日本大百科全書(ニッポニカ) 「東北(能)」の意味・わかりやすい解説
東北(能)
とうぼく
能の曲目。三番目・鬘(かずら)物。五流現行曲。春の闇(やみ)に漂う梅の香と、恋愛歌人として名高い和泉(いずみ)式部の王朝の艶(えん)を二重写しとし、抽象化された演技に終始する、幽玄能の原点ともされる曲目である。東国の僧(ワキ、ワキツレ)が都に着き、所の者(間(あい)狂言)に東北院の門前の梅を和泉式部という名と聞いて眺めていると、里の女(前シテ)が呼びかけて、和泉式部の愛した軒端の梅であると教え、梅の主(あるじ)は自分と告げて消える。僧の読経のうちに、式部の亡霊(後(のち)シテ)が現れ、和歌の徳と仏法をたたえ、都の春をめで、美しく舞う。シテの性格を和泉式部の霊とする脚本と、梅の精のイメージを強く演出する流儀とがある。
[増田正造]
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