納戸神(読み)ナンドガミ

デジタル大辞泉 「納戸神」の意味・読み・例文・類語

なんど‐がみ【納戸神】

納戸にまつられる神。恵比須えびす大黒だいこくなどが多くまつられたが、隠れキリシタン聖画像をまつった。

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精選版 日本国語大辞典 「納戸神」の意味・読み・例文・類語

なんど‐がみ【納戸神】

  1. 〘 名詞 〙なんど(納戸)の神
    1. [初出の実例]「納戸神とは、言うまでもなく〈略〉納戸に祭る神の意味だったが」(出典:母なるもの(1969)〈遠藤周作〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「納戸神」の意味・わかりやすい解説

納戸神 (なんどがみ)

納戸にまつられる神。納戸はヘヤ,オク,ネマなどと呼ばれ,夫婦の寝室,産室,衣類や米びつなどの収納所として使われ,家屋の中で最も閉鎖的で暗く,他人の侵犯できない私的な空間である。また納戸は女の空間でもあり,食生活をつかさどるシャモジとともに,衣料の管理保管の場所である納戸の鍵も主婦権のシンボルとされていた。納戸神をまつる風習は,兵庫県の旧宍粟郡,鳥取県東伯郡,岡山県の旧真庭・旧久米・旧苫田・旧勝田郡,島根県の隠岐島一帯,長崎県五島などに濃く分布し,家の神の古い形を示すものとされている。祭祀方法は多様で,納戸の一隅に御札を貼ったり神棚をつってまつるが,隠岐の島前地区では納戸の米びつを祭壇にしている。常の日にはとくにまつることはしないが,正月,3月苗田,5月田植,秋の穂掛や刈祝,10月の亥子などの節日や農耕の折り目などには榊を立てて神酒をあげ,御飯や餅を供えてまつる。中国地方では,納戸神はたいていトシトコサンつまり正月の神と呼ばれ,正月飾も表のトコよりも大きく立派にする。隠岐や五島の宇久島などでは,納戸神は田の神とされ,春と秋に納戸と田を去来する伝承を伴っている。兵庫県佐用郡佐用町の旧上月町では,納戸神はオクノカミ,ウチノカミと呼ばれ,女の神で作神と信じられ,毎月1,15日にまつるほか,正月には年棚に米,餅,栗,柿を供え,亥子には升に餅を入れて供えるという。このように納戸神は正月の神,田の神,作神,女の神といわれるが,このほか子どもの神,婦人病の神,夫婦神,安産の神ともされ,おもに人や稲の多産豊穣にかかわる神になっている。この神には産忌を嫌わないが,穀類などものが減るのを嫌い,多産だが恥ずかしがりやで暗い所を好むといった伝承もある。納戸神をまつるのは主婦という所が多く,供物のお下がりも神が惜しんで外に出さなくなるといって婚出する未婚者には食べさせないという。納戸神は田の神の性格を基本に家族の命運や稲の豊穣,富,幸運など家の盛衰にかかわる神といえる。納戸神の背景には,家屋の内奥部にはその家とそこに住む家族とを守護する霊威が潜んでいるという信仰があったと思われる。これは,寺院の後戸(うしろど)や寝殿塗籠(ぬりごめ)に霊威ある神仏をまつったり聖なる秘所とする信仰と系譜を同じくするものといえる。また,納戸婆座敷童子(ざしきわらし)といった妖怪の存在や,平戸生月の隠れキリシタンが掛絵などの崇敬物を納戸にまつり,〈納戸神〉と呼んでいる例,さらに東北地方の家の神であるオシラサマ(おしら信仰),オコナイサマ,オタナサマなどとも,納戸神の信仰は深層の部分で関連しているように思われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「納戸神」の意味・わかりやすい解説

納戸神
なんどがみ

納戸に祀(まつ)られる神。通常は納戸の棚に恵比須(えびす)や大黒(だいこく)などを祀ることが多いが、隠れキリシタンは聖画像を祀った。平戸(ひらど)・生月(いきつき)(長崎県)のキリシタンと長崎・黒崎側のキリシタンとはその信仰の様態が異なり、前者は納戸神を、後者はお帳(ちょう)を中心とする。両者はオラショ(祈祷(きとう)文)の唱え方も信者組織をも異にしているが、前者がより初期の文化接触の姿を示している。納戸神は御番役の家にある。納戸に隠され、祭りのときもそこで祀られ、御番役だけが触れることができる。他の信者は長座敷から拝する。納戸神の多くはイエスを抱えた聖母の画像である。着物を着、胸をはだけ乳を出した聖母がイエスを左手で抱え、そのイエスは右手で祝福し左手に巻物をもつ基本的な型をも残している。江戸時代のキリスト教禁教下でカトリックの信仰を守り続け、日本文化と習合した特異な民俗信仰の神である。

[野村暢清]

『田北耕也著『昭和時代の潜伏キリシタン』(1954・日本学術振興会)』『『古野清人著作集5 キリシタニズムの比較研究』(1973・三一書房)』

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