九州の佐賀県西部から長崎県にかけて広く広がる窯(かま)で焼かれた近世の代表的な焼物。その始原には諸説があるが、従来の主説をなしていた豊臣(とよとみ)秀吉の文禄(ぶんろく)・慶長(けいちょう)の役を契機にして開窯したとする説は改訂されつつあり、それ以前に築かれていたことは壱岐(いき)聖母神社蔵の天正(てんしょう)20年(1592)銘四耳壺(しじこ)が証明している。しかし、開始にあたっては、文禄・慶長の役を機に朝鮮半島から陶技が伝播(でんぱ)したとする考えは旧説どおりであり、現存する最初期の窯と推定されている佐賀県唐津市北波多(きたはた)地区の飯胴甕(はんどうがめ)下窯はいわゆる割竹式の連房式登窯(のぼりがま)につくってあり、それまでの日本の窯式とは異なった、おそらく朝鮮半島からもたらされた新形式と考えられる。この形式の窯は大量生産が可能であり、一挙に窯業として大成功して隆盛し、窯は、東松浦郡、唐津市、伊万里(いまり)市、武雄(たけお)市、多久(たく)市、鹿島(かしま)市、嬉野(うれしの)市、藤津(ふじつ)郡、杵島(きしま)郡、西松浦郡から、長崎県の佐世保(させぼ)市、諫早(いさはや)市、松浦市、東彼杵(ひがしそのぎ)郡、平戸(ひらど)市と、まことに広範囲に築かれた。なお、唐津市、武雄市、多久市に残る唐津焼生産にかかわる遺跡として「肥前陶器窯跡(ひぜんとうきかまあと)」が国指定史跡となっている。釉技は藁灰(わらばい)を使った白濁釉、長石を主体とする透明釉、鉄を呈色剤に使った黒褐釉を基本にして、鉄絵、象眼(ぞうがん)、銅緑彩、白化粧などを加飾して斑(まだら)唐津、黒唐津、朝鮮唐津、奥高麗(こうらい)、三島(みしま)唐津、瀬戸唐津、銅彩唐津(二彩唐津)などを焼造した。江戸中期になると染付も行っているが、有田で磁器が始まってからは、これに押されてしだいに衰微した。
[矢部良明]
『林屋晴三編『日本の陶磁5 唐津』(1974・中央公論社)』▽『佐藤雅彦編『日本陶磁全集17 唐津』(1976・中央公論社)』▽『中里逢庵著『唐津焼の研究』(2004・河出書房新社)』
佐賀県西部から長崎県北部一帯にひろがる西日本最大の陶窯。製品が主として唐津港に集積されたので〈唐津焼〉の名がおこった。開窯は桃山時代にはじまるとみるのが通説であるが,室町時代説もある。唐津製と見られる天正20年(1592)銘の茶壺が長崎県壱岐島の聖母(しようも)神社に所蔵されており,豊臣秀吉の文禄・慶長の役以前にすでに活動期に入っていたらしい。しかしこの役に参加した西国の諸将は競って朝鮮の陶工を招致して,一挙に窯は増加することになった。桃山から江戸初期にかかる初期の唐津の窯は100基を超え,唐津藩,鍋島藩,平戸藩,大村藩とひろがって,一大産業地を形成する。その特色は朝鮮系の陶芸であることで,作風から絵唐津,朝鮮唐津,奥高麗,斑(まだら)唐津,黄唐津,青唐津,瀬戸唐津,三島唐津などに分類されている。窯址の調査によると,初期には雑器が量産されたと思われるが,見るべきものはやはり水指,茶碗,花生,茶入,向付,火入などの茶具である。これら〈古唐津〉と呼ばれる作品がいつごろまで焼造されたかは判然としないが,およそ17世紀前半までこの作種はまもられたらしい。それ以後,有田磁器の発達におされて後退するが,江戸中・後期の唐津焼で特色ある製品は,白化粧の刷毛目地に鉄絵と緑釉を加えた二彩唐津である。また1703年(元禄16)から1871年(明治4)まで伊万里市の椎の峯窯,唐津城下の御茶碗窯で献上唐津が焼かれ,茶具や染付の食器もつくられた。
執筆者:矢部 良明
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佐賀県西部から長崎県にまたがる一大窯業地帯を形成した陶器窯とその製品。最近の研究で天正年間に開窯したことが判明。文禄・慶長の役で渡来した朝鮮陶工が窯を拡大。窯は唐津に居住した陶工と,佐賀藩祖鍋島直茂が招致し伊万里に居住した陶工の2系統があったらしい。割竹式登窯(のぼりがま)・連房式登窯という大量生産型の大型窯を築き,はじめ朝鮮系の製品を焼いたが,日本の茶陶も併焼。作風により奥高麗・朝鮮唐津・絵唐津・斑(まだら)唐津・無地唐津・三島唐津などにわける。江戸時代には茶陶生産は少なくなり,染付の茶陶が焼かれたが,大半は日常雑器であった。現代は桃山茶陶を再生して活気をおびている。
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