デジタル大辞泉
「溜」の意味・読み・例文・類語
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たまり【溜】
- 〘 名詞 〙 ( 動詞「たまる(溜)」の連用形の名詞化 )
- ① 水などが流れて行かずに集まること。また、そのものやその所。また、代金などを支払わずにためたもの。
- [初出の実例]「中島に、水のたまりに、鳰といふ鳥の心すごく鳴きたるを聞き給て」(出典:宇津保物語(970‐999頃)藤原の君)
- 「おれが遊びのたまりを、おぬしの物で済ましては、どうも義理が」(出典:歌舞伎・絵本合法衢(1810)五)
- ② 建物の軒下につくられた、雨水などを流す溝。
- [初出の実例]「若為二大雨一者、可レ張二雨皮一也〈此定と云は、有二檐溜一の程也〉」(出典:台記‐保延二年(1136)一〇月一一日)
- ③ 人の集まる場所。
- (イ) 人が集まって控える場所。控室。待合所。
- [初出の実例]「浪人衆一味にて野間をしつらひ、浪人衆のたまりにいたし候へども」(出典:赤松記(1588))
- (ロ) 江戸時代、奉行所へ出頭した者の控えている場所。
- [初出の実例]「ヤア老人、明日死罪に行ふ大作、溜(タマリ)にひかへ最後に逢て立帰れ」(出典:浄瑠璃・日高川入相花王(1759)三)
- (ハ) =ため(溜)②
- [初出の実例]「道普請で〈略〉砂利や土を担ぐのも、溜(タマリ)へ下る病人を〈略〉担ぐも、もっこう担ぎに替りはねえ」(出典:歌舞伎・日月星享和政談(延命院)(1878)五幕)
- (ニ) 相撲の土俵下の、審判委員・行司・力士などが控えるところ。土俵だまり。
- [初出の実例]「今度は玉が先に立って、溜(タマ)りへ行って鼻汁(はな)をかむ」(出典:東京年中行事(1911)〈若月紫蘭〉一月暦)
- ④ 味噌からしたたった液汁。古くは醤油のように調味料として用いた。〔日葡辞書(1603‐04)〕
- ⑤ 醤油の一種。大豆を煮て種麹(たねこうじ)を混ぜて発酵させた豆麹に、塩と水を加えた中に漉(こ)し籠を立てて、その中にためた液を熟成させた調味料。多く、刺身などの付け醤油として用いる。たまり醤油。〔俳諧・毛吹草(1638)〕
- ⑥ 堪え支えること。こらえ保つこと。→ひとたまり。
- [初出の実例]「既に北条衆百に上杉衆二千にて、少もたまりなく上杉衆まくるときく」(出典:甲陽軍鑑(17C初)品二六)
- ⑦ 見物席をいう、人形浄瑠璃社会の語。
- [初出の実例]「婆々や年よりの見物を見ては、けふのたまりには、とちへもんと、よりとばっかりと云ひ」(出典:浮世草子・当世芝居気質(1777)一)
ため【溜】
- 〘 名詞 〙 ( 動詞「ためる(溜)」の連用形の名詞化 )
- ① ためること。また、ためておくところ。
- (イ) 特に、ゴルフ、野球などで瞬発力をためておくこと。「溜めのないバッター」「バックスイングに溜めを作る」
- (ロ) 特に、糞尿をためておくところ。こえだめ。
- [初出の実例]「どぶろくの生酔ためへころげ込み」(出典:雑俳・柳多留‐八(1773))
- (ハ) 溜井、溜池など。
- [初出の実例]「かすがいに古枝もすてず大桜〈楓子〉 溜めを樋守のひらく春雨〈其角〉」(出典:俳諧・焦尾琴(1701)風)
- ② 江戸時代、江戸で病気の囚人または一五歳未満の囚人を収容した牢屋。品川と浅草の二か所にあり、非人頭の管理に委ねられ、手代、上番人、小屋頭、鍵番などの役職が置かれた。溜医師が病囚の治療に当たったが、それ以外の取り扱いでは、小伝馬町牢屋とほとんど異ならなかった。非人溜。たまり。
- [初出の実例]「溜預け之事 牢舎申付候ものを最初より溜え遣間敷候」(出典:徳川禁令考‐後集・第四・巻三三・享保七年(1722)五月)
- ③ 他家から贈答品を持って来た使いの者に与える金銭や物品。ためせん。ためがみ。おため。
- [初出の実例]「包銭十文づつ溜(タメ)にいただいて帰り」(出典:浮世草子・世間手代気質(1730)三)
- ④ 狸の糞。〔日葡辞書(1603‐04)〕
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
普及版 字通
「溜」の読み・字形・画数・意味
溜
人名用漢字 13画
(異体字)澑
15画
[字音] リュウ(リウ)
[字訓] たまりみず・したたり・はやせ・ためる
[説文解字]
[字形] 形声
声符は留(りゆう)。留は流した水を溜めて、に供する意。〔説文〕十一上に川の名とするが、本義は溜り水。〔晏子、雑上七〕に「蚤(さうさい)、溜水至りて廣門に入る」とみえ、洪水の流するものをいう。〔左伝、宣二年〕「三たびみて溜にぶ」とは霤(りゆう)。雨水の堕ちる軒下をいう。胃のつかえがとれることを、溜飲が下がるといい、長嘆息することをわが国では溜息(ためいき)をつくという。
[訓義]
1. たまりみず、水溜り。
2. したたる、したたり、あまだれ、あまだれおち、しずく。
3. ながれ、はやせ。
4. 字はまた霤に作る。
5. 国語で、たまる、ためる。
[古辞書の訓]
〔立〕溜 モリ・シタタリ・アマシタリ
[語系]
溜・留・霤・(流)liuは同声。留は田地などの溜り水。その水を溜めるところは溜池。流れる水は、屋霤におちるものを霤という。
[熟語]
溜雨▶・溜光▶・溜水▶・溜達▶・溜滴▶・溜氷▶・溜明▶・溜溜▶・溜亮▶
[下接語]
雨溜・檐溜・簷溜・屋溜・寒溜・乾溜・急溜・暁溜・決溜・軒溜・懸溜・山溜・残溜・瀉溜・蒸溜・燭溜・水溜・石溜・雪溜・泉溜・中溜・墜溜・滴溜・瀑溜・飛溜・微溜・氷溜・伏溜・碧溜・奔溜・涌溜
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
溜 (ため)
江戸時代における拘禁施設の一種で,病監かつ少年監。江戸では浅草と品川の2ヵ所にあり,町奉行の監督下,非人頭(ひにんがしら)が管理したので非人溜とも呼んだ。溜への収容を溜預(ためあずけ)(預)といい,入牢中の重病人や無宿の行き倒れ,あるいは15歳に達すれば遠島(えんとう)に処せられるべき幼年者が預け入れられた。処遇は牢屋よりもやや緩和され,病囚には毎日町医が脈をとる程度の診察を行ったが,溜内の衛生状態は劣悪であったという。
執筆者:加藤 英明
溜 (たまり)
みそだまり,あるいは,たまりじょうゆの略であるが,現在では後者をいう。みそだまりは,みそを仕込んだのち桶の底などにたまってくる浸出液で,これを汲み取って料理に用いたことから,しょうゆがつくられたとされる。たまりじょうゆは,一般のしょうゆがほぼ同量のダイズとコムギを使うのに対して,ダイズの割合を大きくしてつくるもので,黒くとろりとして濃厚な味をもち,刺身のつけじょうゆなどに用いられる。名古屋地方で発達したものだが,現在の生産は少ない。
→醬油(しょうゆ)
執筆者:鈴木 晋一
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溜【たまり】
かつてはみそを仕込んだのち,桶の底に浸出した液を溜といい,醤油(しょうゆ)の起源ともなった。現在では小麦を用いずほとんど蒸したダイズだけで麹(こうじ)を作り,食塩水に仕込んで発酵,熟成させて作った醤油をいう。愛知,三重,岐阜が主産地。普通の醤油より味が濃厚で独特の風味がある。
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世界大百科事典(旧版)内の溜の言及
【預】より
…盲人以外の身体障害者も追放刑に代えて親類預とし,あるいは知人,村役人に預けた。溜預(ためあずけ)というのは[溜]に収容することで,入牢中の病人を移したり,あるいは遠島刑を科すべき幼年者で親類預ができない場合などに見られた。未決勾留中の者が脱走すれば,吟味中の犯罪に科せられるべき刑より一等重く罰した。…
※「溜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」