海軍艦船の停泊,修理,補給,乗員の休養等の恒久的施設を有する海軍基地の一種で,海軍作戦の策源地をいう。近代的な軍港としてはイギリスのポーツマスが最も古く,1194年リチャード1世が海軍基地を建設したのに始まる。その後15世紀末から軍需工場や造船所が建設され,19世紀には海軍の本拠地としての司令部が設置され,イギリス海軍の発展とともに整備されてきた。また1865年軍港に指定されたドイツのキール,1917年海軍基地に指定されたアメリカ東岸のノーフォーク,1921年第11海軍区が設置されたアメリカ西岸のサン・ディエゴもそれぞれ有名な軍港として発展し現在に至っている。日本では,1884年横須賀に鎮守府を開設して軍港に指定したのが最初で,86年には海軍条例によって日本周辺海域を5海軍区に分け,各海軍区に軍港を,各軍港には鎮守府を置くことになり,呉,佐世保は89年,舞鶴は1901年,旅順(満州)は05年,それぞれ鎮守府開設とともに軍港となった。以後海軍区の変更等によって,旅順は14年,舞鶴は23年,それぞれ要港となり,舞鶴は39年ふたたび軍港となった。要港とは,《要港部条例》(1896)で定められたもので,軍港より規模,機能とも小さく,鎮守府司令長官の指揮下に置かれた。1896年初めて竹敷(長崎県対馬市の旧美津島町)に設置されたのを皮切りに,以後馬公(澎湖列島),大湊,永興(朝鮮北部),旅順,鎮海(朝鮮南部),舞鶴,徳山に順次要港が設置され,1941年大湊,鎮海,馬公,旅順の各要港部は警備府と改編された。
軍港は,シーパワー構成の重要な一要素であり,戦略的見地から艦船の停泊収容能力,水深,陸上交通の便,防備の難易等を考慮のうえ位置を選定する。航空母艦の寄港地としては艦載機の発着できる空港を近くに必要とし,所管区域内の部隊を指揮統制する司令部,艦船の入渠,船体機関の修理,魚雷・機雷等兵器の修理調整,弾薬・燃料・糧食等の貯蔵補給,艦船乗員の教育訓練と母港としての休養施設および病院等の諸施設が必要である。また海軍作戦の策源地として,万一の事態に備え,基地施設機能と停泊中の艦船の安全確保のため,レーダー,ミサイル,水中探知機等の港湾防御兵器を通常設置する。さらに軍港には,機密保持のため通常厳しい規則があって,指定区域内への当該国海軍所属艦船以外の出入港は許可を必要とし,軍港内の航行,停泊,上空飛行,写真撮影,測量等には制限があり,港内での無線の発信は通常禁止されている。
現在,海上自衛隊の総監部所在地の各基地(横須賀,呉,佐世保,舞鶴,大湊)は,軍港とは呼称しないが,軍港に準じた機能を持っている。このなかでも横須賀はアメリカ海軍最大の海外基地の一つでもあり,第7艦隊司令部と航空母艦ミッドウェーの母港となっている。
執筆者:田尻 正司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
海軍作戦の根拠地で、艦隊がここから進攻し、かつ終始人員と軍需品の供給・修理が可能な能力を備えた港をいう。日本では1886年(明治19)の海軍条例により、日本沿岸海面は5海軍区に分かたれ、各区に軍港が設置され、その警備のための鎮守府が設けられた。1903年(明治36)5軍港は4軍港に改められ、以後敗戦時まで横須賀(第一海軍区)、呉(くれ)(第二海軍区)、佐世保(させぼ)(第三海軍区)、舞鶴(まいづる)(第四海軍区)の4港が軍港とよばれた。これら港の周辺は、軍港要港規則によって、航空、測量、撮影、一般船舶の出入り、停泊などが禁止または制限されるなど厳重な規制の下に置かれた。このほか軍港に準じた要港もあり、太平洋戦争開戦時には大湊(おおみなと)、徳山、鎮海(ちんかい/チンヘ)(朝鮮)、馬公(まこう/マーコン)(台湾)、旅順(りょじゅん/リュイシュン)(中国)に所在していた。外国の軍港で名高いのは、サン・ディエゴ、ノーフォーク(アメリカ)、ポーツマス(イギリス)、ブレスト(フランス)、キール(ドイツ)、クロンシュタット、ウラジオストク(ロシア連邦)など。
[前田哲男]
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