民の3分の2が沙門の形をしている(《意見封事十二箇条》)といったのは,これを指しており,中世文書に男女ともに法名や戒名が大部分を占めるのは逆修によるものである。ことに大念仏逆修法会では,授戒と十念によって簡単に阿弥号を与えたので,阿弥号を名のる者が多かったが,これをはじめたという俊乗房重源は,阿弥号は成仏を表す仏号であるとした。すなわちこれも戒名であった。
執筆者:五来 重
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本来は戒を受けて仏門に入った者に与えられる名。得度(とくど)出家者の場合の諱(いみな)に相当する。法名(ほうみょう)、法号(ほうごう)、法諱(ほうき)などともよばれるが、もとは法名といわれていた。中世以後、得度した者が種々の道号をもつという慣習がおこったことや、また本来は戒名という名辞をもたない、無戒の宗風を標榜(ひょうぼう)する浄土真宗が現れるなどし、それらの道号や法名と区別する必要から戒名という呼び名が一般化された。仏道に入るに際しては、出家者に限らず、かならず受戒し法号を受けるが、この制はインドにはなく、中国、日本で行われるようになったものである。そして出家者は得度式に、在俗者は授戒会(じゅかいえ)または帰敬式(きぎょうしき)のときに戒名が授けられる。本来、戒名はこのように生前に授けられるものであったが、後世になると、死者に対して、葬儀を行う際に僧侶(そうりょ)がつける(安名(あんみょう))、いわば死後の名前という認識が通常となった。これは後代、生前になんら仏教に入信していない者も、死後は仏教帰依(きえ)者として扱い、形式的に授戒作法を行い、仏門に属する者と同様に葬儀を執行したことに由来する。戒名は一般に、男性の場合は法名の下に大居士(だいこじ)、居士、禅定門(ぜんじょうもん)、信男(しんなん)、信士(しんじ)、女性の場合は大姉(だいし)、禅定尼(に)、信尼(しんに)、信女(しんにょ)、子供には童子(どうじ)、禅童子(ぜんどうじ)、孩児(がいじ)、童女、孩女(がいにょ)などの位号をつけ、とくに高貴な身分の人には院、院殿(いんでん)、寺殿(じでん)などをつけた。院号の初出は足利尊氏(あしかがたかうじ)の等持院(とうじいん)とされる。浄土真宗の場合は、二字の法名に「釈(しゃく)」の一字を冠して死後の名とするなど各宗派にそれぞれの伝承がある。
[石川力山]
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法号とも。仏教で出家者に対して戒律を授け,一生これを犯さないことを宣誓させて名を与える受戒の証としての名。のち僧が死者に戒を授けたうえで,「何々院何々居士(大姉)」「釈何々」と入道名を付与し,その法名をさすようになった。僧尼の戒名には法然房源空のように房号がついた。死者の戒名を墓石や位牌に書くのが広く定着するのは江戸時代頃から。
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