訴訟当事者がみずから有効に訴訟行為をし,またこれを受領する能力をいう。訴訟能力は,民事訴訟法に特別の定めのある場合を除き民法その他の法令に従う(民事訴訟法28条)。したがって行為能力者はすべて訴訟能力者である。未成年者(婚姻によって成年に達したとみなされる者を除く)および禁治産者は,原則として訴訟無能力者である。例外的に,未成年者が独立して法律行為をすることができる場合(民法6条1項,商法6条,労働基準法58条,59条)だけは,その関係の訴訟に関する限度で訴訟能力が認められる(民事訴訟法31条但書)。訴訟無能力者は,訴訟において必ず法定代理人によって代理されなければならない。準禁治産者は制限的訴訟能力者である。すなわち準禁治産者はみずから訴訟行為をすることができるが,そのためには,保佐人の同意を必要とする(民事訴訟法28条,民法12条1項4号)。ただし,準禁治産者が相手方の提起した訴えまたは上訴につき訴訟行為をする場合は,保佐人の同意を要しない(民事訴訟法32条1項)。同意は特定の事件の訴訟追行全般について包括的に与えられるべきであり,個々の訴訟行為についてのみ,またはこれを除外して与えることはできない。審級ごとに同意を与えることはできる。保佐人の同意があり,または同意を要しない場合でも,準禁治産者が訴え・上訴の取下げ,請求の放棄・認諾,訴訟上の和解などのような,判決によらないで訴訟を終了させる行為をするには,保佐人の特別の同意を必要とする(32条2項)。
訴訟能力は訴訟要件の一つであるとともに訴訟行為要件である。訴訟能力は訴えが適法であるための要件の一つであるから,裁判所は訴訟能力の有無を職権で調査し,これを欠く場合には訴えを不適法として却下しなければならない。訴訟無能力者の訴訟行為,またはこの者に対する訴訟行為は無効である。しかし,この場合でも,訴訟能力を取得または回復した当事者自身または法定代理人は,過去の訴訟追行の全体について包括的に追認をすることができ,追認があれば遡及的に有効になる(34条2項)。
なお,以上の法規制が行われる通常の民事訴訟とは異なり,人事訴訟では,身分上の行為についての本人の意思尊重の要請から準禁治産者は完全な訴訟能力が認められ,未成年者も意思能力ある限り訴訟能力を有する(人事訴訟手続法3条1項,26条,32条)。
被告人または被疑者として有効に訴訟行為をすることのできる能力をいう。被告人または被疑者としての重要な利害を弁識し,それに従って相当な防御行為をする能力,すなわち意思能力があれば,訴訟能力が認められる。訴訟能力を欠く者に対しては,原則として,刑事手続を進めることは許されず,公判手続を停止しなければならない(刑事訴訟法314条1項)。しかしこの原則には,例外がある。(1)責任無能力の規定(刑法39~41条)を適用しない罪にあたる事件において,被告人または被疑者が意思能力を有しないときは,その法定代理人が代理して訴訟行為を行う(刑事訴訟法28条)。(2)被告人または被疑者が法人のときは,その代表者が訴訟行為について法人を代表する(27条1項)。数人の代表者がある場合には,各自,法人を代表する権限を有する。共同代表の定めある場合にも,訴訟行為については各自が法人を代表する(27条2項)。法人格なき社団・財団が被告人または被疑者になる場合については明文規定はないが,法人の場合に準じて,代表者が権利能力なき社団・財団を代表すると解されている。(1)(2)の場合に被告人または被疑者を代理・代表する者がなければ,特別代理人が選任されなければならない。
執筆者:松本 博之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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