デジタル大辞泉
「瑟」の意味・読み・例文・類語
しつ【×瑟】
中国古代の弦楽器の一。箏に似て、普通は25弦。柱で調弦し、弦をはじいて奏する。日本には奈良時代に伝来。
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しつ【瑟】
瑟〈旧李王家蔵〉
- 〘 名詞 〙 中国古代の弦楽器の一つ。箏(そう)の大きいもので、長さ一~二メートル、幅四〇~五〇センチメートル、普通は二五弦で、二三弦、二七弦などもある。周代から常に琴と合奏するときにつかわれた。柱(じ)で調弦し、両手で弦をつまんで弾奏する。日本には奈良時代に伝えられ、正倉院に二四弦瑟の残欠がある。しち。
- [初出の実例]「楸木瑟一張〈木画兼瑇瑁、上足紫檀、下足黒柿、納臈纈袋、緑裏〉」(出典:正倉院文書‐天平勝宝八年(756)六月二一日・東大寺献物帳)
- [その他の文献]〔詩経‐小雅・鹿鳴〕
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普及版 字通
「瑟」の読み・字形・画数・意味
瑟
13画
[字音] シツ
[字訓] こと・おおごと
[説文解字]
[字形] 形声
声符は必(ひつ)。〔説文〕十二下に「犧(はうぎ)作るの弦樂なり」とみえ、大琴をいう。必声とするが、〔説文〕所収の必声二十一文のうち、瑟声の字は他にない。古く神事に用い、その音は瑟(せうしつ)、風の音や泉の流れる音などを形容する語に用いる。
[訓義]
1. こと、おおごと。もと五十絃であったという。清制で二十五絃。
2. 音のさびしいさま、おごそかなさま、きびしいさま、こまやかなさま、あざやかなさま。
3. 風の音、水の音。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕瑟 サハ・カスカナリ・ツツシム 〔字鏡集〕瑟 カスカナリ・ツツシム・コト
[語系]
瑟shet、箏tzhengは声近く、おそらくその音色によって、器に名づけられたものであろう。
[熟語]
瑟▶・瑟韻▶・瑟▶・瑟居▶・瑟琴▶・瑟師▶・瑟瑟▶・瑟▶・瑟縮▶・瑟然▶・瑟柱▶・瑟調▶
[下接語]
瑟・戞瑟・揮瑟・綺瑟・挟瑟・金瑟・琴瑟・錦瑟・鼓瑟・膠瑟・瑟・舎瑟・縮瑟・瑟・清瑟・奏瑟・桑瑟・操瑟・大瑟・弾瑟・廃瑟・風瑟・宝瑟・鳴瑟・瑶瑟・擁瑟
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瑟 (しつ)
中国,朝鮮で用いられる琴(きん)・箏類の一種で撥弦楽器。中国太古からあって,琴とともに奏されたため〈琴瑟相和す〉の語源となった。構造は箏と同様であるが,弦数は多い。25弦が普通の型で第13弦は用いず,第1~12弦,第14~25弦をそれぞれオクターブ関係に黄鐘(こうしよう)から順に十二律を調律し,右手の食指で低い方を,左手の食指で高い方の弦を同時に鳴らす。
朝鮮には14世紀後半に明から伝えられ,琴とともに文廟の祭儀に用いられている。日本にも奈良時代に中国から伝来して一時行われたらしい。正倉院に24弦瑟の残欠が保存されている。
執筆者:三谷 陽子
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瑟【しつ】
中国のロング・ツィター属撥弦(はつげん)楽器。中国語ではソー。大瑟,中瑟,小瑟などがあるが,最も普通のものは中瑟25弦のものである。日本の箏のように1弦1柱(じ)で調弦する。中国の雅楽(ヤーユエ)で琴と同時に用いられ,夫婦相和すたとえとして詩経の〈琴瑟を鼓するが如し〉の句ができた。より扱いやすい箏(ジョン)が現れたため,独奏楽器としての使用は3世紀まで。
→関連項目琴
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瑟
しつ
se
中国雅楽の代表的弦鳴楽器。ツィター属の楽器で,形は箏と同様であるが,大きく多数の弦をもつ。起源は太古の神話時代にまでさかのぼり,疱犧 (ほうぎ) が初め 50弦の瑟をつくったのをのちに 25弦に分割したとか,伏羲 (ふくぎ) ,太昊 (たいこう) が 25弦をつくったとかいう伝説がある。 23弦,27弦などあったが,25弦が最も普通。正倉院には箏より小型の 24弦の瑟の残欠が遺存している。箏と同じ柱 (じ) を立て,中央の1弦は用いず,第1弦と第 14弦をオクターブ関係にし,黄鐘 (おうしき) から十二律の順に調弦して,右手で低音を左手でオクターブ高音を同時に奏する。太古から琴とともに用いられて,「琴瑟相和す」の語源となった。ただし,平安時代初期以降にはあまり普及しなかった。
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瑟
しつ
中国の雅楽で使われた弦楽器。チター属に属し、日本の箏(そう)の胴を幅広くした形。25弦が普通だが、23~27弦まであり、中国神話には庖犧(ほうぎ)氏が50弦のものをつくったと伝える。湖南(こなん/フーナン)省長沙(ちょうさ/チャンシャー)馬王堆(まおうたい)漢墓(前2世紀)から長さ116センチメートル、幅約40センチメートルのものが発見されたほか、後世には長さ約2メートル、幅約80センチメートルの大型のものがある。日本にも伝来した形跡があり、正倉院に24弦の瑟の尾部の板が残っている。奏法は箏と同様で、柱(じ)を立て、右手で弦をはじく。中国ではかならず琴(きん)とともに用いることから、夫婦の仲がむつまじいことのたとえに「琴瑟相和(あいわ)す」のことばが生まれた。
[橋本曜子]
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世界大百科事典(旧版)内の瑟の言及
【箏】より
…柱を用いない琴(きん)とは異なるが,日本や朝鮮では,古くから〈琴〉の字をあてて箏類をもさすことがある。単に箏と称するもののほかに,同類の楽器として,中国の瑟(しつ),朝鮮の伽倻琴(かやきん),大箏(たいそう),牙箏(がそう),日本の和琴(わごん),モンゴルのシトク(ヤトク,ヤタグともいう),ベトナムの[ダン・チャン]などがあり,撥弦楽器が主流であるが,牙箏のように擦奏するものもある。
[中国]
中国の箏は雅楽用でなくもっぱら俗楽に用いられてきた。…
【中国音楽】より
…また縦笛やそれを組んだ排簫(はいしよう),前5世紀以前には横笛も使われ,和音を出す笙も同時に広く用いられていた。弦楽器は25弦で琴柱(ことじ)のある[瑟](しつ)と,琴柱のない琴(きん),また打奏の筑(ちく)も史書にはみえる。後世,琴は7弦を定型とするが,馬王堆漢墓出土の漢制七弦琴以前は,5弦,10弦など不定であったらしい。…
【朝鮮音楽】より
…馬韓では5月の種まきの後と10月の収穫の後に,群衆による歌舞を行うと伝えられており,この時代の歌舞による祭事は,いずれも,今日の[農楽]や〈クッ〉と呼ぶ神事と関係があると考えられている。楽器についての記録は,弁韓と辰韓に,今日の代表的な弦楽器の[伽倻琴]や[玄琴]の祖形と見られる[瑟](しつ)に似たチター属楽器があったことを伝えており,これは,朝鮮民族が早くから,長方形の弦楽器を好んで使用していたことを物語っている。(2)三国時代(4~7世紀後半) 高句麗,百済,新羅それぞれに異なる特色があらわれる。…
※「瑟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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