炭素数6以上のアルコールの総称。天然には,脂肪酸とエステルをつくって,蠟,油脂の成分として動植物界に分布している。
高級アルコールは,従来油脂または蠟を原料として,高圧接触還元,金属ナトリウム還元,ケン化蒸留などの方法により製造され,洗剤,可塑剤原料として用いられていたが,これらの需要が急激に増大したため,石油化学による各種の合成アルコールが工業生産されるようになった。高級アルコールの工業的製造法を大別すると次の5種類となる。(1)(2)の製品を天然アルコール,(3)~(5)の製品を合成アルコールと呼ぶ。各製造法による製品の呼称をかっこ内に示す。
(1)油脂の還元(還元アルコール) (a)高圧接触還元法 ヤシ油はおもにC8~C16,とくにC12飽和脂肪酸のグリセリドからなるが,これを還元するとそれと炭素数の等しい高級アルコールが得られる。ヤシ油に触媒として亜クロム酸銅(ときにカドミウム,セシウムを加える)を用い,水素を150~300気圧,250~350℃で反応させる。生成するのは飽和高級アルコールの混合物で,C6~C10が16~20%,C12が45~50%,C14~C18が30~35%含まれている。触媒と還元条件の選択により不飽和成分を残す方法もある。(b)金属ナトリウム還元法(ブーボー=ブラン法) 油脂,または一般の脂肪酸エステルと,低級アルコール(メチルブチルカルビノールなど)を,金属ナトリウムを懸濁させたトルエンなどの溶媒に滴下しつつかき混ぜて還元を行わせる。反応終了後水を加えると,グリセリンを含んだ苛性ソーダ液と高級アルコールが2層に分かれるので分別採取する。原料に不飽和脂肪酸エステルを用いると,対応する不飽和アルコールが得られるので,とくにそれを目的とする場合に用いられる。
(2)ケン化蒸留法(蒸留アルコール) 原料油(主としてマッコウ鯨油)に濃厚な苛性ソーダを加えて100℃以上に加熱してケン化し,つぎに100~150mmHgの減圧下で約200℃の過熱水蒸気を吹き込んで水蒸気蒸留をすると,高級アルコールが留出し,缶残(かまざん)として脂肪酸セッケンが得られる。高級アルコールの収量は約35%。脳油(頭部から得られる油脂)からの脳アルコール,皮油(体油ともいう)からの皮アルコールは,ともにC14~C20の飽和および不飽和の直鎖1価のアルコール混合物である。脳アルコールはセチルアルコール約40%,オレイルアルコール約30%,また皮アルコールはオレイルアルコール40~70%,セチルアルコール25~30%を含む。この混合アルコールから精留などの操作によって各種のアルコールを分別し,また水素添加により不飽和アルコールを飽和アルコールとすることが行われている。
(3)チーグラー法(チーグラーアルコール) エチレンを原料とし,有機アルミニウムを用いた直鎖第一アルコール混合物の製造法。高級アルキルアルミニウムを空気または酸素で酸化してアルコキシドとし,加水分解すると,偶数個の炭素(通常C4~C20)からなる直鎖第一アルコール混合物が得られる。洗剤,可塑剤原料として需要の多いC10~C14アルコールは全アルコール生成量の約50%であるが,触媒系,反応条件を調整することによりある程度収量分布を変えることができる。
(4)オキソ法(オキソアルコール) オレフィンを原料とし,コバルトカルボニル系触媒を用いる直鎖および分岐混合アルコールの製造法。コバルトカルボニルを触媒とし,高級α-オレフィンに一酸化炭素と水素の混合ガスを150~300気圧,120~170℃で作用させ,生成物を硫酸などで洗ってコバルトを除く。得られるのは原料オレフィンより炭素数が一つ多い2種のアルデヒドで,これを水素添加してアルコールとする。原料のオレフィンは,現在では石油化学工業で石油を分解して得られるプロピレン,ブチレンなどの低重合によるオレフィン(分岐),n-パラフィンの分解によるオレフィンなどを用いている。
(5)パラフィン酸化法(パラフィン酸化法第二アルコール) パラフィンをホウ素の存在下で空気酸化して第二アルコール混合物を合成する方法。
工業原料として,とくに合成洗剤用には直鎖構造の1価第一アルコールが重要である。比重は0.81~0.84。沸点はC6アルコールで156℃(760mmHg),炭素鎖の炭素が一つ増すごとに約20℃ずつ沸点が高くなる。飽和,不飽和による差はきわめて小さい。融点は飽和C6アルコールが-44.6℃。C12以上のものは常温(20℃)で固体,不飽和のものはC18でも常温で液体である。いずれも水に難溶で,炭素数が大きくなると有機溶媒にも溶けにくくなる。
用途としては,可塑剤,洗剤,界面活性剤,合成潤滑剤原料として,また繊維油剤,有機合成原料として広く用いられる。たとえばC6~C10アルコールはフタル酸,アジピン酸などのエステルとして塩化ビニル樹脂などの可塑剤に,またC12~C18は硫酸エステルとして中性洗剤に,またC12アルコールに数分子のエチレンオキシドを付加させ,非イオン界面活性剤とするなど,その使用量は大きい。C8以下のものは溶媒,香料用にも利用されている。
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
分子量の大きいアルコール.普通,炭素数12以上の脂肪族アルコールをさす.脂肪酸とエステルになって,ろうとして動物,植物内に広く存在する.ろうを濃厚な水酸化ナトリウムでけん化したり,高級脂肪酸エステルを還元すると得られる.ろう状の中性物質で,水に不溶.炭素数が大きくなると有機溶媒にも溶けにくくなる.セチルアルコールC16H33OHは鯨ろうから,セリルアルコールC26H53OHは支那(しな)ろうから,ミリシルアルコールC30H61OHはみつろうから得られる.界面活性剤,可塑剤,合成潤滑油の原料に用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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[分類と命名]
アルコールは一般式R-OH(Rは脂肪族残基)であらわされる。分子中の炭素原子数の多いか少ないかにしたがって,少ないもの(ふつう炭素原子数5以下)を低級アルコール,多いものを高級アルコールとよぶ。また,水酸基が1個,2個,3個などのアルコールは,それぞれ一価アルコール,二価アルコール(グリコール),三価アルコールなどといい,2価以上のものを多価アルコールとよぶ。…
※「高級アルコール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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