米、麦、大豆などの穀物や、穀物精白の際に生じた糠(ぬか)やふすま(麬)にコウジカビを繁殖させたものを一般に麹という。酒をつくる際、原料の穀類を口中でかんで容器に吐き出して唾液(だえき)アミラーゼで糖化したことから、麹の古語「かむだち」が生まれ「かむち」→「かうぢ」と変化したといわれる。また一説には、「かびたち(黴発)」を語源とするともいう。
[河野友美・山口米子]
麹の歴史は古く、清酒の原型は『日本書紀』に記載されていることから、当時すでに麹はあったものと思われる。しかし、現在のような清酒が生まれたのは江戸時代であるから、酒造用の麹も、この時代に、いまのようなものが完成したと考えてよいだろう。大豆の麹は豆みそ用に使用されるが、これは、蒸した大豆を搗(つ)きつぶして、団子状に固めて玉にして吊(つ)るしておき、自然にコウジカビが付着して麹になるところから、非常に古くから利用されていたと思われる。また、麦や麬などを麹にしたものは、室町中期ごろに始まったしょうゆ醸造に利用されていたとみられる。
[河野友美・山口米子]
麹には多くの種類があるが、おもなものは次のとおりである。
(1)黄麹 蒸し米を材料にしてつくる麹で、清酒、みそ、しょうゆを製造するときに使う。日本独特のものである。この麹はアスペルギルス・オリゼーというカビが用いられる。このカビが繁殖すると初期に黄色の胞子をつくり、全体が黄色を呈するので黄麹の名がある。糖化酵素のアミラーゼが、醸造食品の原料、たとえば清酒では米を糖化する。甘酒ができるのもこの糖化力による。
(2)黒麹 黒い麹で、菌種はアスペルギルス・アワモリである。泡盛(あわもり)や焼酎(しょうちゅう)のもろみづくりに利用する。
(3)紅麹 真紅の美しい色をした麹で、モナスカス・アンカーが菌種である。中国の高級酒や台湾での紅酒(アンチウ)に用いる。
(4)麯子(きょくし) 小麦粉や、とうもろこし粉を練り固めてつくったれんが状の麹。クモノスカビをはじめ、各種の菌種の混合である。中国酒の原料に用いられる。
(5)小麦麹 炒(い)り粉砕小麦、あるいは麬に菌種を繁殖させてつくった麹で、しょうゆ製造に用いる。タンパク質消化酵素のプロテアーゼ作用が非常に強い。
(6)糠・麬麹 糠や麬でつくった麹で、アルコールや酵素剤の製造に用いられる。
[河野友美・山口米子]
日本の代表的な麹である黄麹の作り方は次のとおりである。原料の米は精白し、吸水後十分に蒸す。蒸し上がったものを放冷して種麹を散布し、均質に混合する。これを一定温度に保った室(むろ)に、浅い木箱の麹蓋(ぶた)に盛って積み重ねる。2~3日し十分に麹菌が繁殖したところで、室から取り出す。これを「出麹(でこうじ)」という。麹は、乾燥後に放冷させてコウジカビの発育を止める。出麹までの期間は2~3日で、菌が繁殖中で、その勢いがもっとも盛んなときには40~43℃の温度に達する。米麹は、清酒用のほか、米みその主材料としても使用される。しょうゆでは、炒って砕いた小麦、あるいは麬に麹菌をつける。豆みそでは、大豆を蒸して丸めた玉につける。麦みそでは、大麦または裸麦(はだかむぎ)に麹菌をつける。
麹作りでは、コウジカビが増殖しやすいようにするとともに、他の雑菌が入らないように、通常、麹室をつくる。麹室は、外界と遮断するだけでなく、室内の空気、温度、湿度などもコントロールすることによって、よい麹をつくることができる。
[河野友美・山口米子]
『小泉武夫著『光琳テクノブックス1 麹カビと麹の話』(1984・光琳)』▽『村上英也編著『麹学』(1986・日本醸造協会)』▽『日本醸造協会編・刊『分子麹菌学 麹菌研究の進展』(2003)』
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