浮世絵の一流派。元禄年間(1688-1704)から現代に至るまで約300年間,歌舞伎界と密接な関係を保ち,芝居絵,役者絵を専業として家系をつないだ。劇場の絵看板(看板絵)や番付絵,役者姿絵の版画などは,いずれも演目と配役が決まりしだい上演に先立って作画にかかる必要があり,芝居にくわしく歌舞伎界のしきたりに通じていなくては難しい領域であった。鳥居派は役者出身の清元を元祖とするように,因襲的な劇界と関係深く,また草創期の清信,清倍(きよます)が芝居絵に適した独自の様式を確立したこともあずかって,ながく劇界専属の地位を独占し他派の介入をほとんど許すことがなかった。(1)元祖 初世清元(?-1702(元禄15))。生年は一説に1645年(正保2)という。大坂の女方役者で,1687年(貞享4)江戸に下り,90年(元禄3)市村座の絵看板を描くようになったと伝える。以後,他の劇場の絵看板も描いた。(2)初代 初世清信(1664-1729)。〈鳥居清信〉の項目を参照。(3)2代 初世清倍(生没年不詳),あるいは2世清倍(1706-63)。〈鳥居清倍〉の項目を参照。(4)3代 初世清満(1735-85・享保20-天明5)。2世清倍の子。通称亀次郎。宝暦年間(1751-64)を中心に紅摺絵の細判役者絵に人気を博した。(5)4代 清長(1752-1815)。〈鳥居清長〉の項目を参照。(6)5代 清峰(きよみね)(1787か88-1868・天明7か8-明治1)。初世清満の孫。9歳のときから清長の薫陶を受け,清長没後に2世清満と改名,鳥居家5代をついだ。清峰時代に美人風俗の錦絵を描いたが,鳥居家の当主となって以後は家業の看板絵や番付絵に専心。(7)6代 3世清満(1832-92・天保3-明治25)。2世清満の子。通称亀治(亀次郎),のち栄蔵。芝居看板絵,番付絵などを描いた。(8)7代 4世清忠(1875-1941・明治8-昭和16)。2世清満の門人清貞の子。本名斎藤長吉。6代にしかるべき嗣子がなく,父や師の河辺御楯にすすめられて鳥居家に入った。(9)8代 5世清忠(1900-76・明治33-昭和51)。4世清忠の子。本名斎藤信。小堀鞆音,鏑木清方に学び,昭和初年には言人(ことんど),清言の画名で美人風俗の版画を発表,父の没後に5世清忠を襲名,鳥居家8代をついだ。看板絵のほか舞台装置も手がけた。(10)9代 清光(1938(昭和13)- )。5世清忠の娘。現在芝居絵作家として活躍中。鳥居派の伝統をつないでいる。
執筆者:小林 忠
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浮世絵の一流派。浮世絵諸派草創期の元禄(げんろく)(1688~1704)期から、今日に至るまで画系を保った唯一の流派。初代鳥居清信(きよのぶ)を鳥居家初代として、現清光(きよみつ)(1938― )まで9代を数える。
1687年(貞享4)女方役者出身の芝居看板絵師鳥居清元(生没年未詳)が、子の清信とともに大坂から江戸に移住、1690年(元禄3)に市村座の芝居看板を描いたのが始まりと伝え、元禄期から享保(きょうほう)前期(1720ころ)まで活躍した清信によって一派の基礎が固まった。清信は子の初代清倍(きよます)とともに、瓢箪足(ひょうたんあし)・蚯蚓描(みみずがき)という看板絵にふさわしい勇壮な描法をくふうして定着させ、これは同派の最大の特徴として連綿と受け継がれている。鳥居派は他の浮世絵各派と同様、一枚絵・版本にも筆をとっているが、派の成立時から江戸芝居各座と密接な関係をもち、看板絵・番付絵をほぼ独占したために長い命脈を保つことができたものと思われる。
鳥居家2代目は2代清倍、3代目は初代清満(きよみつ)。4代目の清長はその門人で、初めは鳥居派流の役者絵を描いていたが、まもなく美人画に独自の様式を確立、鈴木春信(すずきはるのぶ)、喜多川歌麿(きたがわうたまろ)とともに浮世絵を代表する美人画家となった点、同派中異色の存在といえる。5代目は初代清満の孫の2代清満(初名清峰)で、これ以降一派は看板絵・番付絵専門の絵師となった。同派のおもな絵師にはほかに2代清信、清重、清広、清経(きよつね)らがいる。
[浅野秀剛]
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…〈菱川様(よう)の吾妻俤(おもかげ)〉(《虚栗》)とうたわれる独自の人物画(美人画)様式を確立,版画のみならず肉筆画の量産にも力を尽くして,平民的な絵画を江戸の地に普及し,発展させた。師宣の没後は菱川派の勢力が急激に衰え,元禄末年から享保初年にかけて(18世紀初期)は鳥居派と懐月堂派が主力となって活躍した。鳥居派の初代清信と2代清倍は,丹絵期の版画を場として役者絵と美人画(このころ〈嬋娟(せんけん)画〉といった)の両分野に勇壮あるいは優麗な人物像を描いた。…
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