株式の売買および取引が行われる需給関係を総称する抽象的概念としての市場。上場株式の場合,その市場は発行市場と流通市場に大別される。発行市場とは,新たに発行された株式が通常,証券会社を通して発行者から投資家に分散される過程をいう。これに対し流通市場とは,すでに発行された株式が投資家相互間で流通する過程をいう。このように株式は発行市場から流通市場へと流れ込む。そして流通市場において形成された株式の市場価格や流通状態により,発行市場での株式の規模,条件などが規定される。逆にその結果として流通市場での市場価格などの流通状態が規定される。このように発行市場と流通市場は相互に機能を果たしており,発行市場と流通市場とは密接不可分の関係にある。車の両輪にたとえられるゆえんでもある。
会社は設立後も新株の発行が可能であるが,その新株の発行は払込みを要するか否かにより有償増資と無償増資に大別される。株主割当ては株主に新株引受権を付与して,株主のなかから新株主を募集することをいう。日本では,この増資形態が主要なものの一つとされる。公募は,株主以外の不特定多数の者から新株主を募集する方法をいう。商法上は公募増資も株主割当増資以外の増資の一形態とされている。かつて日本の有償増資は大半が額面発行・株主割当てであったが,近年では時価発行・公募が定着化している(以上については〈増資〉の項参照)。
発行市場で発行された株式は証券取引所の開設する市場を通じて流通転々していく。証券取引は公正な株価形成および適正な流通を確保するという,きわめて重要な役割を担っている。このため取引所および取引所会員には法令,自主規制など諸規則が適用され,厳正な規律のもとで高度に組織,管理され,具体的な市場として機能している。また,投資家保護の観点から上場審査基準が設けられており,新規に証券取引所に上場する会社はこの基準に適合していることが要求される。現在,日本では東京,大阪,名古屋,京都,広島,福岡,新潟,札幌の8ヵ所に証券取引所が設けられている。いずれもその機能,性格においてなんら差異はないが,経済的には,その証券取引所に全国各地からの売買取引が集中するとか,あるいは,そのことにより価格形成に基準性が生まれるとかにより,中央的なものとそうでないものとが生じてきた。一般に東京証券取引所,大阪証券取引所,名古屋証券取引所の3証券取引所を中央証券取引所,京都以下の5証券取引所を地方証券取引所と呼んでいる。日本の企業の株主構成をみると,個人持株比率は第2次大戦後ほぼ一貫して減少傾向をたどり,法人持株比率が増加傾向にある。96年度の個人持株比率は23.6%となっている。株主構成の法人化現象を招いた要因としては,昭和20年代後半における産業再編成,さらには昭和40年代に入っての資本自由化の進展に伴う外資対策や金融機関・事業会社による株式取得を通じた,いわゆる株式安定化工作が積極的に推進されたことなどがある。こうした現状における個人株主対策として,株式投資への魅力回復を図るべく各企業,証券界において対策が検討されつつある(以上については〈株主〉の項参照)。
なお,上場株式のほか多くの未上場株式が存在する。未上場株式の流通市場(株式店頭市場)は,1963年に株式売買銘柄登録制度として開設されたものの,流通性に乏しい状態が続いた。しかし,83年に登録基準の緩和・資金調達手段の多様化等,大幅な制度改革が行われたことを契機として,株式店頭市場は発展を続け,91年には,1日平均売買代金で東証2部市場を上回るに至っている。
→証券市場
執筆者:西村 重幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
株式が発行され、流通する市場。債券市場と並んで証券市場の主要な構成要素である。株式市場も債券市場もともに、機能という観点からは、発行市場と流通市場とに分類される。このうち株式の発行市場は、株式会社が株式を発行して長期資金の調達を行う場であり、一般には証券会社の仲介によって、株式が最初の投資家に保有されるまでの過程をさす。これに対して、株式の流通市場は、発行された証券が投資家の間で転々と流通する場(機能)を提供している。
株式の発行は、企業にとって重要な外部資金調達手段であり、そこで調達された貨幣資本は、企業の経済活動のなかに取り込まれ、永続的な資本の循環運動を繰り返す。一方、発行された株式は、擬制資本として投資家の間を転々と流通していく。株式市場は、これら株式の発行と流通にかかわる経済主体のニーズを結合する場であり、資本主義の根幹を支える機能を発揮している。
発行市場と流通市場とは、しばしば車の両輪にたとえられる。時間発生的には、発行市場から流通市場へと流れることから、まず株式が発行されなければ、それが流通することはできない。けれども、株式が発行されるためには、整備された流通市場の存在が前提となり、流通市場がなければ株式発行はむずかしい。株式取引においては、株式が売り手から買い手に流れ、その代金が買い手から売り手に流れる。したがって、企業は株式を発行すれば資金を得ることができるが、流通市場で株式取引により移動した資金は企業の資金調達につながるわけではない。しかし、もし株式の流通が円滑に行われないならば、買い手の将来における換金性が保証されないことになり、株式の購入希望者はいなくなるであろう。このことは、流通市場が活況であるほど、企業の株式発行による資金調達が容易になることを意味する。このように、発行・流通市場は相互依存関係にあり、バランスのとれた発展が望まれるのである。
発行市場は、特定の常設市場が存在しているわけではなく、企業の資金需要に応じて証券会社が投資家との間を仲介するが、流通市場のほうは多様である。具体的には、証券取引所(金融商品取引所)が開設する取引所市場、PTS(私設取引システム)、上場銘柄の取引所外取引などが株式流通市場を構成している。
従来、上場株式の取引は市場集中義務が定められており、原則として取引所での売買しか認められていなかった。しかし、日本版金融ビッグバンの進捗(しんちょく)に伴い市場集中義務は廃止され、現在では多様な取引市場間での競争関係が促進されるようになった。ただ、市場規模としては取引所市場(とくに東京証券取引所)が圧倒的に大きいのが実情である。
[高橋 元 2018年8月21日]
『服部泰彦著『現代の金融資本と株式市場』(1993・法律文化社)』▽『嶋田浩至著『よくわかる株式のしくみ』(2000・日本能率協会マネジメント)』▽『寺尾淳著『株のしくみ』(2000・ナツメ社)』▽『ロイター・リミテッド著、小島秀雄・小川真路訳『株式市場入門』(2000・経済法令研究会)』
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出典 株式公開支援専門会社(株)イーコンサルタント株式公開用語辞典について 情報
…その後,国債その他の公共債の発行額が増大したので,資本市場の対象は,これら公社債と株式の発行を引受け・消化,ならびにその売買の総過程をさすことになり,証券市場と同義語として用いられている。それは対象証券からは株式市場と公社債市場に分かれ,取引の内容からは両市場について発行市場と流通市場を含む。 ところで,日本の企業は長期資金の調達にあたって株式・社債の発行のほか金融機関からの長期借入金に依存しており,しかも借入金がこれまで主要な資金調達手段であった。…
…これら両市場は証券市場の構成要素として対等の重要性を有し,両者相まって証券市場は後述するような経済的機能を果たすことができる。また証券市場は,そこで取引される証券の種類によって株式市場,公社債市場,受益証券市場の三つに分類される。株式市場は株券が発行され,また流通する市場である。…
※「株式市場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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