祖谷川(読み)いやがわ

日本歴史地名大系 「祖谷川」の解説

祖谷川
いやがわ

県の最高峰であるつるぎ(一九五四・七メートル)を源とし、東祖谷山ひがしいややま村から西祖谷山村までほぼ西に向かって曲流、西祖谷山善徳ぜんとく付近で北流に転じ、池田いけだ川崎かわさきで吉野川に注ぐ一級河川。河川延長五三・八キロ、流域面積三五六平方キロ、吉野川の支流では最大規模の河川である。善徳―川崎間の下流部は四国山地を貫く横谷をなし、祖谷渓とよばれる深いV字谷を形成する。こうした景観を、市原本「祖谷山旧記」は「怪有ノ幽谷、希代の高山」などと称している。現在、秋の紅葉時期に多数の観光客が訪れる祖谷渓は、長く交通障害となっていた。祖谷地方山城やましろ町や池田町と結ばれるのは、大正九年(一九二〇)に河谷沿いに祖谷街道と通称された県道剣山つるぎさん上名かみみよう線ができて以降のことである。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「祖谷川」の意味・わかりやすい解説

祖谷川 (いやがわ)

徳島県西部の川。吉野川の支流で水源は剣山西にあり,西祖谷山村(現,三好市)善徳まで縦谷をなし,善徳から約20kmはV字形峡谷(祖谷渓)をなして,出合で松尾川に合流し,さらに大利で吉野川本流となる。全長54km,流域面積約280km2。1964年剣山国定公園の一部に指定された。上流域は,隔絶山村の秘境祖谷地方(祖谷山)で,屋島の合戦に敗れた平家一族の隠田集落といわれ,伝承・伝説が多い。流域の急傾斜地にはソバ,ヒエ,ミツマタコンニャクの栽培が多く,祖谷ソバを特産とする。急傾斜で落差の大きい祖谷川は水力発電所の立地にも適し,明治末期に三縄に,次いで祖谷・一宇(いちう)・出合の各発電所が建設された。1920年祖谷川に沿って祖谷街道,74年大歩危(おおぼけ)側より県営祖谷渓有料道路が完成し,西祖谷の一宇と結ばれ,善徳に残るかずら橋(重要民俗資料。長さ45m,幅1.5m,水面から15m)にも行きやすくなった。

 祖谷渓は〈いやだに〉ともよみ,祖谷谷,祖谷峡谷とも呼ばれ,三好郡池田町と西祖谷山村(ともに現,三好市)にまたがる。これに沿う祖谷街道は谷底から100~200mの中腹を屈曲しながら走り,〈小便岩〉付近はとくに見晴しがよい。眠谷付近の谷底に60年に掘削された祖谷温泉(単純硫化水素泉,39℃)があり,新緑,紅葉の時期はとくににぎわう。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「祖谷川」の意味・わかりやすい解説

祖谷川
いやがわ

徳島県西部,吉野川の上流部に注ぐ支流。全長約 54km。徳島県の最高峰剣山に源を発して,三好市池田で吉野川に合流する。東祖谷山から西祖谷山に入って流れを北に転じるところが四国山地を横切る横谷で,祖谷渓の深い峡谷をなす。祖谷,一宇,出合,三縄などの発電所があり,電源開発が進展。流域は平地に乏しく,山地斜面を切り開き,ソバ,コンニャク,タバコ,コウゾ,ミツマタなどの栽培が行なわれる。流域の大部分が平家落人伝説の秘境で,民家には書院造の名主の家と,隠居制の伝承がみられる。古くからの技術を伝えるかずら橋がかかり,国の重要有形民俗文化財に指定されている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の祖谷川の言及

【祖谷山】より

…徳島県西部にある祖谷川流域の山間をさす呼称。峡谷が深く交通が不便なため,平地住民からは別天地のような感覚でみられ,平家の落人という伝承をもちそれに関する遺品や伝説も残っている。…

※「祖谷川」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android