避妊(読み)ヒニン(英語表記)contraception

翻訳|contraception

デジタル大辞泉 「避妊」の意味・読み・例文・類語

ひ‐にん【避妊】

[名](スル)人為的に、妊娠しないようにすること。

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精選版 日本国語大辞典 「避妊」の意味・読み・例文・類語

ひ‐にん【避妊】

  1. 〘 名詞 〙 人為的に妊娠を避ける方法をとること。
    1. [初出の実例]「堕胎とか、避妊とかいふ行為」(出典:我等の一団と彼(1912)〈石川啄木〉三)

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改訂新版 世界大百科事典 「避妊」の意味・わかりやすい解説

避妊 (ひにん)
contraception

人為的な手段によって妊娠を防ぐこと。動物とは異なり,ヒトは生殖を目的としない性交を行うことから,妊娠を希望しない場合は,避妊によって妊娠を防ぐ必要が生じる。避妊は医学的には〈受胎調節〉と呼ばれることが多く,社会制度上も母体保護法に受胎調節実施指導員の規定がある。似た言葉に〈産児制限〉〈家族計画〉がある。産児制限birth controlの語はかつてよく用いられたが,出産の制限をするというよりも受胎を制限することが目的であり,また〈制限〉の語感には抵抗もあることから,受胎調節の語が用いられるようになった。一方,家族計画family planningは,その家族にとって,いつごろ何人の子をもつかが問題となる語であるため,避妊とは意味内容が異なる。また不妊手術との関係でいえば,避妊は中止すれば妊娠が可能であり,一方,不妊手術は最も確実だがそのままでは不可逆的である点で避妊とは異なっている。

古来,人間はさまざまな方法を用いて,避妊の努力を行ってきた。これらのなかには,現在の知識からみれば疑わしい方法も少なくないが,妊娠の生理学的機序が解明される以前にも,産後の授乳中や,精液が女性の腟内に入らないときには妊娠しにくいことが,経験から知られていた。たとえば,腟外射精法は旧約聖書に記述がみられるほど古い方法である。腟内に異物を入れて精子の子宮内進入を防ぐ方法も行われ,岩塩,はちみつ,植物の葉,レモンなどが利用された。また性交後に腟を洗浄する方法も,効果は低いが昔から行われていた。しかし,ヨーロッパを中心にキリスト教が普及するにつれて,避妊は罪悪視されるようになった。近世に入っても,医師はもっぱら妊娠や出産を扱い,避妊法の研究は邪道とされ,一方,避妊法の指導や普及には,性器の構造や性交の具体的説明を必要とすることから,これらはわいせつで不道徳とみなされ,避妊法の解説書や避妊器具の宣伝,販売は法律で禁止された。さらに,19世紀から20世紀にかけては,先進諸国は帝国主義時代を迎え,各国で〈富国強兵〉策をとったため,出産が奨励され,やはり避妊は禁止された。日本でも同様で,コンドームのみが性病予防器具として販売された。避妊法の指導普及が各国で許可されるようになったのは,第2次大戦以後のことである。

 日本でも,第2次大戦後に急激な人口増加が起こり,希望しない妊娠の中絶による母体の障害が増加したため,政府は1948年に優生保護法(現行母体保護法)を制定して,人工妊娠中絶を合法化するとともに,避妊法の普及を推進した。この結果,家族計画の考え方は広く普及したが,当初から主としてコンドーム,ペッサリー,基礎体温法,オギノ式の使用が重点的に指導され,その影響が続いたため,現在用いられている方法には問題点が多い。1960年代になると,母子保健と人口増加抑制という二つの立場から,避妊の普及は世界的な重要課題となり,生殖生理学の進歩とともに多くの新しい方法が開発された。現在も,世界保健機関(WHO)が中心となって研究が進められている。

母子保健と人口政策という二つの立場からみることができる。

 (1)母子保健 夫婦の年齢,職業,社会的・経済的条件,住宅事情,人生観などの諸条件によって,希望する子どもの数や産む時期などは左右される。一方,多数の子どもを続けて産むと母親や産まれる子どもの健康ばかりでなく,すでに産まれている子どもの健康にも障害となる。そこで家庭的・社会的条件をも含めて,母子の健康を守るためには避妊が必要になる。このような考え方を家族計画と呼び,避妊はその手段となる。(2)人口問題 近代医学の進歩と普及は多くの国で短期間に死亡率低下と平均寿命の延長をもたらしたが,一方で,家族計画の普及によって出生率も低下したため,人口の増加は抑えられた。しかし発展途上国では出生率低下がこれに伴わないため人口が急激に増加して,いわゆる人口爆発を起こし国の発展や近代化を阻害している。これらの国では人口増加抑制策として避妊,不妊手術,人工妊娠中絶などを必要としており,先進国からの援助のなかでも重要な位置を占めている。

ある避妊法が有効であるためには,次のような条件が必要となる。すなわち,(1)避妊効果が確実,(2)使用法が簡単で実行しやすい,(3)性感を損なわない,(4)安全で無害,(5)機序が簡単で理解しやすい,(6)安価で経済的負担にならない,などである。しかし理想的な避妊法はまだ開発されていない。

 避妊にはいくつかの方法があり,さまざまに分類されているが,表のように分けると理解しやすい。このうち,いわゆる民話的方法とは妊娠の生理的機序が解明される以前に考えられた方法をいい,伝統的方法(古典的方法)とは精子と卵子の受精を器具や薬品によって防ぐ方法をいい,近代的方法とは生殖生理学の進歩とともに開発され,現在最も深く研究された方法をいう。これら避妊法の効果は,〈ある方法を100人の女性が1年間使用した場合に起こる失敗妊娠の数〉で表現され,使用する男女の年齢,教育水準,性に対する考え方,性交回数,避妊実行意欲,社会環境など,さまざまな因子により影響される。図に各種避妊法の効果の最も優れた場合と最も劣る場合とを示す。図のように,コンドームペッサリー殺精子剤,オギノ式(荻野説)などの伝統的方法は失敗率が高く,効果が近代的方法に比して劣る。伝統的方法はすべて性交のつど実行せねばならないためムードを阻害しやすく,使用法も面倒なものが多く,練習,学習,月経や体温の記録,計算などを必要とするのに対して,近代的方法のピルは1日に1度錠剤を飲むだけ,IUDは医師に一度挿入を受けるだけであるから,簡単で理論的にも避妊効果が高く,性交のたびに準備しなくともよいという特徴をもつ。

先進国では主として母子保健の立場から,一方,発展途上国では主として人口抑制を目的として,避妊法の普及が熱心に行われている。使用されている方法は,ほとんどの国でピルかIUDが主となっている。ただし日本だけは特殊で,避妊を実行している夫婦の比率は60~70%と高いが,オギノ式によって受胎期と不妊期とを計算し,受胎期にはコンドームを使用し,不妊期にはなにも使用しないという方法が,全体の約70~80%を占めている。だれにでも適当で,絶対に確実な方法は存在しないから,個々の男女に最も適した方法を選択することになるが,コンドームとオギノ式を交代で用いる方法は,方法そのものは無害でも失敗率が高いため,日本では人工妊娠中絶の件数が諸外国に比して多くなっている。ピルは誤解されているほど危険ではなく,出産経験のない若い女性に最も適当である。またIUDは出産後,次の妊娠まで間隔をあけたり,欲しいだけの子どもを産み終わった女性に適している。
妊娠
執筆者:

現在,世界中で生殖年齢にある多くの人々が,妊娠の時期と回数を調整し,出生児数の調節を行っている。この目的のために避妊や人工妊娠中絶(受精後の介入という意味で後者をinterceptionという)が行われる。出生児数の計画とは,経済体制を一にする集団(小は家族から大は国家まで)の人員をもっぱら規制する意味で使われる。この必要性が生じるのはおもに次の場合である。(1)集団内の生産力が自然の人口増に追いつかないとき,(2)集団内の生産力が低下し,増加する人口を養えないとき,(3)集団内あるいは上部集団の経済体制が変化し,集団員の構成と役割の変化が求められるとき。1960年代以降,地球の資源,食糧生産が地球全体の爆発的人口増に追いつかないという危機意識,および経済成長,生活水準の向上は安定した人口成長と密接に関係するという認識により,人口抑制が社会的課題あるいは国家政策として考えられ,国際間で話し合われるほどの問題になった。

 しかしそれ以前,中国,インド,日本など少数例外を除き,避妊も中絶もタブーであった。とくにカトリック文化圏では,婚姻内の生殖目的以外の性的活動を罪とすることから,長い間いかなる避妊も違法であった。近代になって医学が急速に発達し,生殖のメカニズムがある程度明らかになってきた段階でも,女性は結婚して家庭に入り,子を産み育てるのが使命だとする通念は依然として強かった。また避妊の普及運動が,危険な妊娠と出産からの解放という点から女性解放運動と結びつき,労働運動など社会運動とともに進められたことから,多くの国々で禁圧された。一方,前述のように先進諸国では帝国主義の段階にあって富国強兵策をとり,人口増加による国力の充実を図ったため,避妊はこれに反するものとして禁止された。したがって,上記のような立場から多くの国々で出生数の計画が行われ,避妊の普及に力が入れられるようになったのは,第2次大戦以後のことである。しかし,60年代以降でさえ,避妊の奨励は性道徳の混乱につながるとし,その必要性を認めながら積極的教育と普及に取り組まない国もある。

このように,受精や妊娠についてのメカニズムが明らかでなかった時代や避妊が禁圧された時代の避妊法には,無効であるばかりか,有害なものも少なくなかった。しかし,望まない妊娠をしてしまった女性たちは,これらの方法によらざるをえず,それによる障害も少なくなかった。人工妊娠中絶が合法化される以前の社会では,妊婦死亡原因の第1位は違法で危険な薬剤や方法による感染や傷害によるものであった。この結果,女性全体の死亡率も高くなり,長い間平均寿命も男性のそれを下回った。

 さらに産業革命によって都市化が進み,自給自足型大家族形態が崩れ,生産単位から小規模消費単位へと家族の構造が転換すると,その員数調整は女性にゆだねられた。たとえば,1920年代の大恐慌時代のアメリカの出生率をみると,現在より避妊法がはるかに不確実であったにもかかわらず,現在よりも低いくらいであった。

 このように,受精,妊娠のメカニズムが解明されはじめ,近代的避妊方法の研究開発,普及が行われはじめた30年以前は,その役割を担うのが女性だけであるために,経験者や助産婦などおもに同性間の互助協力で処理された。社会的矛盾が女性の機能にしわよせされ,多くの女性や子どもが命をおとす状態が続いても,社会はこの問題をタブー視し,みずからまともな取組みを示したことはなかった。

 また,近代医学の発達はより安全で有効な受精,妊娠への介入プロセスを明らかにしたが,その知識はすぐにそれを必要とする女性たちにもたらされたわけではない。富と権力を利用できる女性はその恩恵をこうむるが,大多数の女性は相変わらず危険な方法に頼らざるをえないという,いわば女性にとって二重の矛盾を生んだ。この事態に直面した一部の専門家や女性たちが有効な避妊手段の教育と普及運動に身を挺したのはこのためである。

 さらに,人口抑制が社会的政策目標となったときのしわよせも産む性である女性にくる。その端的な現代の事例はプエルト・リコである。農業社会からアメリカの工場となった1950年代,女性は自然に産みつづける性から安価な工場労働者に転換させられ,政府指導の家族計画キャンペーンが展開された。まずは高用量の実験段階のピルが与えられ,副作用のため不適当とわかると次に女性の不妊手術が奨励され,実施された。当時20代の女性の3人に2人が卵管結紮(けつさつ)をしている。男性の不妊手術や避妊は問われていない。このような現実に対し,60年代の新しい女性解放運動が,自分の体の管理は自分の責任であると訴えたのもまた当然だろう。これは,受精や妊娠に対するエゴイスティックな女性の権利の主張ではなく,産まない性が産む性に一方的におしつける社会的矛盾の解決役という役割への起こるべくして起きた反発といえる。
家族計画 →産児制限
執筆者:

避妊には広く考えれば2通りの方法がある。その第1は特定の理由を付けて性交を抑制することであり,第2は性交を行いながらも受胎しない方法をとることである。

 第1の例としては,16,17世紀のヨーロッパ社会のように,結婚年齢を女性で24ないし25歳,男性で26ないし28歳と高くし,しかも婚外,婚前の妊娠や出産を教会が厳しく禁じた例があげられる。これによって,出産数が制限された事実がある。結婚年齢を引き上げるという点では現代の中国でも同様の道がとられている。また,ポリネシアのマルケサス島その他でみられた女嬰児殺しと,男女の人口の不均衡による一妻多夫制によって,同様の出産制限を結果しているような場合もある。授乳期間中の妻が夫と性交すると,精液が母体を通じて乳児に入り,その結果,乳児が重い病気にかかったり死んだりするという信仰や,月経中あるいはその後の一定期間,女性は不浄な状態にあるとして性関係を禁じる信仰も,妊娠・出産を抑制する結果をもたらす。

 第2については,精子を殺す薬を浸ませたタンポンを女性性器に入れて避妊する方法,性交中断によって精液を腟外に排出する方法,あるいは妊娠を望まないことを表示する呪術的方法などが広くみられた。腟外射精は,キリスト教文化圏とくにカトリックを奉じる国々においては,旧約聖書《創世記》38章8~10節に記されている〈オナンの罪〉(兄の妻をめとり,子をなすことを命じられたオナンが,それを拒んで精液を地に漏らし,ために神によって罰せられた。今日もっぱら〈自慰〉の意で用いられるオナニーの語はこれに基づいている)として長く禁じられていたが,フランス革命はこのオナンの罪を無視する傾向を生み,その後の急速な性交中断法の普及をもたらした。性交中断によって,男性の精液が無駄にされることをタブーとする社会は,古代ユダヤの社会のように父系,男権の傾向の強い社会でみられる。ニューギニア高地では,妻の出身地は夫のムラと多くは潜在的な敵対関係にあるが,妻が夫の精液をこっそり取って,それを使って邪術を行えば,夫を病気にすることができると信じられている。この信仰の基盤には,不毛の性交を忌む考え方が存在する。

 不妊と避妊とは子どもを産まないということでは同じであるが,かつてのヨーロッパの農村で結婚式の折に,多産を祈る呪術(不妊を避ける)と避妊を祈る呪術が行われたように,出産が多すぎることも少なすぎることも,人間の社会にとっては好ましくない事柄であるという認識は広くみられる。
執筆者:


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百科事典マイペディア 「避妊」の意味・わかりやすい解説

避妊【ひにん】

受胎調節を目的とし,受精を避けて妊娠の成立を回避する方法。腟(ちつ)外射精法,荻野式(荻野説)などのほか,避妊薬使用や,コンドームペッサリーIUD(避妊リング)等の器具使用があり,併用もされる。→不妊法
→関連項目基礎体温緊急避難避妊法腟内リング低用量ピルリプロダクティブ・ヘルス/ライツ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「避妊」の意味・わかりやすい解説

避妊
ひにん

受胎調節

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栄養・生化学辞典 「避妊」の解説

避妊

 妊娠の成立を避ける手段をとること.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「避妊」の意味・わかりやすい解説

避妊
ひにん

受胎調節」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の避妊の言及

【荻野説】より

荻野久作が発表した月経と排卵に関する学説。オギノ式の名で避妊にも応用されている。成熟した正常婦人では,25~38日くらいの間隔(月経周期)で月経が起こる。…

【基礎体温】より

…月経周期につれて体温に変動のみられることは古くから知られていたが,この基礎体温測定法によって,排卵の有無や排卵の時期を判定できることが明らかになった。そのため現在では,基礎体温の測定は,卵巣機能の有効な診断法として広く臨床的に用いられ,簡単で,だれにでもできることから,避妊や自分の性機能を知るために用いられている。 正常な月経周期では,基礎体温は卵胞期は低温相,黄体期は高温相の二相性を呈し,体温が低温から高温に移行する時期に排卵が起こる。…

※「避妊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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