通信および交通運輸の行政を総轄した官庁。1885年(明治18)12月、内閣制度の発足に伴って新設された。初代大臣は榎本武揚(えのもとたけあき)。駅逓局と管船局を農商務省から、電信局と灯台局を工部省から、それぞれ移管して発足。逓信という省名も、駅逓と電信から一字ずつとって新造されたといわれる。郵便のマークとして親しまれている〒も、87年2月に制定された。逓信省のかたかなの頭文字テを図案化したものである。当初の逓信省は、郵便、郵便為替(かわせ)および貯金、電信、海運の全般を管掌した。やがて1890年から電話事業を創始。92年から1909年(明治42)までは、鉄道行政も管轄した。また09年から電気行政、23年(大正12)から航空行政を管轄。さらに1916年10月には簡易保険、26年には郵便年金を創始した。
こうして膨大となった機構も、1943年(昭和18)11月、行政整理のため解体され、運輸通信省の新設とともに、通信院として、その外局となる。45年5月、逓信院と改称、内閣に移管されたが、46年(昭和21)7月にはふたたび逓信省として復活した。ただし、その所管は通信行政のみに縮小された。49年6月1日、郵政省と電気通信省に分割され、半世紀にわたる歴史を閉じた。さらに、郵政省は2001年(平成13)総務庁などと統合されて総務省となった。郵政事業は、2003年発足の国営公社「日本郵政公社」に引き継がれ、さらに、2007年同公社の民営化、分社化に伴い、日本郵政グループ各社に引き継がれていった。電気通信省は日本電信電話公社を経て1985年(昭和60)民営化され、日本電信電話株式会社となった。なお、逓信省の省名は、4月20日の逓信記念日や逓信総合博物館などの呼称として残っている。
[山口 修]
明治から昭和にかけての交通・通信行政の中央官庁で,のち電気・航空行政をも管掌した。1885年内閣制度実施とともに,工部省の電信,灯台,農商務省の駅逓,管船の各局管掌事務を引き継いで設置された。90年以降電話事業,93年以降官設・私設鉄道事業を管轄,陸上交通を含む広範な行政官庁となった。この間,とくに郵便・電信業務の近代化をはかり,日露戦争前後の時期にはほぼこれを完成した。1908年12月5日,鉄道監督行政は新設の鉄道院(内閣直属)に移り,23年航空局を陸軍省から引き継ぎ,民間航空事業の監督,育成を担当した。このころから電気事業の監督業務が大きな比重を占め,また郵便貯金,簡易生命保険の業務も拡張された(1920年貯金局,簡易保険局設置)。24年3月放送監督業務を開始,29年4月1日,日本航空輸送の東京,大阪,福岡間定期便開設に際して航空郵便の取扱いを開始した。太平洋戦争開始にともない船舶,船員などの業務を海務院に移し(1941年12月19日),42年11月には機構の簡素化が実施されたが,43年11月1日運輸通信省設置にともない,逓信省は廃止され,郵便,電気通信,郵便為替,郵便貯金,簡易生命保険,郵便年金などの業務は運輸通信省の外局として設置された通信院に移管,45年5月19日逓信院として内閣の管轄とした。戦後の46年7月1日逓信省として復活したが,49年郵政省と電気通信省(1952年8月日本電信電話公社に改組され,監督行政は郵政省に移管される)とに分割された。
執筆者:原田 勝正
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1885年(明治18)12月内閣制度発足にともない創設された中央官庁。当初は郵便・電信事業と海運業を統轄した。その後郵便貯金・電話交換事業を開始,鉄道行政を所管に加えた。1908年鉄道は新設の鉄道院に移管されたが,24年(大正13)航空事業,25年ラジオ放送の監督を行う。43年(昭和18)総力戦体制の強化を図るために海陸運輸を統合して鉄道省と合併,運輸通信省となった。郵政・電気通信事業は外局として新設された通信院が管掌。その後通信院が改称した逓信院が46年に逓信省に昇格(第2次逓信省),国際電気通信などを解体吸収した。しかし占領軍の意向に従って,49年6月郵政省と電気通信省(52年廃止)に分割された。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…郵政事業(郵便,貯金,簡易保険のいわゆる郵政三事業)を運営するとともに,電気通信行政を担当する行政機関。その歴史は1868年(明治1)設置の駅逓司,85年設置の逓信省にさかのぼるが,これが1949年郵政省と電気通信省に分割された。その後,52年電気通信省の主体は日本電信電話公社(現,日本電信電話(株))となり,郵政省は電波監理行政や日本電信電話公社の監督業務をも担当することとなり,今日に至っている。…
※「逓信省」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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