一般用語としては,事後の同意を意味する。したがって,国会の承認を要する案件(たとえば,内閣総理大臣による緊急事態の布告)について事後に同意を得る場合にも,追認という語が使われるが,主として問題となるのは,民事法関係においてである。
(1)民法上では,以下の三つの場合の追認が問題となる。(a)取り消しうべき行為の追認 無能力,詐欺,強迫に基づいて法律行為が取り消されると,はじめから無効なものとみなされる(取消し)が,取消権者がこれを追認すると,はじめから有効な行為として確定し,その後に取り消すことは許されなくなる(民法122条)。しかし,取消しの原因が存続している状態(例,強迫の状態が解消されないまま)で追認しても,追認の効果は生じない(124条)。追認は,取り消しうべき行為の相手方に対して表示しなければならない(123条)。取消権者がみずから債務を履行し,相手方に履行を請求し,また,取得した物または権利を他人に譲渡するなど,相手方からみて,追認を推認させるような行為をしたときには,追認したものと擬制され(法定追認),以後取り消すことは許されない(125条)。(b)無権代理行為の追認 無権代理人が本人の名で相手方と契約しても,その効果は本人に及ばない(代理)。無権代理人は相手方に対して履行または損害賠償の責任を負う。しかし,本人が相手方に対して契約を追認すると,その契約は,最初の契約のときにさかのぼって本人に対して効力を生ずる(113条,116条)。(a)の場合には,追認は,有効無効の不確定な状態を有効に確定するものであるが,無権代理行為の追認は,本人にとって本来無効であった行為を有効にするものである。したがって,この追認は,代理権の事後の補充という意味をもっている。(c)無効行為の追認 無効な行為は追認しても,有効にならない。とくに公序良俗・強行法規に反する行為は,絶対的無効である。しかし,錯誤による無効のような場合には,当事者が無効を知ったうえで追認した場合には,新たに有効な行為をしたとみなされる(119条)。この規定からは,追認のときから有効になると解すべきように思われるが,判例・学説は,無権代理行為の追認に関する規定をこの場合にも類推して,最初の行為のときから有効となると解する傾向にある。
(2)民事訴訟法では,訴訟能力,法定代理権,訴訟代理権が欠缺(けんけつ)している場合の訴訟行為は無効であるが,能力を取得した本人,または適法に授権をうけた代理人が,訴訟中にその行為を追認すれば,行為のときにさかのぼって効力を生ずる(民事訴訟法34条2項,59条)。当該訴訟行為について,裁判所がこれを確定的に排斥するまでは,いつでも追認することができる。終局判決後でもよい。追認の意思表示には,方式の定めはないから,口頭でもよい。追認は,裁判所または相手方に対して行う。未成年者が提起した訴訟に法定代理人が出廷して弁論した場合には,法定代理人は未成年者の訴訟行為を追認したものと擬制される(黙示の追認)。裁判所は,瑕疵(かし)ある訴訟行為に対して期間を定めてその補正を命ずることがある。
執筆者:岡本 坦
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事後の同意を一般的に追認といい、民法上は3種類ある。取消しうべき行為の追認(民法122条以下)とは、取消しうべき法律行為(未成年者の法律行為や詐欺による法律行為など)によって生じた不確定な効力を有効に確定する単独行為である。無権代理行為の追認(同法113条以下)とは、代理権なくしてなされた法律行為を本人が事後的に同意することであり、代理権があったのと同様の効果を生ぜしめる(民事訴訟法上の訴訟行為の追認も同様の制度である)。無効行為の追認(同法119条)とは、無効な法律行為に事後的に同意することであるが、これはその法律行為を有効ならしめない。しかし、当事者が、その法律行為が無効であることを知ってこれをなした場合には、新たな行為をなしたものとみなされる。
[淡路剛久]
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