歴史物語(読み)レキシモノガタリ

デジタル大辞泉 「歴史物語」の意味・読み・例文・類語

れきし‐ものがたり【歴史物語】

歴史事実題材にした小説的作品
平安中期以後、歴史的事実に取材し、仮名文物語ふうに書かれた歴史書総称。「栄花物語」「大鏡」「今鏡」「水鏡」「増鏡」など。

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精選版 日本国語大辞典 「歴史物語」の意味・読み・例文・類語

れきし‐ものがたり【歴史物語】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 日本文学史上のジャンルの一つ。漢文で記述された「六国史」などの正史に対して、その歴史的事実をかな文で物語風に叙述したもの。「栄花物語」「秋津島物語」「月の行方」「池の藻屑」や鏡物(かがみもの)とよばれる「大鏡」「今鏡」「水鏡」「増鏡」などの作品がある。芳賀矢一が、これらの類を「歴史物語」と称したのにはじまる。
    1. [初出の実例]「藤原氏の後宮に育てられた文学は、藤氏栄華の有様を写すやうになって、栄華物語、大鏡など云ふ歴史物語が現はれて来ました」(出典:国文学史十講(1899)〈芳賀矢一〉五)
  3. 一般に、歴史的事実を題材にした小説的作品。歴史譚。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「歴史物語」の意味・わかりやすい解説

歴史物語
れきしものがたり

日本文学史上の一ジャンル。歴史に取材した物語の総称。作品としては、『栄花(えいが)物語』『大鏡(おおかがみ)』『今鏡』『水鏡』『増(ます)鏡』などがあり、これに『秋津島(あきつしま)物語』(作者不詳)、『月の行方(ゆくえ)』(荒木田麗女)、『池の藻屑(もくず)』(同上)を加える説もあり、これらをあわせると、神代から1603年(慶長8)まで一貫した物語となるが、『秋津島物語』以下の三作品は、鏡物の体裁を模倣して書かれているものの、厳密な意味では、歴史物語とはいえない。

 歴史物語は、摂関政治から院政へ移行していく時代を背景に発生した。当時の作り物語は、『狭衣(さごろも)物語』や『夜(よる)の寝覚(ねざめ)』などのように、『源氏物語』を模倣しながらも、それぞれに新生面を開いたものもあるが、総じて『源氏物語』を皮相的に模倣した作品が多く、非現実的、退廃的傾向を強め、衰退一途をたどりつつあった。このような時代に、新しい物語の世界を開拓したものとして、歴史物語が登場してきたが、その発生を促した要因の一つに、『源氏物語』の物語論がある。それは、事実そのものよりも虚構世界にこそ人間の真実があるとする主張で、これを受けて、『栄花物語』の作者は、虚事(そらごと)でない事実=歴史を物語の世界に全面的に持ち込んで、人間の真実を描こうとしたが、歴史と物語とを性急に統一融合しようとしたため、作者の考えたようにはいかなかった。しかし、『栄花物語』の出現は、人間を描いて歴史の真実に迫ろうとする『大鏡』成立の契機となり、さらに『今鏡』以下の作品を簇出(そうしゅつ)させた。

 歴史に取材したとはいえ、歴史物語はかならずしも史実を忠実に客観的に叙述したものではなく、作者の意図によって、事実を歪曲(わいきょく)したり、虚構を用いたりしていて、これを歴史書と同等に扱うことはできない。概していえば、慈円(じえん)が史論書『愚管抄(ぐかんしょう)』のなかでいっているように、歴史物語は「ヨキ事ヲノミ」書き記したものであり、王朝貴族社会とその文化に対する賛美と憧憬(しょうけい)の精神を基調として書かれている。

[竹鼻 績]

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百科事典マイペディア 「歴史物語」の意味・わかりやすい解説

歴史物語【れきしものがたり】

仮名文で書かれた物語風の歴史叙述また歴史を素材とした物語の総称。平安後期の《栄花物語》を初めとして南北朝時代までに多く現れた。鏡ものと呼ばれる《大鏡》《今鏡》《水鏡》《増鏡》などに代表される。《大鏡》《今鏡》は別名を《世継(よつぎ)物語》《続世継物語》とも呼んだ。
→関連項目軍記物語文学

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「歴史物語」の意味・わかりやすい解説

歴史物語
れきしものがたり

日本文学において,宮中を中心とする歴史を和文で書いたもの。作品としては『栄花物語』『大鏡』『今鏡』『水鏡』『増鏡』『秋津島物語』『月の行方』『池の藻屑』などがある。『栄花物語』は『源氏物語』に刺激されて,藤原道長の栄華を中心に,六国史を書き継ぐ意味から,宇多天皇から堀河天皇にいたる宮廷史を編年体で記し,『大鏡』は同じく藤原道長の栄華,人物を中心にするが,文徳天皇から後一条天皇にいたる歴史を列伝体で記す。『今鏡』以下の作品はいずれも形態は『大鏡』を踏襲し,内容も順次書き継ぐ形になっているが,歴史的事象に対する書き手の態度はむしろ『栄花物語』に近く,『大鏡』の批判的精神よりは,過ぎ去った王朝の栄華に対する主情的詠嘆を基調にしている。文学的には中世にいたって意味を失い,同じく歴史的事件を素材とする軍記物語にあとを譲り,南北朝の『増鏡』がわずかに評価されるにすぎない。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「歴史物語」の解説

歴史物語
れきしものがたり

平安末期から書かれた漢字仮名交りの物語的な歴史記述。物語風史書ともいう。この名称は昭和期に芳賀矢一により使われはじめるが,それ以前は世継(よつぎ)などといわれた。藤原道長の栄華を編年体で記した「栄花物語」がそのはじめとされる。その後,鏡物とよばれる「大鏡」「今鏡」「水鏡」「増鏡」と歴史物語が多く残された。それまでの歴史書が漢文体で史実のみを記したのに対し,仮名によっていきいきとした描写が可能になり,歴史上の人物の内面まで描かれるようになった。史実に忠実に語られていて,軍記物語やある特定の主張が強く説かれている史論書などとは別に扱うのが一般的。

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旺文社日本史事典 三訂版 「歴史物語」の解説

歴史物語
れきしものがたり

歴史的事実に立って,和文で物語風に書いた史書
『源氏物語』などの文学作品の盛期が終わったころ,六国史風の漢文の歴史にかわって出現。『栄華物語』を先頭に『大鏡』『今鏡』『水鏡』『増鏡』の四鏡などをさす。作者は今のところ全部不明であるが,政治の中枢に関係のあった貴族の筆になると考えられ,その視点からの歴史の動きの観察として貴重である。

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