追認(読み)ついにん

精選版 日本国語大辞典 「追認」の意味・読み・例文・類語

つい‐にん【追認】

〘名〙
① 過去にさかのぼってその事実を認めること。
妻隠(1970)〈古井由吉〉「自分の追認を得られそうにもない夫婦がいはしないかと」
法律行為欠点を、あとから補充して完全なものにすること。また、その意思表示。民法上、取り消しうべき行為、無権代理行為などについてこれを認めている。
※民法(明治二九年)(1896)一一九条「無効の行為は追認に因りて其効力を生せす」

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デジタル大辞泉 「追認」の意味・読み・例文・類語

つい‐にん【追認】

[名](スル)
過去にさかのぼって、その事実を認めること。「既成事実として追認される」
不完全な法律行為を、のちに確定的に有効なものとする意思表示

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改訂新版 世界大百科事典 「追認」の意味・わかりやすい解説

追認 (ついにん)

一般用語としては,事後の同意を意味する。したがって,国会の承認を要する案件(たとえば,内閣総理大臣による緊急事態布告)について事後に同意を得る場合にも,追認という語が使われるが,主として問題となるのは,民事法関係においてである。

(1)民法上では,以下の三つの場合の追認が問題となる。(a)取り消しうべき行為の追認 無能力,詐欺,強迫に基づいて法律行為が取り消されると,はじめから無効なものとみなされる(取消し)が,取消権者がこれを追認すると,はじめから有効な行為として確定し,その後に取り消すことは許されなくなる(民法122条)。しかし,取消しの原因が存続している状態(例,強迫の状態が解消されないまま)で追認しても,追認の効果は生じない(124条)。追認は,取り消しうべき行為の相手方に対して表示しなければならない(123条)。取消権者がみずから債務を履行し,相手方に履行を請求し,また,取得した物または権利を他人に譲渡するなど,相手方からみて,追認を推認させるような行為をしたときには,追認したものと擬制され(法定追認),以後取り消すことは許されない(125条)。(b)無権代理行為の追認 無権代理人が本人の名で相手方と契約しても,その効果は本人に及ばない(代理)。無権代理人は相手方に対して履行または損害賠償の責任を負う。しかし,本人が相手方に対して契約を追認すると,その契約は,最初の契約のときにさかのぼって本人に対して効力を生ずる(113条,116条)。(a)の場合には,追認は,有効無効の不確定な状態を有効に確定するものであるが,無権代理行為の追認は,本人にとって本来無効であった行為を有効にするものである。したがって,この追認は,代理権の事後の補充という意味をもっている。(c)無効行為の追認 無効な行為は追認しても,有効にならない。とくに公序良俗強行法規に反する行為は,絶対的無効である。しかし,錯誤による無効のような場合には,当事者が無効を知ったうえで追認した場合には,新たに有効な行為をしたとみなされる(119条)。この規定からは,追認のときから有効になると解すべきように思われるが,判例・学説は,無権代理行為の追認に関する規定をこの場合にも類推して,最初の行為のときから有効となると解する傾向にある。

(2)民事訴訟法では,訴訟能力,法定代理権,訴訟代理権が欠缺(けんけつ)している場合の訴訟行為は無効であるが,能力を取得した本人,または適法に授権をうけた代理人が,訴訟中にその行為を追認すれば,行為のときにさかのぼって効力を生ずる(民事訴訟法34条2項,59条)。当該訴訟行為について,裁判所がこれを確定的に排斥するまでは,いつでも追認することができる。終局判決後でもよい。追認の意思表示には,方式の定めはないから,口頭でもよい。追認は,裁判所または相手方に対して行う。未成年者が提起した訴訟に法定代理人が出廷して弁論した場合には,法定代理人は未成年者の訴訟行為を追認したものと擬制される(黙示の追認)。裁判所は,瑕疵(かし)ある訴訟行為に対して期間を定めてその補正を命ずることがある。
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百科事典マイペディア 「追認」の意味・わかりやすい解説

追認【ついにん】

民法上いったんなされた不完全な法律行為をあとから有効なものにする意思表示。三つの種類がある。無権代理行為の追認(民法113,116条)は本人について効果を生じさせ,取り消し得べき行為(制限能力者の法律行為,強迫による法律行為等)の追認(民法122条以下)は完全に有効な行為に確定し,無効な行為の追認(民法119条)は,その無効なことを知って当事者が追認したときは新たな行為をしたものとみなされる。
→関連項目取消し取消権無効

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「追認」の意味・わかりやすい解説

追認
ついにん
Bestätigung

瑕疵 (かし) のある不完全な法律行為をあとから完全に有効なものとするための意思表示をいう。事後同意ともいう。民法上,次の場合がある。 (1) 取消しが可能な行為の追認。無能力者の行為や詐欺強迫による行為は取り消すこともできるが,取消権者が積極的に追認すれば確定的に有効となる。なお,追認権者が権利の全部または一部を実現するような一定の行為をしたときは,法律上追認したものとみなされる (法定追認) 。 (2) 無権代理行為の追認。無権代理人のなした行為を本人が追認すれば,その代理行為は遡及的に有効となる。 (3) 無効行為の追認。無効な行為は追認しても有効とはならないはずだが,公序良俗に違反せず,第三者にも不利益を及ぼさないかぎり,追認によって遡及的に有効と解されることがある。ただし,当事者が無効であることを知って追認したときは新たな行為をしたものとみなされる (民法) 。民事訴訟法でも無効とされる訴訟行為について追認できる余地を認める。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「追認」の意味・わかりやすい解説

追認
ついにん

事後の同意を一般的に追認といい、民法上は3種類ある。取消しうべき行為の追認(民法122条以下)とは、取消しうべき法律行為(未成年者の法律行為や詐欺による法律行為など)によって生じた不確定な効力を有効に確定する単独行為である。無権代理行為の追認(同法113条以下)とは、代理権なくしてなされた法律行為を本人が事後的に同意することであり、代理権があったのと同様の効果を生ぜしめる(民事訴訟法上の訴訟行為の追認も同様の制度である)。無効行為の追認(同法119条)とは、無効な法律行為に事後的に同意することであるが、これはその法律行為を有効ならしめない。しかし、当事者が、その法律行為が無効であることを知ってこれをなした場合には、新たな行為をなしたものとみなされる。

[淡路剛久]

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普及版 字通 「追認」の読み・字形・画数・意味

【追認】ついにん

事後承認。

字通「追」の項目を見る

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