今日用いられている造園の内容は多様で,概念も拡大しているが,もともとは庭を作ることから出発している。生活空間の中で,建築的空間が確立し一定の形式をもつようになると,それに対応して建築物の外回りの空間も,一定の機能をもつように整備されてくる。いわば卵の黄身に対する白身のような役割をもつ空間を整備する術として造園は出発し発展してきたといえる。したがって,最初は家に付属して設けられた外部空間である庭は,実生活の機能の一部を補完するものであった。農家の庭に典型的にみられるように,収穫物の乾燥,調製をはじめとする農作業のための場であって,生活を支えるための生産的空間であった。この空間は陽光と通風を必要としたが,これらの条件が代替的に満たされれば,必ずしも屋外である必要はなかった。その意味で,外部空間としての自立性は強くなかったと思われる。しかし,この空間に観賞,休養,遊戯などの広義のレクリエーション機能が付加され,自然的素材によって修景されるようになると,植物の生育上からも光と水と土は必須となった。ここに屋外にあることの積極的意味が生じてきた。造園技術が自然の素材の取扱いを基本としている理由もここにある。
自然と人間の接触の場である造園空間は,時代とともにそこに多くの機能を付加してきたが,同時にその内容も多様化し,公共性を増してきた。そして都市公園,都市緑地が発生した。都市生活環境全体を安全に快適にすることが,しだいに求められるようになってきたのである。市場,集会,情報交換,防災などの役割も加わってきた。さらに人々の生活圏が拡大し,行動が広域化すると,田園地域や自然地域をも取り込んだ計画が必要になってくる。人々が利用の対象と考えていた段階から,自然を保全し,自然と共存することが求められてくるのである。人間が生きていくために,自然の資源を永続的に保全し,有効に利用していくことが重要になってくる。以上の観点に立って土地利用全体を見直し,積極的に土地利用計画に参画していくようになった。今日,造園の領域は庭空間から国土さらには地球全体までを対象にするように拡大してきている。これらの空間を取り扱うとき,建築や土木と違うところは,非建ぺい空間(これをオープンスペースとか緑地という)のもっている特質と論理を生かしながら,土地利用全体を組織的に秩序づけようとすることにある。その意味で造園は,人間と自然の関係を物的な計画を通してとらえようとしてきた専門領域であるといえる。
造園という用語は,中国の明の時代に著された《園冶》にはじめて見られるが,日本では主として大正初期より使用されて今日に至っている。それまでは,作庭,造庭,築庭などといわれ,もっぱら庭園を対象としていた。造園に相当する英語は,イギリスではgardening,garden craft,garden design,landscape gardeningなどであるが,アメリカではlandscape art,landscape design,landscape engineering,landscape architectureなどと用いられ,両国で異なっている。これは造園の内容が新大陸では拡大していることによる。しかしながら現在では,両国ともlandscape architectureに統一されている。造園の定義には種々あるが,アメリカ造園家協会American Society of Landscape Architectsでは,造園を〈美的・科学的原理を応用して人間の物的環境を改善すること〉としている。日本では日本造園学会(1925発足)が,1964年に日本学術会議に報告した将来計画の中で,〈人間生活環境の物的な秩序構成において,自然と人間社会の調和融合を求めるため,健康にして美しく快適な緑の環境を地表に創造し保全育成する技術〉であるとの趣旨が記されているが,このへんがほぼ妥当なところであろう。したがって,このような技術とその基礎を研究する学問分野が造園学ということになる。
従来の世界の造園(庭園)様式は,大別すると建築式(幾何学式,整形式)と風景式(自然式,不整形式)の二つになる。建築式はイタリア,フランス,ドイツ,スペイン,インド,アメリカにおいて,風景式はイギリス,中国,日本でそれぞれ発達した。建築式は自然に対して対立的に人間の造形を強調しているのに比し,風景式は自然に順応,協調し,自然らしさをねらうものである。このことは材料の取扱い方においていっそう明確になる。すなわち建築式では,樹木を幾何学的形や鳥獣の姿に刈り込み,草花は図案効果を発揮させるように用い,水は噴水,壁泉,カスケードに利用する。岩石は石材としてのみ使用される。園路は直線を駆使する。それに対し風景式では,植物や岩石は山や森を象徴するよう配置,管理され,水も滝,渓谷,湖沼,大洋を想起させるものとなる。園路は自然な曲線を描く。このような際だった対照を示す両様式ではあるが,今日では同一庭園作品の中に両者を含む場合も多くなってきた。主建築の近くは建築式に,離れるに従って風景式にするなどの手法が一般化してきているのである。
造園技術は対象となる空間によって,その内容が異なってくる。たとえば庭園を対象とした場合には,植物や岩石の配置,樹木の整枝,剪定(せんてい)および移植,繁殖,管理手法など,主として素材の個々がもつ特質に基づく取扱いが重要視される。対象が公園や広場になると,これらを都市のどこに,どの程度の広さで配置するかという計画技術が求められるようになる。また集団植栽の技術や特殊環境(大気汚染,埋立地など)での緑化技術が必要となる。さらに農林業地域,自然地域が対象となってくると,生物を指標として土地を診断し,その結果を土地利用計画に結びつけていくための生態学的技術が導入されてくる。国土をできる限り有効に永続的に利用するための保全の思想を基礎にして,自然と人間の共存をはかる技術が開発されねばならないのである。
造園が取り扱う領域は,空間的には以上に述べたように,庭から国土全体さらには地球規模までが対象となるが,造園空間の形成と維持という時間的側面からとらえてみると,造園について別の分類が可能になる。造園の教育,研究は,むしろこのような分類を基礎に行われている。すなわち,造園の歴史,造園計画・設計,造園施工・植栽,造園管理・運営である。造園史には庭園史,公園史のほか,街路樹,広場,自然保護の歴史,技術史などが含まれる。造園計画は対象となる空間によって多岐にわたるが,一般には企画→調査→計画→設計のプロセスを経て行われる。各種造園についての計画内容は,後に示すとおりである。また最近は公園のような面的な問題から,生活空間内の緑の量と質を扱うことも主要なテーマになってきている。造園施工には施設の設計施工,植栽施工,造園工事が含まれる。造園管理には植生管理,樹木剪定などの維持管理,公園緑地の経済波及効果,料金政策などの運営管理がある。
(1)住宅庭園 よい庭をつくるためには,敷地に建物を建てるとき,庭のことも頭に入れて配置することが必要である。次に家族の意向,日照,地形,土壌,既存植物などの自然条件,交通,騒音,隣接家屋,供給施設などの周辺条件をよく考慮して,地割りをする。地割りに際しては,一般に門から玄関までの前庭,勝手口まわりの裏庭,それと主庭の三つに分けて考え,これらを有機的に連絡をもたせて全体をまとめることが大切である。
(2)集合住宅地造園 低層・中層・高層住宅等の形式の違いによって,空間構成の内容は異なるが,居住者からみれば住宅地内の安全性,快適性,利便性,プライバシー,静かさの確保などが考慮されねばならない。住棟の配置によって屋外空間のシステムも変わってくる。人口構成からみて,各階層の利用に供されるオープンスペースを用意しなければならない。また建物によって囲まれたオープンスペースの効果を発揮させること,歩行者と自動車の分離,通勤,通学,買物のための緑の動線などを系統的に整備する必要がでてくる。
(3)公園,緑地 都市には公園以外のオープンスペースもさまざまあり,それらと一体となって公園緑地系統を構成することが必要となる。公園内は遊戯,運動,観賞,休息の機能のほか,文化教養,遮へい,修景,便益,管理のための施設を考慮して用途区分をする。
(4)墓園 人々の永眠の地である墓園も造園の対象である。最近は緑の多い公園的な印象をもつものが増加してきた。墓園の大きさは,墓所の平均面積,戸数,園地・植栽の割合によって異なるが,一般には墓園の土地利用は,墓所部分30%,道路広場35%,建物・植栽地35%を標準としている。
(5)広場 広場は都市に住む人々にとって,休息,観賞,集会,催事,買物の場であり,そこに集う人々の情報交流,交歓の場となる。いわば人々にとって,精神的な核となる空間である。アゴラ,フォルムは,ギリシア,ローマにおいて都市の中心的存在であった。教会広場,市場広場などは,西欧市民にとって今日でも都市生活の物的・精神的センターである。このような広場は市民の強い要求によって生まれ,維持されるものである。
(6)工場造園 工場で働く人々の環境改善の一環として,また工場緑化によるイメージ・アップとして,さらに操業によって生じる周辺環境への影響を抑制するための,緩衝緑地の設置などを目的として行われる。
(7)学校造園 学校敷地から校舎を除いた空地全体に対する造園をいう。建築物の美化,校庭の衛生化および修景,教材園の造成,運動施設の設計などが対象となる。小学校,中学校,高校,大学などでその設計内容は異なるが,一般に校庭への十分な日照,砂塵の制御,適度な緑陰,地域社会の中心としての機能などが考慮される。
(8)道路造園 道路建設による周辺地域への影響(植生破壊,騒音など)の軽減および回復,通行者にとって安全で快適な環境の創造,沿道緑化修景による生物相の回復などを目的として行われる。
(9)自然公園 日本の自然公園は,国立公園,国定公園,都道府県立自然公園の3種類に分けられる。自然公園を計画するに際しては,自然と人間の利用との調和をはかるため,利用のための規制の計画,施設の計画と,保護のための規制の計画,施設の計画とがある。
→公園 →庭園 →広場
執筆者:井手 久登
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
造園という用語を文字どおり「園を造る」と解釈して、庭園や公園をつくる行為に限定するのは、現在の実情にあわないし、造園学的ではない。大正初期、欧米から移入された「ランドスケープ・ガードゥニング」や「ランドスケープ・アーキテクチュア」の翻訳として「造園」が定着していったのである。ここでは近代造園学すなわちランドスケープ・アーキテクチュアの概念を中心に展開する。
[進士五十八]
1970年代に入ると、それまでの公害反対、自然破壊反対という市民の声は、工場緑化や都市緑化、自然保護といった技術的・実践的施策による具体的対応を迫るようになった。これが80年代に入ると、親水運動や都市美、歴史的町並みの保全など広範な風景づくり・町づくり気運へと展開するようになった。このような「緑と水の町づくり」あるいは「アメニティ・タウン」を支える思想や技術が、「造園」すなわち「ランドスケープ・アーキテクチュア」landscape architectureである。
造園の意義は、人工化、画一化、巨大化が進み、自然とのアンバランス、地域性の喪失、ヒューマン・スケールの破壊がおこっている現代都市社会で、生物としての人間にとって望ましい環境デザインを実現することにある。鉄やコンクリートで覆ってしまう建築や土木本位の環境計画に対して、土地(地形)、緑(植生)、水(水系)、土(農地)、空間(オープン・スペース)、景観(ランドスケープ)などの保全と活用によって環境を創造するのである。
造園は、自然と人工の調和共存を図りながら、人間の多様な要求と満足を満たすために、土地・自然の生態系を保全しつつ、緑の効果を発揮して、住環境、都市環境、田園環境、自然環境など各種環境に対して、景観計画landscape planning、敷地計画site planning、造園設計landscape designの各レベルで、快適環境を創造する科学であり、芸術であり、技術である。具体的には、街路樹や緑道、都市公園、保存林、緑地、田園公園、歴史公園、自然公園(国立公園)、動植物園などから運動公園や墓園に至るまで、公共的に造成されたり保全される緑の空間のほとんどが現代造園の対象である。民間の個人庭園や集合住宅の庭園、工場の緑化や事業所、ホテル・旅館の外構(がいこう)、さらにはリゾート、ゴルフ場、テニスコート、遊園地に至るまで、観光地計画のすべても造園の対象である。この場合、高速道路の中央分離帯の遮光植栽のように科学的根拠を基本に置く造園と、美術館や公開庭園のように芸術性を追求する造園の二面性がみられる。
[進士五十八]
現代の造園すなわちランドスケープ・アーキテクチュアが使われるのは、19世紀に入ってからである。アメリカでニューヨークのセントラル・パークの懸賞設計(1858)に当選したオルムステッドFrederick Law Olmsted(1822―1903)は、18世紀初め以後西洋で初めて生まれたイギリス風景式造園すなわちランドスケープ・ガードゥニングlandscape gardening(風致造園=邸館周囲の人工的な造園がしだいに外部の自然風景と連続させられて絵のような庭園をつくる方法)よりも広範囲をカバーし、しかも科学的に自然を扱い社会のあり方にも計画的に対処する新しい職能として、自らランドスケープ・アーキテクト(造園家)第一号を名のった。以後、庭園や公園はもちろん、田園都市、遊園地から自然公園までに一貫して携わる緑の計画家の活躍が始まる。日本では大正初期、この語を翻訳して「景園」とか「造園」とよんだ。教育研究が盛んになるのは、関東大震災(1923)後の震災復興計画で、一挙に60か所近い公園緑地を新設することになったからである。これらの公園はもとより、日本初の洋風公園である日比谷(ひびや)公園(1903開園)以来、現在全国で用いられている公園意匠の原形は西洋庭園にある。古代エジプトに始まる西洋庭園史は、古代ギリシア・ローマ、スペイン式、イタリア式、フランス式までは、中心に軸線を通した左右対称型デザインを基本とした幾何学式の様式であった。公園に施設される噴水、パーゴラ(緑廊)pergola(ラテン語)、日時計、花壇、カスケード(階段滝)cascade(イタリア語)、カナル(運河状池泉)canal(フランス語)、彫刻などは、みな西洋庭園施設を利用したものである。庭園、ガードゥニングgardening(作庭、造庭、庭造)は洋の東西を問わず古く、長い歴史をもち、現代造園の源流・前史をなすもので、そこに、造園の目標、原理、造園設計の基本をみいだすことができる。gardenはヘブライ語のgan(囲い)とeden(楽しみ、喜び)の合成語であり、漢字の庭(てい)は建物で囲まれた場所、園は果樹を囲った姿である。原始、人間は、野獣や他民族など敵から守るために、囲いをつくることで安全に暮らせる空間を得た。しかもその中には水、果樹、動植物などの食糧が蓄えられ、暑い日差しから身を守る緑陰が必要であった。これらの条件が満たされた場所は楽しく喜びあふれた天国であった。ガーデンや庭園の語源には、安全で快適な環境条件が示されているし、西洋庭園の原型であるエデンの園やエジプトの庭園には、具体的なデザインイメージが描かれている。東洋庭園の理想が極楽浄土であるのと同様である。また、日本庭園が浄土の庭、須弥山(しゅみせん)・蓬莱(ほうらい)・鶴亀(つるかめ)の庭などを標榜(ひょうぼう)してきた理由もここにある。庭園から公園の時代に変わっても、造園は緑と水のある安全で快適で、エデンの園や浄土のような理想世界を地上に実現することを目標にしてきたのである。
理想的造園設計のポイントは、五つある。すなわち、利用上の機能性、美しさなどの美観性、グリーンミニマムなど自然生態系の保全性、時代的要求などへの社会性、感動や原風景性の付与などの精神性、の以上五つの側面のすべてを満たすことである。
[進士五十八]
『J・O・サイモンズ著、久保貞他訳『ランドスケープ・アーキテクチュア』(1967・鹿島出版会)』▽『日本造園学会編『環境を創造する』(1985・日本放送出版協会)』▽『進士五十八著『アメニティ・デザイン、ほんとうの環境づくり』(1992・学芸出版社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 リフォーム ホームプロリフォーム用語集について 情報
…庭と園は人の生活する家を媒介として結びつき,それぞれ内容を濃くするものであったが,庭と園をくっつけて,庭園という語になったのは明治以降のことで,19世紀末,明治20年代から30年代にかけて定着していったものである。現代,庭園の語は,造園の対象となる,区画された,美と機能のそなわった空間に対して使われている。また庭という言葉もひきつづいて使われ,社会生活が複雑に高度になるにつれて,造園の範囲は拡大し,区画されない土地,すなわち庭のウェイトが今日ますます高まっている。…
※「造園」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加