走湯山(読み)そうとうざん

百科事典マイペディア 「走湯山」の意味・わかりやすい解説

走湯山【そうとうざん】

静岡県熱海市伊豆山(いずさん)に鎮座する伊豆山神社の古名。伊豆山神社は伊豆山権現(ごんげん)・走湯(はしりゆ)権現ともいう。熱海温泉の守護神といわれ,《延喜式(えんぎしき)》神名(じんみょう)帳にみえる火牟須比命(ほむすびのみこと)神社を当社に比定する説がある。かつては日金(ひがね)山(現在の熱海市と静岡県函南(かんなみ)町の境の十国(じっこく)峠)にあり,のち社を移して日金山本宮,遷座地を中宮,再度移転した現在の社を新宮と称し,この頃から伊豆山権現・走湯権現と呼ぶようになったという。神社下の海岸近くには走湯(はしりゆ)などと呼ばれる温泉があり,当社の源流は日金山の火の神とこの地の温泉神の結合にあったと考えられている。平安初期に本地垂迹(ほんじすいじゃく)説により,本地仏を千手(せんじゅ)観音とした。鎌倉幕府箱根権現(現神奈川県箱根町の箱根神社)とともに二所(にしょ)権現として特に崇敬した。鎌倉初期に神宮寺の東明(とうみょう)寺の子院の一つ密厳(みつごん)院が別当職(しき)を相承,一時真言僧から天台僧に別当が変わったが,再び真言僧となり,ついで山城国醍醐(だいご)寺三宝(さんぼう)院が別当を兼帯した。豊臣秀吉による小田原征伐の際に,兵火にあって全山焼失したが,徳川家康が再建した。江戸時代の社領(朱印地)は300石,別当は般若院が務めた。明治維新時の神仏分離によって般若院は神域外に移転,現在に至る。例祭のほかに献湯祭などが行われる。

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改訂新版 世界大百科事典 「走湯山」の意味・わかりやすい解説

走湯山 (そうとうざん)

静岡県熱海市伊豆山に鎮座する伊豆山神社の古名に由来する名称で,伊豆山神社は伊豆山権現,走湯権現,略して走湯山ともいった。真言宗般若院は同社の別当寺である。同神社の在所伊豆山は中世以来社領で,近世になると賀茂郡伊豆山村が成立する。祭神は火牟須比(ほむすび)命とも伊邪那岐(いざなき)命,伊邪那美(いざなみ)命ともいわれ,《増訂豆州志稿》は《延喜式》にいう火牟須比命神社に比定している。同社はもと日金山(十国峠)に鎮座し(日金とは火之峯(ほがね),許々比乃森(ここひのもり)といい,火神を意味する),のち社を移して日金山を本宮,遷社地を中宮とし,再度移して現在の社を新宮と称し,このときから伊豆山権現,走湯権現と呼ぶようになったという。《松屋筆記》によると,単に伊豆の温泉神社と呼ばれたのも伊豆山神社であったようである。伊豆山温泉は走湯(はしりゆ),滝湯などと呼ばれ,横穴式噴湯の源泉地で,温泉が滝のごとく流れ出ることから走湯の語が生まれたのである。したがって,走湯権現の由来は日金山の火神と滝のごとくほとばしる温泉神とが結合した原始的信仰にその源流を見ることができよう。

 伊豆山般若院は松葉仙人が開基し,木生仙人,金色仙人,役行者弘法大師,杲隣大徳らが相続した関東随一の古跡であるという。平安初期伊豆山が修験者の修行の聖地となった点は事実である。かくて,本地垂迹説により本地仏を千手観音として伊豆山神社の神仏習合が成立し,鎌倉初期から東明寺の子院密厳院院主が別当職を相承,一時,天台僧が別当になるが,再び真言僧にかわり,ついで醍醐寺三宝院が兼帯。江戸期には般若院が別当職を相承した。源頼朝以来武士の崇敬あつく,足利尊氏,後北条氏の保護をうけ,戦国期には役高191貫文余であった。豊臣秀吉の小田原攻め戦火にあったが,徳川家康が再建し,以後社領300石を支給される。明治の神仏分離により般若院は移転された。
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世界大百科事典(旧版)内の走湯山の言及

【熱海[市]】より

…尾崎紅葉の《金色夜叉》にちなんだお宮の松,坪内逍遥の双柿(そうし)舎,錦ヶ浦,梅園,伊豆山神社などがあり,伝統工業としては樟(くすのき)細工が知られる。【塩川 亮】
[歴史]
 《和名抄》には〈田方郡直見郷〉とみえるが,古代より走湯(はしりゆ),大湯の温泉湧出地として知られ,伊豆走湯山(そうとうさん)など,信仰の地ともされた。源頼朝との因縁も深く,1213年(建保1)北条泰時は,阿多美郷を走湯山に寄進した。…

※「走湯山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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