逸民(読み)イツミン(その他表記)yì mín

デジタル大辞泉 「逸民」の意味・読み・例文・類語

いつ‐みん【逸民/×佚民】

俗世間をのがれて、隠れ住んでいる人。
官に仕えず、気楽な生活を楽しむ人。「太平の―」
[補説]書名別項。→逸民
[類語]風太郎風来坊遊び人軟派遊客遊民失業者ニート

いつみん【逸民】[書名]

小川国夫短編小説。昭和61年(1986)発表同年、第13回川端康成文学賞受賞。

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精選版 日本国語大辞典 「逸民」の意味・読み・例文・類語

いつ‐みん【逸民】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 俗世間を離れて、隠れ住む人。
    1. [初出の実例]「却歓朝野多休暇。盛世歌謡属逸民」(出典:済北集(1346頃か)二・秋日)
    2. [その他の文献]〔論語‐微子〕
  3. 善良な民。〔日葡辞書(1603‐04)〕
  4. 気ままな生活を楽しんでいる人。
    1. [初出の実例]「佚民(イツミン)とは遊民をいふ」(出典:譬喩尽(1786)一)
    2. 「主人も寒月も迷亭も太平の逸民で」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二)

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改訂新版 世界大百科事典 「逸民」の意味・わかりやすい解説

逸民 (いつみん)
yì mín

中国隠者。知識階級に属しながら政治の世界を俗として仕官せず,民間に隠れて高潔に生きる人々で,隠逸,高逸,高士などともよばれる。聖天子の尭に招かれても,これをけがらわしいとした許由(きよゆう)や,周の武王の治世でもその粟をくらわなかった伯夷(はくい)・叔斉(しゆくせい)などが,その典型とされる。生活態度は道家に近いが,儒家でも《論語》には〈邦に道なければ〉隠遁する人を〈君子〉として評価しており,民の声を示す暗黙の批判者として逸民を容認し尊重することが,為政者の務めとされる。3世紀に《高士伝》が出はじめ,《後漢書》の〈逸民列伝〉以後ほとんどの正史に隠逸,高逸,逸士などの列伝があるのは,そのころに逸民に対する評価が確立し,以後の中国社会に容認されたことを示す。道士や僧侶も逸民の一種とみなされることが多く,文士や芸術家の中にも逸民をもって自任し,悠々自適の生活を送るものが多い。日本でも,俗世間を逃れて気楽に暮らす人を,ひろく逸民と呼んでいる。
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普及版 字通 「逸民」の読み・字形・画数・意味

【逸民】いつみん

世に隠れている人。〔論語、尭曰〕滅國を興し、世を繼ぎ、民を擧ぐれば、天下の民、心を歸す。

字通「逸」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「逸民」の意味・わかりやすい解説

逸民【いつみん】

中国の隠者。自己の節義や志を全うするため,名利を捨て官職を離れて野に隠棲する人々で,隠逸,高逸,高士などとも。伯夷・叔斉竹林の七賢,陶淵明などが代表者。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「逸民」の意味・わかりやすい解説

逸民
いつみん

隠者

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世界大百科事典(旧版)内の逸民の言及

【道家】より

… 道家は,その源が戦国の乱世それ自体,すなわちこの一大社会変革の生み出す政治への不信ないし生の不安にあり,それらを理論的に解決して人々に慰めを与えるものだったので,当時の失意の士大夫の間に多数の支持者を得たのみならず,今日まで同様の時代・類似の境遇の人々に広範に信奉されてきた。その先駆は《論語》にいう逸民であるかもしれぬが,直接には戦国中~後期の(1)個人の生命の充実を重んじた楊朱,子華子,詹何(せんか),(2)寡欲に徹し闘争の否定を唱えた宋牼(そうけい),尹文(いんぶん),(3)道徳的先入観からの脱却を説いた田駢(でんへん),慎到,(4)総体としての世界の〈実〉に依拠して,あれとこれとの区別である〈名〉(概念,判断)を軽視した恵施(けいし)などであり,その成立と展開は《荘子》《老子》《淮南子》などによって最もよく知りうる。前3世紀初め,自我の撥無(はつむ)によって一の無たる世界に融即せよ,それこそが道をとらえた聖人の主体性だからとする万物斉同の哲学に始まり,そのように世界を統御しつつ同時にそこから超出して自由であれと説く遊(ゆう)の思想に受け継がれ,以後各方面に展開していった。…

※「逸民」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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