移す(読み)ウツス

デジタル大辞泉 「移す」の意味・読み・例文・類語

うつ・す【移す/遷す】

[動サ五(四)]
位置や地位を変える。他の所へ持っていく。また、中身を別のものに入れ替える。「住まいを―・す」「首都を―・す」「庶務課に―・す」「小皿に―・す」
目の向きや関心の対象を変える。「視線を―・す」「別の相手に心を―・す」
時を過ごす。時間を経る。「時を―・さず決行する」
伝染させる。「風邪を―・される」
色や香りを他の物にすりつけて染み込ませる。「花をすって布地に色を―・す」
物事を別の段階に進める。「計画を実行に―・す」
(遷す)神仏の座所を動かす。また、分けて他の所に祭る。「伏見稲荷を―・して守護神とする」
物の寄坐よりましにのりうつらせる。
「物の怪にいたう悩めば、―・すべき人とて」〈能因本枕・三一九〉
高貴の人を流罪にする。
「いかでか我が山の貫首をば、他国へは―・さるべき」〈平家・二〉
[可能]うつせる
[類語]移る送る遣る動く移動する移行する変わる

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「移す」の意味・読み・例文・類語

うつ・す【移・遷】

  1. 〘 他動詞 サ行五(四) 〙
  2. [ 一 ] 事物をある位置から他の位置に変える。
    1. 物や人を別の場所に動かす。居場所を変える。
      1. [初出の実例]「御陵は大野の岡の上に在りしを、後に科長(しなが)の大き陵に遷(うつし)まつりき」(出典古事記(712)下)
      2. 「君がためうつして植うる呉竹(くれたけ)にちよも籠れる心地こそすれ〈藤原清正〉」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)慶賀・一三八二)
      3. 「御前の火炉に火をおく時は、火ばししてはさむ事なし。土器(かはらけ)よりただちにうつすべし」(出典:徒然草(1331頃)二一三)
    2. 神仏の分身を他の場所にまつる。
      1. [初出の実例]「我年来(としごろ)大菩薩を憑(たの)み奉て、朝暮に念じ奉る。同くは我が居たる辺に大菩薩を遷し奉て、常に思の如く崇(あが)め敬ひ奉らむ」(出典:今昔物語集(1120頃か)三一)
    3. 高貴の人を辺地に流す。配流(はいる)する。
      1. [初出の実例]「国こそ多けれ、隠岐国へうつされ給ひけるこそ不思議なれ」(出典:平家物語(13C前)一二)
    4. 人の配置、地位などを変える。また、権限などのあり場所を変える。「庶務から会計にうつす」
    5. 興味・関心や話題を、今までの対象から他の物に変える。気持を他に転じる。
      1. [初出の実例]「かかるすずろ事に心をうつし」(出典:源氏物語(1001‐14頃)蛍)
      2. 「そのつとめの怠(をこたり)なきを学文にうつしたらば、朱子・程子の智恵にひとしく」(出典:仮名草子・浮世物語(1665頃)一)
      3. [その他の文献]〔論語‐雍也〕
    6. 色やかおりを他の物にしみさせる。また、植物を紙や布にすりつけて、その色をしみこませる。
      1. [初出の実例]「秋さらば影(うつし)もせむとわが蒔(ま)きし韓藍(からあゐ)の花を誰れか摘みけむ」(出典:万葉集(8C後)七・一三六二)
      2. 「むめが香(か)を袖にうつしてとどめてば春は過ぐともかたみならまし〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)春上・四六)
    7. 病人についている物怪(もののけ)を、祈祷により「よりまし」につくようにする。また、病気やよくないことを他に伝染させる。「人にかぜをうつす」
      1. [初出の実例]「物のけにいたう悩めば、うつすべき人とて、おほきやかなる童〈略〉ゐざり出でて」(出典:能因本枕(10C終)三一九)
    8. 中身を別のものに入れかえて、からにする。
      1. [初出の実例]「酒をついではうつしうつしするほどに」(出典:史記抄(1477)一七)
    9. 物事を積極的な行動の段階に進める。
      1. [初出の実例]「親友のマリヤはアヤの計画に反対だったが、結局アヤは実行に移した」(出典:がらくた博物館(1975)〈大庭みな子〉よろず修繕屋の妻)
    10. 他の言語に翻訳する。
      1. [初出の実例]「原文の意味が可成りよく移されてゐるらしく」(出典:トルストイについて(1926‐36)〈正宗白鳥〉二)
  3. [ 二 ] ( おもに「時を移す」の形で ) 時間を費やす。時を過ごす。
    1. [初出の実例]「寸陰を徙(ウツサ)(ず)して、実に千齢の迷躅を鏡(てら)してむ」(出典:南海寄帰内法伝平安後期点(1050頃)一)
    2. 「無益(むやく)のことをなして時を移すを、おろかなる人とも僻事(ひがごと)する人とも云ふべし」(出典:徒然草(1331頃)一二三)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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