享禄五年(一五三二)住持尊海によって書かれた蹉山縁起(寺蔵)に「夫蹉山金剛福寺は、過去遠々仏跡、菩薩説法の浄場なり、仰て地形の勝絶を見るに、後は大悲の山峨々とそびへ、慈童妙大の雲靄々然たり、前は弘誓の海漫々として波浪不没の粧蒼蒼乎たり、(中略)金剛福寺は去斯不遠の補陀洛界也」「古老伝に云、往昔金峰上人住寺時、天魔常に障碍をなす、上人一指を上げて降伏し給しかば、諸魔悲歎蹉せしむ、故に月輪山を改めて蹉山と号すといへり、すべて当寺に放主坊とて両面一足天狗ありと申伝や」などとみえ、当地の景観やそれと深く結び付いた信仰の特徴(近年これを「海の修験」とよぶ研究者もある)をよくうかがわせている。なお開創時に勧請されたと伝える諸神のうち、熊野三所権現・愛満・宝満の宮は寺内にあったが、白山権現は岬の海食洞門の上に祀られていたといい、
開創についての確かな史料はない。史料上に寺名がみえるのは、応保元年(一一六一)一二月日の幡多郡収納所宛行状写(「蠧簡集」所収金剛福寺文書、以下同文書については個別文書名のみ記す)まで下るが、正嘉元年(一二五七)四月日の前摂政一条実経家政所下文案には「可早奉加阿闍梨慶全勧進造金剛福寺堂舎神殿等用途事」とあって、「右慶全解状称、謹案弘仁十四年正月十九日天皇手印勅書称、当山者是弘法大師現身証果之霊地、(中略)以千手観音而為其本尊、以三所権現而為大行事、忠仁公為上卿于時右近衛大将、聖皇帝凝叡念已上勅書取意略抄、所以仏法僧宝耀神威也、(中略)故老相伝曰、補陀洛山化主三面千手観世音菩薩毎日臨光於此寺云々、是以性空上人之拝生身也、此証六根清浄之位、賀東行者之遂即往也、従此遷補荼洛山之堺誠是仏法相応人地相叶者哉、(下略)」とある。また嘉応元年(一一六九)八月日の金剛福寺僧弘解は「蹉御崎金剛福寺三昧供并修造料事 合佰捌拾斛募供僧六口」について、「右件三昧供、嵯峨天皇御施入、当山并金剛頂寺之間、各三百三十三石也、(中略)於金剛福寺者、存立用無実、依之古法性寺入道殿下当国成敗之刻、引旧例改之三斗代免田、寄三十町、募百八十石加免判、(下略)」と記す。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
高知県土佐清水(とさしみず)市足摺(あしずり)岬にある真言(しんごん)宗豊山(ぶざん)派の寺。蹉跎山補陀落院(さださんふだらくいん)と号する。本尊は三面千手観音(せんじゅかんのん)。四国八十八か所霊場38番札所。1257年(正嘉1)の文書によれば、823年(弘仁14)に弘法(こうぼう)大師空海が嵯峨(さが)天皇の勅願(ちょくがん)を得て開創したという。足摺岬の先端にあることから、南方補陀洛山の観音浄土を望む霊場として、古代・中世の修験(しゅげん)者のかっこうの行場とされた。平安・鎌倉時代には土佐を知行した藤原氏との関係を深め、とくに鎌倉初期以降、幡多荘(はたのしょう)が成立するとその領主九条家(のち一条家)が当寺を保護した。中世にはたびたび炎上、そのつど再建された。鎌倉末期から室町期にかけ熊野信仰が盛んになると、当寺もその守護神を熊野権現とするところから、土佐地域の修験の根拠地とされた。戦国末期には長宗我部(ちょうそがべ)氏、江戸期には山内氏が庇護(ひご)に努めた。和歌山県那智(なち)の補陀洛山寺(ふだらくさんじ)に次いで、補陀落渡海の伝承地としてもよく知られている。寺宝には南北朝期・室町期の彫刻、絵画が多い。
[水谷 類]
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出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
…植生はトベラ,ハマヒサカキ,ヤブツバキなどの常緑広葉樹のほか,リュビンタイやクワズイモなどの草本,ビロウやアコウなどの亜熱帯植物の自生もみられる。また岬には灯台,展望台,四国八十八ヵ所38番札所で,822年(弘仁13)空海の建立と伝えられる金剛福寺があって,竜串,見残しなどとあわせて高知県の重要な観光拠点の一つを形成している。付近の民家はツバキやマキからなる生垣によって囲まれ,段畑とともに独特の景観を呈していた。…
…沿岸部一帯は足摺宇和海国立公園に含まれ,竜串(たつくし),見残し一帯の海は海中公園に指定されている。足摺岬にある金剛福寺は空海の開創と伝え,四国八十八ヵ所の第38番札所。補陀落渡海(ふだらくとかい)の聖地としても信仰された。…
※「金剛福寺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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