食用油をたっぷり用いて魚貝類,野菜,鳥獣肉ほか各種の材料を加熱した料理。高温で短時間に調理するので,材料の持味を失わぬ利点がある。日本料理ではてんぷらをはじめとして種類が多く,洋風料理にはフライ,カツレツ,コロッケなどがある。日本では古く中国から伝えられた唐菓子によって油で揚げる調理法が行われるようになったが,油の生産量が少なかったために灯火用などでほとんどが消費され,神饌(しんせん)など特殊なものを除くと揚物はまったく普及しなかった。江戸時代に入って,南蛮料理や中国料理の影響と油生産の増大にともない,揚物はようやく料理として定着するようになった。
揚物はころもをつけない素揚げと,ころも揚げとに大別される。素揚げは材料をそのまま油に入れるもので,アジ,メイタガレイ,コイ,タイの頭などで行われる。アジ,キス,アナゴなどの中骨を揚げる〈骨せんべい〉もこれであり,豆腐の揚出しも素揚げが本格である。空揚げは,唐揚げとも書かれる。本来は素揚げのことをいうが,現在では水分をおさえるために片栗粉などをまぶして揚げるものを指すことが多い。ころも揚げは,ころもと呼名にくふうをこらしていろいろの種類がつくられている。磯揚げ,磯辺揚げなどというのはノリを使うもので,材料をノリで巻いたり,ころもに〈もみノリ〉を入れたりして揚げる。道明寺揚げは白身の魚やエビなどを卵白にひたして道明寺粉をまぶす。そうめんを短く折って針状のころもにして揚げたものは千本揚げ,ひき茶そうめんを使ったものは松葉に見立てて松葉揚げ,湯葉を使ったものは東寺(とうじ)湯葉の名をかりて東寺揚げなどと呼ぶことが多い。
揚物のこつは,油をたっぷり使い,材料は少しずつ入れて,油の温度を一定に保つことである。魚貝類を揚げる場合の適温は180℃くらい,油にころもをふりこむとさっと散る程度がよい。野菜類はふりこんだころもが沈みかけて散る程度の170℃くらいがよい。ノリを使った場合は160℃くらいがよく,油の温度が高すぎると焦げてにがくなり,香りが失われる。一般に低温のうちに材料を入れると油切れがわるく,油の表面から煙が立つのは熱し過ぎで,材料の内部に熱が通らぬうちに外側が焦げてしまう。
執筆者:福田 浩
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…次に,これもまず南蛮料理の影響によって油の使用が始まった。それが本格化するのはナタネの栽培が進んで油の生産量が増大してからのことで,卓袱料理の流行がそれに拍車をかけ,てんぷらなどの揚物料理も重要なレパートリーに加わった。調理技術や器具の新しい開発もあった。…
…また,中国料理の特徴の一つは油脂を使用した加熱法が発達していることである。使用する油脂の量を多くすると揚物になる。揚物は液体中で加熱を行い,対流で熱が伝わる点は水で煮ることに似ているが,加熱温度が180℃前後と高く,食物の表面が焦げることで乾焼加熱である。…
※「揚物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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