遺伝子組み換え生物(読み)いでんしくみかえせいぶつ(その他表記)genetically modified organism; GMO

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「遺伝子組み換え生物」の意味・わかりやすい解説

遺伝子組み換え生物
いでんしくみかえせいぶつ
genetically modified organism; GMO

目的形質を発現するように,遺伝子組み換え技術(→遺伝子操作)や生殖的クローニングなどの方法を用いて,実験室ゲノムが操作された生物GMOともいう。従来の家畜生産や耕種農業では,求める特徴をもつ子孫を残すための選抜育種が長く行なわれてきた(→品種改良)。だが,遺伝子組み換え技術を用いると分子レベルで精密にゲノムを書き換えた生物を生産することができる。多くの場合,従来の選抜育種では容易に得られない形質をつくりだす遺伝子を,まったく別の生物種から組み入れる手法が用いられる。生殖的クローニングでは,1996年に動物で初めてクローン羊ドリーが生まれ,それ以降,ブタやウマ,イヌなど多くの動物のクローンが誕生した。すでに GMOは農業や医療,研究,環境管理を通じて社会に浸透しており,もはや日常生活の一部になっている。
1980年代以降,GMOは生物学・医学の主力研究の一つである。たとえば,ヒト遺伝病の遺伝子組み換え動物モデルにより,新しい治療法の試験や,発病の危険因子候補および疾患を助長する修飾因子の役割などについて研究が可能になった。また,遺伝子を組み換えた微生物や植物,動物は複雑な薬の開発にも革命をもたらし,安全性が高く価格の安いワクチンや治療法が誕生した。たとえば,遺伝子組み換えパン酵母で生成した B型肝炎ワクチン,遺伝子組み換え大腸菌で生成される糖尿病患者用のインスリン製剤,実験室培養の遺伝子組み換え哺乳類細胞で生成される血友病患者用の第VIII因子,心筋梗塞や脳梗塞患者用の TPAtPA,組織プラスミノーゲン活性化因子)など多岐にわたる。
ほかにも遺伝子組み換え昆虫は重要な研究領域になっており,なかでも顕著なのが寄生虫病予防への取り組みである。たとえば,マラリアマラリア原虫が蚊と人に寄生して広まるが,マラリア原虫が消化管に入るのを阻止する蛋白質 SM1をもつ蚊が遺伝子組み換えによって開発されている。これにより,蚊はマラリア耐性をもつようになり,マラリア原虫の生活環を崩壊させることができる。
ヒトの遺伝子組み換えによる遺伝子治療は,からまれな代謝異常までさまざまな疾患で選択しうる一つの治療法になりつつある。幹細胞技術と遺伝子組み換え法を合わせれば,患者から採取した幹細胞の遺伝子を実験室で組み換え,目的の遺伝子を導入することも可能になる。こうした遺伝子組み換え細胞を患者に導入すれば,適合ドナーがいなくても疾患を治療できるようになることが期待される。さらに,GMOは環境問題にも応用できる。たとえば,細菌の中には生分解性プラスチックを生成できるものがあり,その能力を,実験室で容易に培養できる微生物に移動させることで,プラスチック産業全体の環境負荷を減らす可能性が示された(→バイオプラスチック)。

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