PM2.5(読み)ピーエムにてんご

百科事典マイペディア 「PM2.5」の意味・わかりやすい解説

PM2.5【ピーエムにてんご】

大気中に浮遊している微小粒子物質。2.5μm(1μmは1mmの千分の1)以下の小さな粒子のこと。非常に小さいため,肺の奥深くまで入りやすく,肺がんなど呼吸器系への影響に加え,循環器系の疾患をもたらす可能性が高く,影響が懸念されている。粒子状物質には,物の燃焼によって輩出されるものと,硫黄酸化物や窒素酸化物揮発性有機化合物などガス状大気汚染物質がある。発生源としては,土壌や火山などの自然起源のもの,自動車,航空機,船舶などの排気ガスボイラー焼却炉コークス炉,鉱物の堆積場等の粉じんといった主として工場のばい煙などがあげられる。近年深刻な環境汚染として問題となっている中国の北京市をはじめとする都市のPM2.5は,後二者を大量発生源とするもの。急速な工業化,大都市での車の急増,冬季の暖房が主たる原因だが,加えて,工場などの公害環境設備の劣悪,規制当局と国民の環境意識の低さが大きな要因となっている。中国のPM2.5問題は,2011年11月,アメリカの北京大使館が独自に監視結果を発表,これに中国政府が抗議したことから一般的に注目されたが,すでに数年前から,中国の環境保護部や大学機関では,より大きな微小粒子であるPM10による大気汚染で,中国全土で年間約30万人の死者と推定している。2013年冬の汚染はきわめて深刻で,韓国,日本への越境汚染が懸念され,日本は環境省をはじめ各自治体で監視体制を強化,大気汚染注意報,PM2.5注意報を出している。2013年5月,北九州市で日本・韓国・中国3ヵ国の環境相会合が初めて開催され,政策対話の場の設定や黄砂の発生源対策などについて協力関係を構築するという共同声明が発表された。しかし2014年冬の段階では,2月26日に北京市でPM2.5の大気中濃度が1立方メートルあたり500マイクログラムを超えるなど(日本国内で自治体が住民に注意喚起をする濃度は70マイクロ・グラム),中国の事態には大きな改善は見られず,北京のみならず主要都市でさらに悪化の一途をたどっている。3月に開催された全国人民代表大会では大気汚染問題が重大問題としてとりあげられ,李克強首相は〈環境汚染問題に宣戦布告する〉と演説した。越境汚染が深刻化する日本,韓国はともに協力姿勢を表明しているが,とくにすぐれた環境技術を持つ日本の協力が不可欠だけに,中国が環境技術導入のための前向きの外交を展開するかどうか,越境汚染による国民の対中感情の悪化が懸念されるだけに,中国政府の対応が一つの鍵となっている。欧米では1990年代にPM2.5の基準が設定されていたが,日本では基準設定が遅れ,2009年に基準が設定された。ただし越境汚染だけが注目されがちだが,日本各地での観測分析結果でPM2.5の成分が中国で発生するものとは異なるものが含まれている例もあり,日本の監視分析体制の強化が急がれている。
→関連項目煙霧スモッグ都市公害

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「PM2.5」の意味・わかりやすい解説

PM2.5
ぴーえむにーてんご

粒径2.5マイクロメートル以下の非常に微細な物質。PMはparticulate matterの略で、微粒子と訳される。スーパーPM、微小粒子状物質ともいう。火山灰や森林火災時に発生する自然由来のものに加え、石炭火力、あるいは自動車の排気ガスなどに含まれ、大気汚染の原因物質となる。その主体は硫酸塩であり、石炭やガソリンを燃やすと発生する二酸化硫黄(いおう)が空気中で酸化することで生成される。ほかに亜鉛、銅、スズなどの重金属も含まれている。こうした物質を一定量以上吸引すると、気管支を通過し肺の奥まで入って付着し外部に排出できないため、喘息(ぜんそく)、気管支炎、肺癌(はいがん)をはじめとする呼吸系・循環器系の疾患をもたらすことがわかっている。日本では、1973年(昭和48)に環境基準を定め、大気中に浮遊する粒径10マイクロメートル以下のPM10については排出を規制してきたが、2009年(平成21)にはPM2.5に対して、より厳しい環境基準(1日平均、1立方メートル当り35マイクログラムまで)を設定した。中国ではその基準がゆるく、石炭火力や自動車の排気ガスから大量のPM2.5が発生することが知られている。2013年、中国で発生したPM2.5が、偏西風の影響が強くなる1月~3月にかけて日本に飛来、各地で日本の環境基準を超える値を観測した。とくに九州地方でその影響が大きい。

[編集部]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「PM2.5」の意味・わかりやすい解説

PM2.5
ピーエムにてんご

大気中に浮遊している,直径が 2.5μm以下の微粒子(1μm=0.001mm)。微小粒子状物質と呼ばれることもある,大気汚染物質の一つ。一般に大気汚染の原因となる微粒子を粒子状物質 particulate matterという。日本では従来から,直径が 10μm以下の浮遊粒子状物質 SPMについては環境基準を定め対策が進められてきた。しかし 21世紀になって,より微細な浮遊粒子状物質である PM2.5が,呼吸器系や循環器系への影響,発癌性(→),喘息(→気管支喘息)の原因となりうることなどが指摘されるようになり,2009年には環境基準が定められた。さらに 2013年春以降,中国大陸における甚大な大気汚染の発生に伴う社会的関心をうけて対策がとられ,大気汚染防止法に基づき環境省や地方自治体が全国の 700ヵ所以上で PM2.5の常時監視を行なっている。発生メカニズムには,物の燃焼などで直接排出される場合と,硫黄酸化物 SOxや窒素酸化物 NOx,揮発性有機化合物 VOCなどガス状の大気汚染物質が大気中で化学反応して粒子化する場合の 2通りある。おもな発生源には,ディーゼルエンジン車(→ディーゼル機関)や工場,石炭発電所などからの排ガス,煤煙粉塵などの人為起源と,土壌や火山などから発生する自然起源のものがある。

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知恵蔵mini 「PM2.5」の解説

PM2.5

粒子状物質のうち、粒径が2.5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下のもの。微小粒子状物質という呼び方もある。ディーゼル車などから直接排出される「1次粒子」と、大気中での光化学反応などによって、窒素酸化物などのガス成分から作られる「2次粒子」に分類される。粒が小さいため肺の奥深くまで入り込みやすく、ぜんそくや肺がんなどのほか、不整脈や心臓発作、花粉症など循環器への影響も指摘されている。大気汚染の原因物質とされている浮遊粒子状物質(SPM)は、環境基準として「大気中に浮遊する粒子状物質であってその粒径が 10マイクロメートル以下のものをいう」と定められているが、それよりもはるかに小さい。2012年10月、東京近郊で発生した排ガスなど汚染物質の微粒子が光化学反応を起こしてPM2.5などの微小粒子状物質が生成され、南風で運ばれた結果、北関東で高濃度になっていることが国立環境研究所の研究チームによる分析で分かった。

(2012-10-26)

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