人形浄瑠璃。時代物。5段。文耕堂,三好松洛による合作。1737年(元文2)1月大坂竹本座で初演。正本包紙には〈ごしょさくら〉とある。《平家物語》《義経記》などの土佐坊のことを中心に,伊勢三郎,弁慶,静などの伝説を加え,また謡曲《邯鄲(かんたん)》をもじったり(五段目の景事《花扇邯鄲枕》)して脚色したもの。歌舞伎では,55年(宝暦5)6月京の沢村国太郎座が初演か。(1)一段目 頼朝は,平時忠の娘京(卿)の君を妻にしている義経を討つため,梶原景高を都に上らせる。義経に同情する土佐坊昌俊は進んで討手に加わり,梶原らの策謀を妨害する。(2)二段目 伊勢三郎は,人手にかかった父の敵を牛若丸と思い込み,義経のもとを去り骨つぎに身を落としている。敵は土佐坊と知れるが,義経の潔白が立つまで,その仇討は延期となる。(3)三段目 伊勢三郎は帰参する。京の君を預かる侍従太郎は鎌倉方からその首を討てと催促され,弁慶が上使として乗り込む。侍従太郎は,物縫いおわさの娘で腰元の信夫(しのぶ)を身替りに立てようとするが,おわさは,信夫の父,すなわち18年前にただ一度契った男に会うまでは殺せないと断る。話を聞いた弁慶は信夫を刺し,父であり夫であることを明かし,偽首を持ち帰る。太郎も偽首を本物と思わせるために自害する。(4)四段目 京の君の母は,娘の安産祈願のため伊勢参りに行った帰り,危難を静の兄の藤弥太に救われる。藤弥太はこれを手柄に堀川御所の義経に近づき,京の君が生きていることを梶原に内通しようとするが,母に斬られ,非を悟って死ぬ。土佐坊は三郎に討たれる。(5)五段目 弁慶は土佐坊と偽る忠太を殺す。梶原方も敗走し,静は,頼朝との和解の吉相と,今様を舞う。全段の中でもすぐれているのは二段目切の〈骨つぎ〉,三段目切の〈弁慶上使〉,四段目切の〈藤弥太物語〉など。なかでも〈弁慶上使〉は,人形浄瑠璃,歌舞伎ともよく演じられる。武骨な弁慶の色ざんげと父の愛情をみせる演出がおもしろい。歌舞伎では〈藤弥太物語〉もまれに上演され,とくに藤弥太は人形振りで演じられる。
執筆者:佐藤 彰
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浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。時代物。5段。文耕堂(ぶんこうどう)・三好松洛(みよししょうらく)合作。1737年(元文2)1月大坂・竹本座初演。『平家物語』『義経記(ぎけいき)』などから源義経(よしつね)をめぐる土佐坊昌俊(しょうしゅん)、弁慶、静御前などを中心に脚色。歌舞伎(かぶき)にも移されたが、三段目「弁慶上使」がもっとも有名で、ついで四段目「藤弥太(とうやた)物語」が上演される。「弁慶上使」は、義経が平時忠(たいらのときただ)の娘卿(きょう)の君を妻にしているので、潔白を証明するためその首を打てとの厳命が頼朝から下り、卿の君を預かる侍従(じじゅう)太郎館に弁慶が使者に来る場面。太郎夫婦は物縫女おわさの娘、腰元信夫(しのぶ)を身替りにしようとするが、おわさは18年前に契って別れた信夫の父と会うまではと承知しない。弁慶はいきなり信夫を刺し、自分こそ18年前の男と物語り、取り交わした証拠の片袖(かたそで)を見せ、娘の首を打って身替りにたてる。豪傑弁慶の一生に一度の恋という変わった主題に、おわさの年増(としま)の恋情と母性愛が織り込まれた異色の身替り物。「藤弥太物語」は、助けられた卿の君が静御前の侍女としてかくまわれる堀川御所が舞台。静の兄藤弥太は梶原(かじわら)に内通して夜討ちの手引きをするが、母磯(いそ)の禅司に切られて改心し、攻め寄せた討手と戦うというもの。
[松井俊諭]
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…初期は長谷川千四との合作が多く,30年の《三浦大助紅梅靮》,同じく《須磨都源平躑躅(すまのみやこげんぺいつつじ)》,31年9月の《鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりやくのまき)》,32年9月の《壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)》などがあり,現在も人形浄瑠璃,歌舞伎ともに上演されることが多い。ほかに,三好松洛との合作として36年(元文1)5月の《敵討襤褸錦(かたきうちつづれのにしき)》,37年1月の《御所桜堀川夜討(ごしよざくらほりかわようち)》,38年1月の《行平磯馴松(ゆきひらそなれまつ)》がある。竹田出雲との合作には,38年8月《小栗判官車街道(おぐりはんがんくるまかいどう)》,39年4月の《ひらかな盛衰記》,40年7月の《将門冠合戦(まさかどかむりがつせん)》などがある。…
※「御所桜堀川夜討」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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