日本郵政公社(にっぽんゆうせいこうしゃ)(読み)にっぽんゆうせいこうしゃ

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

日本郵政公社(にっぽんゆうせいこうしゃ)
にっぽんゆうせいこうしゃ

2003年(平成15)4月1日に発足し、2007年9月末日まで郵政事業を行った特殊法人。通称郵政公社中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号)第33条第1項の規定および日本郵政公社法(平成14年法律第97号)に基づき、郵政事業を一体的に経営する国営の新たな公社として設立された。旧郵政省総務省郵政事業庁から承継した郵政三事業(郵便、郵便貯金簡易保険)を中心に業務を行っていたが、2005年10月に成立した郵政民営化法により、民営・分社化されることになり、2007年10月1日の民営化実施に伴い解散した。郵政事業は、日本郵政グループ(日本郵政株式会社および子会社の郵便局株式会社、郵便事業株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険)に移管され、1871年(明治4)から130年以上続いた国営の郵政事業はその長い歴史に幕を閉じた。なお、民営化後は、郵便やゆうパック等に関する窓口業務、印紙販売業務などは郵便局株式会社、集配・配達などの業務は郵便事業株式会社、郵便貯金に関する業務は株式会社ゆうちょ銀行、生命保険に関する業務は株式会社かんぽ生命保険が行うこととなった。ただし政府保証のある定期性の郵便貯金や簡易生命保険契約については、独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構に継承された。なお、郵便局株式会社と郵便事業株式会社は2012年に統合して日本郵便株式会社となり、独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構は2019年に独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構(通称、郵政管理・支援機構)に名称変更された。

 郵政公社は、郵便事業、郵便貯金事業、郵便為替(かわせ)事業および郵便振替事業、簡易生命保険事業、印紙の売りさばきに関する業務、年金および恩給の支給その他国庫金の受入れ払渡しに関する業務などを総合的に行っていた。独立採算性の下、経営の採算性を重視する民間的な手法が取り入れられ、経営の自律化、効率化、弾力化が進められた。日本郵政公社法では、あまねく全国に郵便局の設置を義務づけること、公社が中期計画目標・計画を定め、総務大臣がその業績評価を行うこと、商品・サービスの具体的内容は、法令で規定する基本的事項の範囲で公社が定め、総務大臣が認可すること、企業会計原則を導入し、会計監査人の監査を義務づけることなどが定められていた。

 郵政公社は発足後、既存サービスの改善や新しいサービスの導入に力を入れ、郵便局内のコンビニエンス・ストア設置(公社発足に先駆け、コンビニエンス・ストアのローソン提携)、定形小包郵便物「EXPACK500」(全国500円一律の小包)の開始、配達時間の延長、ATM取扱時間の延長などを行い、国民の利便性の向上に努めた。なお、公社発足と同時に「民間事業者による信書の送達に関する法律」(平成14年法律第99号)が施行され、従来国が独占してきた信書の送達事業に民間企業の参入が認められた。具体的には、信書便の役務を提供する事業として、(1)一般信書便事業(全国全面参入型)、(2)特定信書便事業(特定サービス型)の二つの事業類型が設けられた(いずれも総務大臣の許可制)。同法施行以降、特定信書便事業については213社(2007年3月末時点)が参入したが、一般信書便事業については厳しい条件(ポスト約10万本設置、週6日以上配達、全国均一料金)のため参入がなく、実質的には郵政公社の独占領域となっていた。

 公社の組織は、役員に、総裁、副総裁2人、理事16人以内、監事3人以内が置かれていた(公社の役員および職員の身分は国家公務員)。初代総裁は、商船三井会長から転身した生田正治(いくたまさはる)(1935―2023)。資本金1兆2688億円。本社に、郵便、郵便貯金、簡易保険の3事業本部が置かれ、それぞれが独立採算で経営されていた。ほかに公社全体を横断的にみるため、監査、経営企画など七つの部門があった。地方組織は、地方支社として北海道、東北、関東、東京、南関東、信越、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄の13支社があった。郵便局は2万0218局、簡易郵便局は4356局、郵便ポストは約19万2300本、簡易保険加入者福祉施設が87か所、逓信病院14か所、職員総数は25万4177人であった(2006年度末)。

[編集部]

『金子秀明著『郵貯・郵便局の未来』(1993・東洋経済新報社)』『郵政民営化問題研究会編『郵政3事業 国営or民営――その是非を問う』(1997・日本リーダーズ協会)』『島崎忠宏著『郵政民営化は国を滅ぼす!――郵政事業をとりまく行政改革論議の検証』(1998・ジュピター出版)』『原田淳著『郵便局民営化計画』(2001・東洋経済新報社)』『池田実著『郵政民営化――郵便局はどこへ行く』(2001・現代書館)』『塩田潮著『郵政最終戦争――小泉改革と財政投融資』(2002・東洋経済新報社)』『松原聡監修『図解 郵政公社が見る見るわかる――公社化後の郵便局を見通すための77項』(2002・サンマーク出版)』『石井晴夫・武井孝介著『郵政事業の新展開――地域社会における郵便局の役割』(2003・郵研社)』『郵政公社法研究会編著『詳解 日本郵政公社法』(2004・ぎょうせい)』『滝川好夫著『郵政民営化の金融社会学』(2006・日本評論社)』『「財界」編集部編『郵政改革の原点――生田正治・日本郵政公社初代総裁4年間の軌跡』(2007・財界研究所)』『野村健太郎著『郵政民営化の焦点――「小さな政府」は可能か』増補新訂版(2007・税務経理協会)』『水野清・松原聡他著『「郵政民営化」小泉原案』(小学館文庫)』『中公新書ラクレ編集部編『論争・郵便局が消える日』(中公新書ラクレ)』『財部誠一他著『郵貯が危ない』(徳間文庫)』

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