(読み)イ

デジタル大辞泉 「夷」の意味・読み・例文・類語

い【夷】[漢字項目]

人名用漢字] [音]イ(呉)(漢) [訓]えびす
古代中国で、東方未開人の称。また一般に、異民族未開の民族。「夷狄いてき華夷攘夷じょうい征夷東夷蛮夷
平らで低い。「平夷
滅ぼし平らげる。「焼夷弾
[名のり]ひな・ひら
難読蝦夷えぞ蝦夷えみし

えびす【×夷/×戎】

《「えみし(蝦夷)」の音変化》
蝦夷えぞ」に同じ。
「その国の奥に―といふものありて」〈今昔・三一・一一〉
都から遠く離れた未開の土地の人。田舎者。
「かかることは―、町女まちめなどこそいへ」〈栄花・浦々の別〉
情趣を解しない荒々しい人。特に、東国の荒くれ武士。あずまえびす。
「―は弓引くすべ知らず」〈徒然・八〇〉
異民族を侮蔑ぶべつしていう語。蛮夷ばんい
「―のこはき国あり。その―、漢に伏して」〈徒然・二一四〉

い【×夷】

《昔、中国で未開人、蛮族をさしていった語から》異民族。えびす。

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精選版 日本国語大辞典 「夷」の意味・読み・例文・類語

えびす【夷・蝦夷・戎】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「えみし(蝦夷)」の変化した語 )
  2. 古代のアイヌ。えぞ。えみし。
    1. [初出の実例]「わが思ふ人だにすまばみちのくのえびすの里もうとき物かは」(出典:秋篠月清集(1204頃)上)
  3. 都から遠く離れた未開人。野蛮人。異国人。
    1. [初出の実例]「遠く西の戎(えびす)を誅(つみな)ふに」(出典:肥前風土記(732‐739頃)総記)
  4. ( おもに京都から東国をさして ) 情趣を解しない田舎者。荒々しい武士。東蝦夷。
    1. [初出の実例]「夷(えびす)は弓引く術(すべ)知らず」(出典:徒然草(1331頃)八〇)
  5. 外国、未開の地。また、そこに住む人。蛮夷(ばんい)。戎狄(じゅうてき)
    1. [初出の実例]「えびすなりとも、わが宮をばとおぼしつつ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲下)
    2. 「勅を奉(うけたまはり)て夷域(えびすのさかひ)に行く」(出典:今昔物語集(1120頃か)九)

夷の語誌

( 1 )エミシ→エミス→エビス、と変化したもの。平安時代初期には既に「えびす」が一般的になっていたようである。
( 2 )坂上田村麻呂らの征討を経て、平安初期には、大和朝廷に敵対する勢力ではなくなったため、徐々に政治的意味あいが薄れて文化的な側面が強調されるようになった。
( 3 )の意では平安中期以降、「えぞ」が用いられるようになる。
( 4 )江戸時代になると、「えびす」は、文語として意識され、「えびす男」「えびす心」等、複合語の中に残るか、または雅語的な表現の中にのみ用いられ、日常語ではなくなる。要因としては、今日同語源ともいわれる七福神の「えびす」との同音衝突が考えられる。


い【夷】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 昔、中国で王化の及ばない地方の人をさげすんで称したことば。特に東方の人をさすが、一般に遠国の民族の総称としても用いられる。蛮人。えびす。
    1. [初出の実例]「惟夏惟夷、娯楽至矣」(出典:菅家文草(900頃)一・早春侍内宴、同賦無物不逢春)
    2. [その他の文献]〔礼記‐王制〕
  3. 無色。
    1. [初出の実例]「老子の夷〈無色〉希〈無音〉微〈無形〉之三字を挙(あげ)て」(出典:破提宇子(1620)初段)
    2. [その他の文献]〔老子‐一四〕

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普及版 字通 「夷」の読み・字形・画数・意味


人名用漢字 6画

[字音]
[字訓] えびす・たいらか・きずつく

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 象形
初文は尸(し)。人が腰をかがめて坐る形。〔説文〕十下に「らかなり。大に從ひ、弓に從ふ。東方の人なり」とするが、訓義と字形の関係が明らかでない。金文の字形は弓に従わず、尸に近い。夷人の坐りかたを示す。

[訓義]
1. えびす、東方の族、うずくまる。
2. のち字を夷に作る。夷は矢に(いぐるみ)を加えた形。夷居の意に用いて、たいらか、たやすい、大きい。
3. 痍に通じて、きず、きずつく。
4. 怡・に通じて、よろこぶ。
5. に通じ、のぞく。
6. 尸に通じ、つらねるの意となる。

[古辞書の訓]
〔字鏡集〕夷 エビス・ウズヰ・タヒラカナリ・タヒラグ・ヤスシ・ナラス・ヒトシ・コロス・ヤブル・ホロボス・ナヤマフ(ス)・アハク・ワキマフ・ツネニス

[声系]
尸sjiei、夷jieiは古声近く、夷は頭音sの脱落した形。夷声の字に・洟・・痍・銕があり、銕は鐵(鉄)thyetの異文で、夷にその声がある。

[語系]
尸・矢sjieiは同声で、矢はつらねる意。雉・thyeiは声近く、雉はつらねる、はなぐ、ころす。・痍jieiは夷と同声、はたいらか、痍は傷つくの意。〔儀礼、士喪礼〕の「夷衾」は尸を覆う衾、〔周礼、天官、凌人〕の「夷槃の冰」は尸の盤に用いる冰をいう。

[熟語]
夷易・夷懌・夷説・夷夏・夷簡・夷居・夷険・夷堅・夷言・夷荒・夷寇・夷曠・夷考・夷傷・夷世・夷則・夷族・夷泰・夷坦夷狄・夷殄・夷道・夷貊・夷槃・夷靡・夷泯・夷昧・夷滅・夷愉・夷由・夷猶・夷与・夷戮・夷路
[下接語]
遐夷・外夷・希夷・九夷・曠夷・四夷・戎夷・焼夷・傷夷・攘夷・征夷・清夷・翦夷・創夷・島夷・夷・明夷・陵夷

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改訂新版 世界大百科事典 「夷」の意味・わかりやすい解説

夷/恵比須 (えびす)

七福神の一神として,福徳を授ける神とされ,家の台所や茶の間にまつられることが多い。春秋の夷(えびす)講には,財布にお金を入れて供えるなど商業神としての性格が強いが,農村では,竈(かまど)神や荒神こうじん)信仰と習合して,稲の豊作をもたらす田の神の性格をも兼ねる。田植後のサナブリ,刈上祭に稲苗や稲の穂を供える地方もある。漁村では豊漁をもたらす神とされ,海岸や岬などに祠(ほこら)を設けてまつることが多い。特定の年齢の若者が,海底から小石を拾い上げてきて神体としたり,漁網に入った石などを神体とするなど,海から漂着した物を神体とする地方もある。魚群を追って岸近くにやってきたクジラ・サメ・イルカなどを〈えびす神〉として尊敬する風習もあり,クジラの胎児を海岸に埋葬してえびす神としてまつったという伝承がある。海から川に遡上するサケを捕るときに,〈エビス〉と声をかけながら殺すという伝承も秋田県などにある。また,漂流する水死体を拾うと,豊漁に恵まれるといった伝承があって,流れ仏をえびす様と呼ぶこともあった。

 えびすの神像は,釣竿を持ち,脇に釣り上げた魚を抱えた姿であるが,このえびすの本社は,兵庫県西宮市の西宮神社(夷社)とされている。西宮の夷社は夷三郎とも呼ばれ,天照大神をまつる広田社の摂社であった。広田社には,複数の摂社が置かれていたが,夷社は大国主命もしくは蛭児(ひるこ)をまつり,三郎社は事代主命をまつるとされた。三郎殿とされた事代主命は,出雲神話の大国主命の子であり,出雲の美保崎で魚を釣っていたという古伝承から,魚と釣竿を持った姿で描かれたのであろう。室町時代には,この2神は混同されて,夷三郎という1体の神と考えられるようになり,各地に広まったものである。えびすの語は〈えみし〉とともに異民族を意味し,夷,戎,辺などの字が当てられていて,古くは東北地方の蝦夷(えぞ)だけでなく,海辺や島などの辺境に住む者たちをも〈えびす〉と称していた。大国主命が夷社にまつられたのは,天孫系と対立した出雲系の神であったためとも考えられるが,辺境者(海に基盤を有する)の神としての性格にかかわるものであろう。《源平盛衰記》剣巻には,生後3年たっても足の立たない蛭児が海に流し捨てられ,摂津国に漂着して海を領する神となり,夷三郎殿としてまつられたとされている。海を生活の基盤としてきた海人(あま)などの信仰によって成立した縁起であると考えられる。また,海の彼方に死者の国や常世の国を想定してきた,海上他界への信仰にも関連を有するのであり,漂流物をえびすと称する漁民の信仰によっていると考えられ,厄を福に転化することのできる力を海上他界に認めたものであろう。

 えびす信仰の伝播には,中世以降の商業の発展との関連が考えられる。狂言には,えびすをまつって富を得た主題がとりあげられている。また一方では,百太夫を信仰する傀儡(くぐつ)師によっても広められたと考えられ,えびすの人形を舞わせて歩く夷まわしは,明治時代まで見られた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「夷」の意味・わかりやすい解説


えびす

古くは「えみし」といい,異民族を意味する語であった。西南地方の異民族は,比較的早く同化されたが,東北地方の蝦夷 (えぞ) だけが,長く同化せず,異民族として残ったため,「夷」が「蝦夷」をさす語となった。蝦夷のうち,帰順して内地に移された俘囚や東国武士も夷と呼ばれた。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【淡路人形】より

…文楽と同じく義太夫による三人遣いだが,人形がひと回り大きく,徳島県の阿波人形と同系である。淡路人形の起源については諸説があるが,大阪湾を隔てた摂津の西宮戎(えびす)神社を基盤に生まれたもののようである。戎神社は海神えびす神をまつる社で,古く水辺を漂泊していた傀儡(くぐつ)の流れをくむ集団が,そのえびす神を表現した人形を舞わして,人々の息災福運を祈った。…

【七福神】より

…福徳をもたらす神として信仰される7神。えびす(夷,恵比須),大黒天毘沙門天(びしやもんてん),布袋(ほてい),福禄寿,寿老人,弁才天の7神をいうが,近世には福禄寿と寿老人が同一神とされ,吉祥天もしくは猩々(しようじよう)が加えられていたこともある。福徳授与の信仰は,狂言の《夷大黒》《夷毘沙門》などにもみられ,室町時代にはすでに都市や商業の発展にともなって広まっていたものと思われる。…

【職業神】より

…人はいろいろの仕事をして暮しをたてるが,その仕事が順調であるように神の加護を求める。キリスト教徒の間でも,職業集団によって特定の守護聖人を崇敬することがあるが,日本ではことに,生業によりさまざまな神がまつられてきた。 農民のあいだでは,稲作を守護してくれる神として田の神をまつる。田の神は地域によって作神,農神,百姓神,地神,亥の神などと呼ばれそのまつり方もちがうが,一般に田の神といえばある定まった田を祭場に,石や木をもってまつる形が多い。…

【タイ(鯛)】より

…料理としては刺身,塩焼き,潮汁,ちりなべ,蒸物,あら煮など,頭やあらまでを用いてさまざまに使われるが,1785年(天明5)刊の《鯛百珍料理秘密箱》には同工異曲のものが多いとはいえ,99種の料理が紹介されている。産地としては古来摂津西宮(現,兵庫県西宮市)や播磨の明石(現,兵庫県明石市)などが有名で,西宮の海,あるいはより広く大阪湾を含めた海域でとれたものは西宮戎(にしのみやえびす)(西宮神社)の前の鯛の意で,〈前の鯛〉〈前の魚(うお)〉と呼ばれて珍重された。なお,江戸には〈活鯛屋敷(いきだいやしき)〉と呼ぶ施設があった。…

【流れ仏】より

…船乗りや漁師の言葉で海の水死体のこと。ゴロウジ(長崎県),ウミボトケ(高知県)ともいう。漁師たちは難破して行方不明になることを死ぬことより不幸と考えた。流れ仏を見つけると必ずつれ帰るというのが船乗りや漁師のきまりであった。見捨てた人は不幸に見舞われるという。拾いあげるのに作法があって,だまって取舵(左玄)からあげ面舵(右玄)から下ろすという(広島県豊町)。高知県鵜来島では流れ仏と豊漁の問答をしてのちにあげるという。…

【初漁祝】より

…その年の初めての出漁のときに行われる行事で,初漁でとった魚を,漁の神であるえびすや,船霊(ふなだま)あるいは氏神などに供える。一般には2尾の魚を供えることが多いが,これらの魚をオハツオとかニアイ,ハツウオなどと呼んでおり,一般の人には食べさせず,老人やカシキに限るという所もある。…

【漂着神】より

…漂着神としてまつられてきたものには,流木や舟をはじめ,酒樽,玉藻,ワカメ,鯨,タコ,白鳥など,日ごろ海辺に打ち上げられるものが多い。漁村で大漁の神としてまつられるえびすもまた,漂着神的要素を強くもっている。各地で行われる浜降り祭や磯出祭は,ムラ中の神社の神輿を浜にかつぎ出す行事が中心となっているが,この行事を伝承する神社の神体には,漂着神伝承をもつものが多く,神輿の浜出は,カミが漂着したとされる浜と密接に関係している。…

【耳】より

…脊椎動物の頭部にある有対の感覚器官で,平衡覚と聴覚をつかさどる。ふつう〈耳の形〉などというときには,哺乳類の頭の両側に突出した耳介を指すが,解剖学的にいえば耳には内耳,中耳,外耳の3部分が含まれる。内耳は刺激を受容する中心的部分で,最も奥深く位置し,進化的にみて最も由来が古く,すべての脊椎動物が例外なく備えるものである。内耳の実質をなすのは〈迷路〉と呼ばれる複雑な囊状の構造で,これは動物のグループによってかなり異なるが,一般的には〈卵形囊〉とそれに付属した半円形の管である〈半規管〉,および〈球形囊〉とそれから伸びた〈蝸牛(かぎゆう)管〉という4部の中空の小囊から成る(ただし下等脊椎動物は蝸牛管をもたない)。…

【留守神】より

…神無月(かんなづき)(旧暦10月)には,日本中の神々が出雲の出雲大社に集まるという伝えが平安時代からあるが,そのとき留守居をするという神がある。一般には,オカマサマあるいは荒神(こうじん),恵比須,大黒,亥子(いのこ)の神を留守神としているところが多く,これらの神は,家屋に定着した家の神である点で共通する。武蔵の総社である六所明神(大国魂神社)や信濃の諏訪明神(諏訪大社)など,各地の大社には,神の本体が蛇なので出雲に行かないという伝えがある。…

※「夷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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