民事保全法(読み)ミンジホゼンホウ

デジタル大辞泉 「民事保全法」の意味・読み・例文・類語

みんじ‐ほぜんほう〔‐ホゼンハフ〕【民事保全法】

民事訴訟本案権利実現を保全するための仮差し押さえおよび仮処分などについて定めている法律。平成元年(1989)制定、同3年施行。→民事訴訟法

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「民事保全法」の意味・わかりやすい解説

民事保全法
みんじほぜんほう

仮差押えと仮処分の裁判を規律する法律で、1989年(平成1)に制定された(91年施行)。同法制定以前は、講学上、仮差押え・仮処分は保全処分とよばれ、民事訴訟法と民事執行法に分かれて規定されていたが、制定後は民事保全(民事保全法1条)として統合された。

 民事保全法は、人事訴訟を含む民事訴訟における本案の権利などを保全するための手続を定めるが、民事訴訟の本案の権利の実現が不能または困難になることを防止し(同法20条1項)、あるいは民事訴訟の本案の権利関係について争いがあるためにその権利を主張する者に生じる危険や不安を除去するために(同法23条2項)、暫定的に法律関係を形成することを目的とする。同法は、総則(第1章)、民事保全の命令を発令する保全命令の手続(第2章)、保全命令の執行に関する保全執行の手続(第3章)、仮処分の効力(第4章)から構成されている。

 保全命令の裁判は、債権者の申立てにより行われる。申立ての趣旨(どのような仮差押えまたは仮処分を求めるか)、保全すべき権利または権利関係、保全の必要性を明らかにして申立てをしなければならず、保全すべき権利または権利関係、保全の必要性は疎明(そめい)(いちおうの証明)しなければならない(同法13条)。民事保全の手続に関する裁判は、口頭弁論を経ないですることができ(同法3条)、決定により行われる(同法16条)。

 保全命令に対しては、債務者は、その命令を発した裁判所保全異議を申し立てることができる(同法26条)。裁判所は、保全異議を審理した結果、保全命令を認可し、変更し、または取り消さなければならない(同法32条)。また、保全命令は本案の係属を前提とするから、裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対して、相当と認める期間内に本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面の提出などを命じなければならない(同法37条1項)。その期間内に債権者が書面を提出しなかったときは、裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令は取り消さなければならない(同法37条3項)。また、保全されるべき権利などが消滅したような事情の変更がある場合には、保全命令を発した裁判所または本案の裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消すことができるし(事情変更による取消し、同法38条)、仮処分命令により償うことのできない損害が生ずるなどの特別の事情がある場合には、仮処分命令を発した裁判所または本案裁判所は、債務者の申立てにより、担保をたてることを条件として仮処分命令を取り消すことができる(特別の事情による保全取消し、同法39条)。なお、これら保全異議の申立ての裁判、本案の不提起などによる保全取消し申立ての裁判に対しては、保全抗告を提起することができる(同法41条1項本文)。

 保全命令には、仮差押え命令と仮処分命令がある。仮差押え命令は、金銭の支払いを目的とする債権を保全するためのものである(同法20条)。仮処分命令には、係争物に関する仮処分命令(同法23条1項)と仮の地位を定める仮処分命令(同法23条2項)がある。民事保全の執行は、保全命令の正本に基づいて実施される(同法43条1項)。仮差押えの執行は、不動産では仮差押えの登記または強制管理の方法により(同法47条)、動産では執行官の占有などによる(同法49条)。また、仮処分命令の執行は、その態様に応じて民事保全法に定められている(同法52条以下)。

[加藤哲夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「民事保全法」の意味・わかりやすい解説

民事保全法 (みんじほぜんほう)

民事保全(仮差押えと仮処分)に関する法律(1989年公布,1991年施行)。それまで民事訴訟法民事執行法に分かれて置かれていた保全処分に関する規定を統合し,独立の単行法として制定された。内容的には民事保全の命令手続と執行手続を規定し,決定による迅速な手続を原則とする。仮処分の効力規定の整備,その他制度上あるいは解釈上問題となっていた多くの点について立法的に解決を与えた。

 民事保全法第1条は〈民事訴訟の本案の権利の実現を保全するための仮差押え及び係争物に関する仮の地位を定めるための仮処分(以下〈民事保全〉と総称する。)について,他の法令に定めるもののほか,この法律の定めるところによる〉と規定している。ふつうに民事保全というときは,この民事保全上の仮差押えと係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分を指し,これを狭義の民事保全とよぶ。民事保全の手続は,保全命令に関する手続と保全執行に関する手続の2段階に分かれ,前者は保全命令の申立ての当否を審理して保全命令を発するべきかどうかを判断する裁判手続であり,後者は発せられた保全命令に基づいてその内容を実現する執行手続である。

 保全命令(仮差押命令および仮処分命令)は債権者の申立てにより裁判所が発する(民事保全法2条1項)。保全命令の申立ては,申立ての趣旨ならびに保全すべき権利または権利関係(被保全権利)および保全の必要性を明らかにしてしなければならない(13条)。申立ての趣旨とは債権者が求める保全命令の内容をいい,仮差押命令の申立ての場合は仮に差し押さえる物を特定して記載しなければならない。保全命令の審理は,被保全権利および保全の必要性が審理され,債権者はこの二つの存在を疎明しなければならない。保全執行(仮差押えの執行,仮処分の執行)は保全命令の正本に基づいて実施される。仮差押えの執行は,債権者の申立てにより裁判所または執行官が行う。裁判所は不動産の仮差押えおよび債権その他の財産権に対する仮差押えの執行をし,執行官は動産の仮差押えの執行をする。仮処分の執行は,仮差押えの執行または強制執行の例によるのが基本であるが,民事保全法53条以下に仮処分執行に関する重要な特則も定められた。処分禁止の仮処分は,債務者に対し,その者に属する物や権利について,譲渡・質権・抵当権・貸借権の設定その他いっさいの処分を禁ずる仮処分である。占有移転禁止の仮処分は,債務者に対し,物の占有を他人に移転しないよう命ずるとともに,執行官にその物を保管させる旨を命ずるという内容である。

 民事保全法は,保全命令を申し立てた債権者の主張が本来の裁判手続である民事訴訟によって最終的に処理されるまでの応急の仮救済の手段を定めた法律であり,本案訴訟である民事訴訟の付随手続である。
保全訴訟
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百科事典マイペディア 「民事保全法」の意味・わかりやすい解説

民事保全法【みんじほぜんほう】

民事保全(仮差押え仮処分)に関する法律(1989年公布,1991年施行)。それまで民事訴訟法民事執行法に分かれて置かれていた保全処分に関する規定を統合し,独立の単行法として制定された。内容的には民事保全の命令手続と執行手続を規定し,決定による迅速な手続を原則とする。仮処分の効力規定の整備,その他制度上あるいは解釈上問題となっていた多くの点について立法的に解決を与えた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「民事保全法」の意味・わかりやすい解説

民事保全法
みんじほぜんほう

平成1年法律 91号。民事訴訟法の仮差押えおよび仮処分と民事執行法の仮差し押さえおよび仮処分の執行において規定されていたものを統合し,さらに仮処分の効力を含めた仮差し押さえおよび仮処分についての基本となる法律。仮差し押さえ,仮処分その他の必要な保全処分は,ほかの法律に多数あるが (破産法の破産宣告前の保全処分,家事審判法の審判前の保全処分など) ,民事保全法の対象となるのは,民事訴訟の本案の権利の実現を保全するための仮差押えおよび係争物に関する仮処分ならびに民事訴訟 (人事訴訟手続を含む) の本案の権利関係についての仮の地位を定める仮処分 (これらが「民事保全」と総称される) にかぎられ,特殊保全処分は除外される。

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