神前の大釜(おおがま)に湯を沸かして神意を問い、笹(ささ)を振りつつ湯を周りに振りかける清め祓(ばら)いの行事。「ゆたて」「ゆだち」ともいう。古代には「盟神探湯(くかたち)」という行事があり、神前で沸かした熱湯を手で探らせ、真偽正邪の判断を行った。中世には「湯起請(ゆぎしょう)」とよばれる一種の神判があり、盗みなどの実否をただすために熱湯に手を入れさせて判定した。湯立を問湯(といゆ)とよぶ所もあるように、神意を問う方式であったことを示す。神意を問うことを目的とした湯立は、島根県の美保神社で春の節分祭にかつて行われた湯立神事が名高く、一年神主とよばれる頭人が湯釜の中に入って神がかりとなり、託宣をした。修験道(しゅげんどう)に取り入れられた湯立は、修験者の験力を示す行法にもなり、また神楽(かぐら)と結び付いて湯立神楽として芸能化した。
[渡辺伸夫]
〈ゆたち〉ともいう。神前に大釜をすえ湯をわかし,巫女(みこ),神職,修験者などが手に笹をもち,それを釜の熱湯にひたし,自身や周囲の人々にふりかける儀礼。現在ではふりかけられる湯は清め祓いの機能をもつと考えられ,また神楽と結びついた湯立神楽は各地にみられる。古くは湯立のことを問い湯とも呼び,卜占の一種とされていた。神前で湯気をたちこめさせることは,巫女などを神がかりの状態にさせ,託宣(たくせん)をうかがうためのものであった。古代の盟神探湯(くかたち)も神意を問うためのものであり,のち,これを湯起請(ゆぎしよう)といった。中世ではこれが見物の対象となっていたことが,《康富記》宝徳3年(1451)9月29日条の粟田口神明の湯立の記事からうかがうことができる。
執筆者:西垣 晴次
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