アンモニア合成(読み)アンモニアゴウセイ

化学辞典 第2版 「アンモニア合成」の解説

アンモニア合成
アンモニアゴウセイ
ammonia synthesis

水素窒素から触媒の存在,高温高圧下でアンモニアを直接合成する方法

3H2 + N2 → 2NH3 + 92 kJ

20世紀のはじめに,F. Haber(ハーバー)やH.W. Nernst(ネルンスト)の熱力学的研究により,合成の成功への糸口が得られた.これは化学平衡論の工業への応用の成果である.まず,Haberが基礎的研究に成功し,1908年に最初の特許を得,ついで1913年にC. Bosch(ボッシュ)の成功によって高圧装置の問題を技術的に解決し,年産9000 t のアンモニア合成工場の建設,操業に成功した.その後,約50年間に10種類ほどの新合成法が現れたが,いずれも本質的には上記のハーバー-ボッシュ法の改変法である.アンモニア合成の方式は,反応条件,触媒の種類,合成塔の型式などで分けられる.合成塔の典型的なものは,低温低圧型,中温中圧型,高温高圧型,ハーバー法の改変型などである.わが国で行われているおもな諸方式を表に示す.

平衡の理論から,NH3生成率は温度が低く,圧力が高いほど高くなる.温度が低いと反応速度が小さくなり,工業的に高収率を得るための適当な圧力,空間速度に対して適当な温度がある.工業的な温度範囲は400~650 ℃,圧力範囲は100~1000 atm,生成率5~30% である.常用されている触媒はFe3O4主体とし,Al2O3やK2Oを添加して融解法でつくる.まず,種々の方法で製造した水素と窒素との混合物を精製後,N2:H2 を約1:3に調整し,高圧に圧縮する.合成塔で合成されたアンモニアは凝縮器で凝縮し,高圧受器に液体アンモニアとしてためられる.分離した未反応混合ガスは合成塔へ戻す.アンモニアの用途として,アンモニア酸化法(ammonia oxidation process)による硝酸の製造がある.

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百科事典マイペディア 「アンモニア合成」の意味・わかりやすい解説

アンモニア合成【アンモニアごうせい】

アンモニアは工業的には窒素と水素の混合気体を加圧下,適当な温度で触媒層を通すことにより直接合成される。窒素肥料,アクリルニトリル,メラミンなどの原料をつくる重要な工法。1908年F.ハーバーが理論的にその基礎を確立し,さらにイーゲー・ファルベン社でK.ボッシュとミタッシュらによりそれぞれ高圧装置と触媒の工夫がなされ,1913年最初の工業化が行われた(ハーバー=ボッシュ法)。これにより窒素肥料の安価かつ大量の供給が可能となり,農業生産の飛躍的発展をもたらした。のち反応条件や触媒の種類によりクロード法,カザレ法,ファウザー法,NEC法,東京工業試験所法など各種の方法が行われるようになったが,いずれもハーバー=ボッシュ法が基本となっている。
→関連項目化学工業空中窒素固定合成化学工業水素エネルギー肥料工業

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンモニア合成」の意味・わかりやすい解説

アンモニア合成
あんもにあごうせい

窒素と水素から触媒を用いて高温・高圧下でアンモニアを直接合成する方法である。これは、1907年F・ハーバーが合成アンモニアの基礎を確立し、その後C・ボッシュらの技術的協力により1913年に工業的生産に成功したもので、ハーバー‐ボッシュ法ともいわれている。

荒川 剛]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アンモニア合成」の意味・わかりやすい解説

アンモニア合成
アンモニアごうせい
ammonia synthesis

窒素 N2 と水素 H2 からハーバー=ボッシュ法に従って N2+3H2=2NH3 という反応によって合成する。窒素は空気を液化して酸素を除いたものを用いる。水素 (水素ガス) は石炭やコークスを燃焼させてこれに水蒸気を吹込んだり (水性ガス) ,メタンと水蒸気を加熱したり ( CH4+H2O=CO+3H2 ) して得られるものを用いる。合成されたアンモニアは,硫安,尿素,硝酸などの製造原料として用いられる。

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世界大百科事典(旧版)内のアンモニア合成の言及

【アンモニア】より

… NH4Cl+NaOH―→NH3+NaCl+H2Oアンモニアガスの乾燥は,よく煆焼(かしよう)した酸化カルシウムCaOの層を通して行う(塩化カルシウムはアンモニア化物CaCl2・8NH3をつくるのでアンモニアの乾燥剤としては使用できない)。
[工業的製法]
 工業的には,古くはコークス工業における石炭乾留の際の副生アンモニアとして得られ,また,20世紀初頭に石灰窒素(カルシウムシアナミドCaCN2と炭素Cの混合物)の製造法が発明されたのち,アンモニア合成工業技術が確立・普及するまでの期間は,石灰窒素の水蒸気分解でアンモニアを取得し利用することも行われた。 CaCN2+H2O―→CaCO3+NH3ただし,これらはアンモニア合成ではない。…

【空中窒素固定】より

…このうち工業として成立しているのは(1)と(3)で,(4)以下は実験室的研究である。(1)アンモニア合成 窒素と水素とから高圧ガス反応N2+3H2―→2NH3によってアンモニアを合成する方法で,現在の空中窒素固定工業の大部分がこの型に属する。アンモニアからは,アンモニウム塩,尿素,アミド化合物,硝酸,硝酸塩,ニトロ化合物,その他をつくることができ,窒素肥料,食品,医薬,プラスチック,火薬,染料などとして広範に利用される。…

※「アンモニア合成」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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