改訂新版 世界大百科事典 「ヒョウタン」の意味・わかりやすい解説
ヒョウタン (瓢簞)
bottle gourd
Lagenaria siceraria (Molina) Standl.var.gourda Ser.
ウリ科の一年草。ユウガオの変種でその果実は観賞用や日よけ用として親しまれ,また古くから酒や水の容器として用いられてきた。おそらくアフリカの原産と考えられるが,現在は熱帯から温帯地方にかけて広く栽培される。ヒョウタンの栽培や利用はきわめて古くから知られており,新大陸と旧大陸にわたって,古くから栽培されていた植物はほかに例がない。つる草で茎葉や花はユウガオによく似ていて,花は夕方咲き,翌朝しぼむ。果実は中央部分がくびれ,いわゆるひょうたん形になる。苦みが強くて食用にならないものが多く,成熟すると中果皮が硬くなる。普通のヒョウタンより果実がとくに小さく(6cm)多数つけるものをセンナリヒョウタンvar.microcarpa Haraという。栽培はユウガオに準じ,開花後50~60日の果皮の硬いものを収穫する。
加工法
十分成熟した果実を採取し,1~2週間水に漬けて軟部を腐らせて除去する。果梗の付着部から内容物もとり出して,硬い中果皮だけにして,よく洗ってから乾燥する。乾いたものは油でみがいたり,酒を入れて使用していると,表面に光沢が出て赤褐色となる。ときには漆や染料で着色することもある。
執筆者:金目 武男+堀田 満
ヒョウタンの文化史
民俗
一般には腰のくびれたユウガオ科の果実から作った容器をヒョウタンといい,ユウガオやフクベの果実で作ったものもこの名で呼ばれる。古くはヒョウタンやフクベの類はひさご(匏)と総称され,《和名抄》には〈比佐古〉とある。本来は清音で〈ひさこ〉といわれ,しゃくし(杓子)やひしゃく(柄杓)はひさごがなまったことばとされている。ヒョウタンは縦に切れば水汲み用のしゃくしやひしゃくとなり,横に切れば椀となったから,土器だけの時代には重要な生活用具だったと思われる。早く縄文時代前期の福井県鳥浜貝塚から出土している。また古代遺跡の井戸跡からは水汲み用のひさごが出土しており,ひさご形の土器も作られていた。《日本書紀》仁徳紀には,ひさごは水神を鎮める呪具(じゆぐ)として登場しており,この水神を鎮めるひさごは後に海上の亡魂である船幽霊に底抜けひしゃくを与える風習や水神の化身とされる蛇や河童をヒョウタンと針で退治する昔話の異類婚姻譚に受けつがれている。一方,《延喜式》には火神を鎮める呪具の一つにひさごがあげられており,各地の神社の鎮火祭には今日でもひさごが祭具として使われている。《延喜式》や《延暦儀式帳》には鎮魂祭の祭料として〈匏〉と〈杓〉とが見えているが,ヒョウタンは中空で神霊の容器と見られたために鎮魂の儀礼によく登場するのであろう。平安時代の神楽歌の中にも〈杓(ひさご)〉は神霊の依代(よりしろ)である採物(とりもの)の一つとされ,中世には鉢たたきがヒョウタンをたたいて法話を唱えて漂泊したという。《風俗問状答》の丹後国峰山領の条には,8月26日の祭礼に長いヒョウタンをササで包み竹にさしたものと,うちわを持った者が行列の中心をなしたとあり,大分県臼杵市の祇園祭でもヒョウタンの作り物を頭にいただいた者が行列の先頭にたって練り歩くという。歌舞伎の道化方の猿若もかつて大きなヒョウタンを腰にさげていたという。ヒョウタンは山棲み(やまずみ)の山民が山苞(やまづと)の一つとして交易で里にもたらす神聖な呪具とされ,ヒョウタンをつけた者は常人とは違うことを表していたのであろう。このため,ヒョウタンは酒の容器だけでなく,昔話では宝物を生み出すふしぎな容器とされたり,また桑,ナンテン,ツバキなどで作ったヒョウタンの作り物を子どもの腰にさげて,麻疹や災難よけのお守りともされたのである。しかし,ヒョウタンの神聖さの基本は神霊の容器ということであり,このためにヒョウタンを栽培するのを忌む地方もあるが,遠野市では新仏は3年間は家に戻れないので,代りに墓にヒョウタンを置いて新仏を迎えてくる風習がみられ,また山口県ではかつて五月節供に牛をつかった者は,ヒョウタン送りといって雨乞いの際にヒョウタンを背負わせて村境まで送り,村に住むことを禁じる風習があった。これは節供に牛を使えば日照りになると伝えられているためである。
執筆者:飯島 吉晴
中国
一般に〈葫蘆(ころ)〉という。中国では最も早く栽培された有用植物の一つ。7000年前の新石器時代の浙江省余姚県河姆渡(かぼと)遺跡から遺物が出土している。古来用途がひじょうに広く,特別に珍重崇拝されてきた。まず食用,飼料用,薬用のほか,重要な容器として使われた。中身の果肉を取り去り,殻をそのまま乾燥させて水や酒を入れたり,縦に二つ割りにしてひしゃくに,横に断って食物などの容器にした。人類の最も初期の容器といえよう。一説に最初の原始的陶器のモデルは種々の形の葫蘆容器だともいう。河を渡るときに腰につけて浮袋にしたり,漁網の浮きにも使われた。巨大な葫蘆を断ち割り,船の代りにした例もあった。古代8種の楽器〈八音〉中の〈匏〉は,葫蘆に竹管をさして,葫蘆の口を吹き口にする吹奏楽器で,現在〈笙(しよう)〉〈葫蘆笙〉〈蘆笙〉と呼ばれ,なお西南中国の諸民族の間に広く愛用されている。
また魔よけ,長寿,子孫繁栄の縁起物として愛好された。除夜や端午節に実物,葫蘆型の切紙や絵を護符にしたり,とくに痘瘡よけのまじないに子どもに実物,模型や刺繡(ししゆう)をつけさせた風習があったが,これは葫蘆が疫病神など邪鬼をその中に取りこむ呪力をもつものと信じられていたからである。神仙たちが携えている葫蘆の中には,起死回生の仙薬が入っているとされる。なんでも望む物をその中から出し福運を得たり,妖怪を退治する〈宝葫蘆〉の呪宝譚,葫蘆やウリ類から生まれる霊童出現譚の昔話も伝わっている。人類の始祖〈伏羲(ふくぎ)・女媧(じよか)〉や各種族が葫蘆中から生まれたとする神話がとくに西南の漢族以下諸民族に普遍的に流布している。伏羲,女媧の名まえは葫蘆そのものの意味であり,葫蘆の化身だという聞一多の説もある。葫蘆をめぐる習俗,伝承は,空洞,中空すなわち母胎,子宮という人類の原初的象徴的観念に発して,葫蘆を生命や繁殖の象徴,あるいは霊の宿る入れ物と考える特別の古い信仰に由来するものと思われる。
執筆者:鈴木 健之
朝鮮
朝鮮にはヒョウタンに類する一年草のパク(朴)がある。学名L.s.var.depressa。田畦や屋根につるをはわせて栽培する。果実は丸いカボチャ状で直径30cm以上になる。これをかま(釜)で蒸し中身を除いて乾燥させたものをパガジといい,容器やひしゃくにする。わら屋根にずんぐりしたパクが転がっている光景は,朝鮮の秋の風物詩であった。新羅王朝の始祖赫居世(かくきよせい)はパクのような大卵から生まれたと伝えられており,のち朴という姓がつけられたとされる(《三国史記》)。朴姓は朝鮮では金姓などと並ぶ大姓になっている。また,新羅の傑僧元暁はパガジで作った道具を用い,踊念仏を創始して村々を回った(日本の空也上人の踊念仏の源流とも考えられる)。朝鮮の仮面劇の面は,パガジで作ることが多い。
執筆者:金 東 旭
利用,神話
ヒョウタンは形状と大きさによって用途がきまる。球形のものは,縦に二つに割ったり,上の部分に小さな穴をあけ容器として使われる。中央のくびれた,いわゆるひょうたん形のものや円筒形のものは,付属品をつけて流動物などをいれる。ひしゃく形のものは,縦に二つに割って,スプーンやひしゃくとして使う。その空洞は共鳴器として,太鼓やバラフォンbalafon(西アフリカで使われる木琴の一種),弦楽器などに使われる。なんの装飾も加えずに用いられることが多いが,着色をしたり,ビーズ細工を施すこともある。また,西アフリカのように,焼きごてや刃物で文様や絵を彫刻することもある。
魔法のヒョウタンの話は東アジアや西アフリカなどにある。ヒョウタンと洪水の話はインドやポリネシアなどにある。南アフリカには精霊や生命が宿ると考える所もある。中部アフリカやインドネシアではヒョウタンが変身する。
執筆者:江口 一久
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報