熱エネルギーが機械的エネルギーに変換されるときの旧単位系での単位の違いを補正する修正係数。両方のエネルギーを同じ単位で測定すれば1になる。昔は熱は物質と考えられていたが、1798年イギリスのベンジャミン・ランフォードは大砲の穴を切削するときに大量の熱が出ることを発見し、また1799年イギリスのハンフリー・デービーは真空中で氷をこすり合わせると融解することを発見し、熱が物質ではないことを示した。1842年ドイツのジュリアス・ロバート・フォン・マイヤーは熱も機械的エネルギーと同等のエネルギーであることを示し、空気の定圧比熱と定容比熱と体積膨張率とから1キロカロリーの熱は367キログラム重メートルに等しいことを明らかにした。またイギリスのジェームズ・プレスコット・ジュールは、よく保温し密閉した容器の中に水を入れ、その中に入れた羽根車を一定の距離だけ鉛のおもりが落下するときにその力で回転させるようにした装置で実験し、おもりの落下の仕事と水の温度上昇とから1キロカロリーが424.3キログラム重メートルであることを示した。これは逆の場合も同様で、高温の熱源から低温の熱源に流れる熱量は当量の機械的エネルギーに変換されることも示している。その後の研究によって、正確な値は1キロカロリーが426.80キログラム重メートルに相当することがわかった。なお国際単位系では仕事も熱も同じ単位ジュールまたはエルグなので、熱の仕事当量は1になり、補正は必要ない。なお1キロカロリーは4.186キロジュールである。
[吉田正武]
熱はエネルギーの一形態である。物体のもつエネルギーを一定量増加させるにはある量の熱を与えてもよいし,摩擦や抵抗により一定量の力学的,あるいは電磁気的エネルギーを使う,すなわち仕事によってもよい。この仕事の量Wと熱量Qとの比W/Qを熱の仕事当量という。エネルギーは生成消滅しない保存量である(熱力学の第1法則)から,この比は,両方ともエネルギーである熱および仕事を測る単位にしかよらない。ふつう,14.5℃の水1gを15.5℃に上げるのに必要な熱量を熱量の単位とし,カロリー(cal)と呼ぶ。また,MKS単位系で仕事の基本単位はジュール(J)である。これらの単位を使うとW/Q=4.186である。すなわち,1calは4.186Jに等しい。熱の仕事当量はランフォードの実験のあと,1845-49年にわたるJ.P.ジュールの研究によって正確に測定された。なかでも有名な実験(ジュールの実験と呼ばれることがある)では,図に示したようなおもりの降下によって水を入れた円筒容器中の羽根車が回転する装置を用いた。
執筆者:恒藤 敏彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
1840年代,J.P. Jouleが,羽根車の実験などによって,熱量と機械的な仕事は,違った現れ方をしたエネルギーそのものであることを証明した.このことは,エネルギーの概念を確立した画期的なできごとであった.そのころからごく最近まで,熱量はカロリー(cal)で表され,機械的エネルギーである仕事はジュール(J)で表されてきた.この二つのエネルギー単位の関係を表したものが熱の仕事当量である.現在 cal は,J を国際単位系(SI単位)から導かれるエネルギーの誘導単位として
1 cal = 4.1840 J
と定義されている.カロリーという単位には長い歴史があり,さまざまな定義が異なる学問分野で使用されているが,それらはSI単位としては推奨されていない.
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…1840年ごろ,ドイツの医師J.R.vonマイヤーは,瀉血(しやけつ)の際の患者の血の色がヨーロッパと熱帯の国々とで異なることに暗示され,力学的現象と熱現象を合わせて(さらにはもっと一般に他の形のエネルギーも含めて)エネルギー保存則が成り立たねばならないことを指摘した。実際,彼はそれに基づいて観測された気体の定圧,定積比熱の値の差から,(ジュールの実験を知らずに)理論的に熱の仕事当量の値のおおよその値を見積もることに成功している。同じころイギリスのJ.P.ジュールは,一定量の力学的仕事をすればどんな物質に対してもどんな方法ででもかならず一定の熱量が得られるはずだと考え,おもりの降下に伴う羽根車の回転によって容器内の液体をかき混ぜて熱を発生させ,この熱とおもりになされた仕事とを比べて,実験的に熱量1calが仕事4.19Jに当たることを確かめた(この数字が熱の仕事当量Jで,正しくはJ=4.186J/cal)。…
…科学実験に興味をもち,大学の教職には一生つかなかったが,自宅の研究室で余暇に多くの研究をした。ジュールのもっとも有名な業績は熱の仕事当量を精密に測定したことであるが,このほかにも電流の熱作用に関するジュールの法則の発見,空気の自由拡散の際の温度効果や空気の自由膨張についての実験などの業績がある。 ジュールの研究の始まりは,発明されたばかりの電磁石に関心をもち,電気を動力とする実用的な機械モーターが可能だとの考えで,より効率のよい電磁モーターをつくろうという試みに取り組んだことであった。…
…彼は摩擦によって際限なく熱を発生できるのであるから,熱は運動に違いないと考えた。このランフォードの実験は19世紀になってH.デービー,J.P.ジュールらによって熱の仕事当量を定める精密な実験に発展した。 ランフォードに始まる研究は,仕事すなわち力学的エネルギーが熱に転化することを明らかにしたが,逆に熱から仕事をとり出す過程のほうの研究も,産業革命の主役,蒸気機関の改良という技術的要求から18世紀の半ばころから盛んになっていた。…
※「熱の仕事当量」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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