賑給(読み)シンキュウ

デジタル大辞泉 「賑給」の意味・読み・例文・類語

しん‐きゅう〔‐キフ〕【×賑給】

[名](スル)
困窮者に金品を施し与えること。
「窮民の来りて救助を乞うものあれば、必ず厚くこれに―せり」〈中村訳・西国立志編
しんごう(賑給)

しん‐ごう〔‐ゴフ〕【×給】

古代、貧民・難民などに対し、朝廷が米や布などを支給したこと。平安中期以後は、5月中の吉日に京中の貧窮者に米・塩を与える年中行事となったが、鎌倉時代に廃絶。しんきゅう。

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精選版 日本国語大辞典 「賑給」の意味・読み・例文・類語

しん‐ごう‥ゴフ【賑給】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 令制下の救済事業。水旱(すいかん)虫害などにあった地方や老疾者で身寄りのない者、行路の病人などを救済するために米・塩などを給付すること。平安時代以後は実質を失って形式化した。しんきゅう。
    1. [初出の実例]「凡遭水旱灾蝗。不熟之処。少粮。応湏賑給者。国郡撿実。預申太政官奏聞」(出典令義解(718)戸)
  3. 平安時代の年中行事の一つ。毎年五月の中・下旬に京中の飢民に米・塩などを施し与えること。しんきゅう。《 季語・夏 》
    1. 賑給<b>②</b>〈貞治年中行事歌合絵巻〉
      賑給〈貞治年中行事歌合絵巻〉
    2. [初出の実例]「可天皇御筭之年、中宮被奉賀之礼〈略〉予定其日、洩奏事由、先於諸寺諷誦、又於京中賑給」(出典:新儀式(963頃)四)

しん‐きゅう‥キフ【賑給】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「しんぎゅう」とも )
  2. 貧民に施し与えて生活を助けること。
    1. [初出の実例]「賑給 シンギフ」(出典:色葉字類抄(1177‐81))
    2. 「是れ我が貧民、今日賑給(〈注〉ヲスクヒ)に浴する所以(ゆゑん)」(出典:江戸繁昌記(1832‐36)三)
    3. [その他の文献]〔後漢書‐第五・訪伝〕
  3. しんごう(賑給)《 季語・夏 》
    1. [初出の実例]「賑給(シンキウ)是はいやしき民に米塩などを給ふ也」(出典:俳諧・増山の井(1663)五月)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「賑給」の意味・わかりやすい解説

賑給(しんごう)
しんごう

古代律令制(りつりょうせい)下において、天皇の即位、立太子、祥瑞(しょうずい)の出現などの国家の慶事、また飢饉(ききん)、疫病の流行などに際して、律令国家が人民に稲穀(とうこく)、布などを支給することをいう。支給は、高年者、鰥(かん)・寡(か)・孤(こ)(大宝(たいほう)令では惸(けい))・独(どく)のほか、貧窮者、病人や僧侶(そうりょ)などを対象に行われた。天平(てんぴょう)年間(729~749)の各国正税(しょうぜい)帳や、739年(天平11)の「出雲(いずも)国大税賑給歴名帳」、773年(宝亀4)3月の太政官符(だいじょうかんぷ)案(左右京を対象)にその実施例がみられる。

 8世紀においては、国家の慶事に際しての賑給はもとより、飢饉・疫病の際の賑給にあっても、稲穀の支給量・対象者数で貧窮者・病人などより高年者・鰥寡惸独者のほうが重視されていることから、単なる貧窮民の救済策にとどまらず、天皇の恩恵や有徳を周知させるという儒教的イデオロギー政策としての役割を担ったものと考えられている。また、同一の賑給でも、諸国ごとにその対象や1人当りの支給量が異なり、各地域での実施過程に差がみられることから、運用にあたっては在地における郡司・里長などを通じて行われ、彼らの私的支配の槓杆(こうかん)としても機能したこともあったとされている。

 9世紀に入ると、全国的規模での実施は減少し、一般の飢・疫民が多くその支給対象とされ、財源もそれまでの田租内の動用穀から、不動穀、正税稲、糒(ほしいい)などのほかに、救急稲という新財源も設置されるが、これは、律令国家が、それまでの儒教的思想に基づく政策から、人民の再生産過程を現実的に掌握することへ重点を移したことを示したものと理解されている。しかし、この賑給も、律令制の衰退に伴い、毎年5月吉日に賑給使を定め京中の飢民に米・塩を支給する儀式や、近京の山中に住する老貧の僧侶に対する毎年6月の施米の儀式などに形をとどめるのみとなった。

[加藤友康]


賑給(しんきゅう)
しんきゅう

賑給

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改訂新版 世界大百科事典 「賑給」の意味・わかりやすい解説

賑給 (しんごう)

〈しんきゅう〉ともいう。賑恤(しんじゆつ)とも書く。律令制下において高齢者,僧尼,身寄りのない者,困窮者,病人,被災者で自活できない者などに,稲穀,布,綿,塩などを支給する制度である。天皇の即位,立太子,改元,祥瑞,豊作,皇族の死去・病気など国家の慶事・大事に際して実施されるもの,疫病,災害,不作,飢饉によるものなど契機は多様である。対象地域は全国的規模のものと小地域から数国を対象とする限定的なものとに大別できる。天平期の正税帳や739年(天平11)の出雲国大税賑給歴名帳,773年(宝亀4)の太政官符案などでは地域別の受給者数,支給量など具体的な実施状況が知られる。支給物の中心は稲穀で,正倉に備蓄された田租穀の支出の大部分が賑給の費用で占められた時期もあった。しかし実情は救済の必要度の高い困窮者,病人の受給者数,支給量が高齢者や身寄りのない者に比べかなり少なく,困窮者,病人,被災者などは選択基準が不明確で,各地域の実施担当者の意思に左右されるという問題もある。国司らが該当者の水増しなどの不正により大量の稲穀を詐取することもあって,制度は実施担当者につごうのいい存在となり,救済面での実効性はさほど評価できない。平安期にはいるとしだいに形骸化し,毎年5月吉日に京中の困窮者に米塩を支給する朝廷の恩恵を示す儀式となった。
義倉 →救急田 →慈善事業
執筆者:

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普及版 字通 「賑給」の読み・字形・画数・意味

【賑給】しんきゆう(きふ)

施し与える。〔後漢書、循吏、第五訪伝〕張掖太守にる。ゑ、粟、石ごとに數千。訪、乃ち倉を開いて賑給し、以て其の敝を救ふ。~順、璽書(じしよ)して之れを嘉(よみ)す。

字通「賑」の項目を見る

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「賑給」の解説

賑給
しんごう

賑恤(しんじゅつ)とも。古代において,天皇即位・祥瑞出現などの国家の慶事・大事や疫病流行・飢饉に際して,正税または義倉穀をさいて,稲穀・布・綿・塩などを高齢者,夫や妻を失った者,貧窮者,病人,被災者らに支給する制度。支給の基準があいまいで,また被災者よりも高齢者に手厚いことから,実際の救済効果よりも,むしろこれらの行為によって天皇の徳を強調しようとする,儒教思想の影響下に実施されたものと考えられる。

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旺文社日本史事典 三訂版 「賑給」の解説

賑給
しんきゅう

律令制下,窮民に国家の正税の中から米を支給する制度
「しんごう」とも読む。儒教的な徳治主義に基づく。政府はこれにあてるための義倉・賑給田・救急田・救免稲などを準備した。賑給には国司があたったが,不正が多く,平安時代には形式的な年中行事と化した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「賑給」の意味・わかりやすい解説

賑給
しんごう

古代の窮民救済法。正税から救援米を支給する制度。平安時代中期以後は年中行事として,毎年5月に,京内の貧民に米塩を与えた。

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世界大百科事典(旧版)内の賑給の言及

【慈善事業】より

…その他個人で孤児や貧農の救済を行う者などいくつもの活動例があるが,藤原氏の一族のみの救済を目的として大臣が財源を提供したり施設を建て,その運営を施薬院等にゆだねている例や,私財による救済活動を行った豪族の中には位階の取得を目的とした者も考えられることなど,問題を含んだものも少なくない。 一方,全国規模のおもな公的救済制度としては賑給(しんごう)・義倉(ぎそう)・常平倉(じようへいそう)・湯薬支給・借貸(しやくたい)などがある。いずれも仁愛・仁政思想によるものとみられるが,理念どおりに機能していれば,限界をもちながらも一定の効果は期待できたであろうが,各制度の実態をよくみると問題は少なくない。…

【賑給】より

…対象地域は全国的規模のものと小地域から数国を対象とする限定的なものとに大別できる。天平期の正税帳や739年(天平11)の出雲国大税賑給歴名帳,773年(宝亀4)の太政官符案などでは地域別の受給者数,支給量など具体的な実施状況が知られる。支給物の中心は稲穀で,正倉に備蓄された田租穀の支出の大部分が賑給の費用で占められた時期もあった。…

【慈善事業】より

…その他個人で孤児や貧農の救済を行う者などいくつもの活動例があるが,藤原氏の一族のみの救済を目的として大臣が財源を提供したり施設を建て,その運営を施薬院等にゆだねている例や,私財による救済活動を行った豪族の中には位階の取得を目的とした者も考えられることなど,問題を含んだものも少なくない。 一方,全国規模のおもな公的救済制度としては賑給(しんごう)・義倉(ぎそう)・常平倉(じようへいそう)・湯薬支給・借貸(しやくたい)などがある。いずれも仁愛・仁政思想によるものとみられるが,理念どおりに機能していれば,限界をもちながらも一定の効果は期待できたであろうが,各制度の実態をよくみると問題は少なくない。…

※「賑給」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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