〘自バ五(四)〙
① 腰をかがめ、手をのばして目標に届くようにする。
及び腰①になる。また、追いかけて前の人や物に届くようにする。
※遍昭集(10C後か)「をみなへしの見えしを、およびて折りしほどに馬よりおちて」
※
源氏(1001‐14頃)
紅葉賀「ひき放ちて出で給ふを、せめてをよびて、『橋柱』と恨みかくるを」
(イ) ある物、場所などに届く。ある
地位に達する。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「岩のうへにならべて生ふる松よりも雲井にをよぶ枝も有りなん」
※源氏(1001‐14頃)行幸「はかばかしからぬ身にて、かかる位におよび侍て」
(ロ) ある時期や数量などに達する。
※
書紀(720)用明即位前(図書寮本訓)「是の
皇女、此の天皇の時
(みとき)より炊屋姫
(かしきやひめ)の天皇の世
(みよ)に逮
(オヨフ)まで日神の祀に奉
(つかまつ)る」
※
徒然草(1331頃)二一五「心よく数献
(すこん)に及びて」
(ハ) ある範囲に行き渡る。影響する。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「聖鑒遐く覃(オヨヘ)り」
(ニ) ある
状態に達する。あることをするようになる。
(ホ) (「…に及ぶ」の形で) ついに…となる。…の状態にたちいたる。
※保元(1220頃か)中「但法勝寺なども
風下にて候へば、
伽藍の
滅亡にや及
(および)候
はんずらん」
(ヘ) (手、心、言葉などが)その働きを発揮する。また、自分の力が届く。なしとげられる。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「かたちよりはじめ、交らひたるさまなど、もどかしきところなく、かどかどしく、目もをよばずすぐれいでたれば」
※徒然草(1331頃)一三四「及ばざる事を望み、叶はぬ事を憂へ」
③ (否定表現を伴って) ある高い標準に達する(ことがない)。
(イ) 程度の高いものと肩を並べる(ことができない)。
※枕(10C終)二六八「およぶまじからむ際をだに、めでたしと思はんを、死ぬばかりも思ひかかれかし」
※徒然草(1331頃)五八「その
うつは物、昔の人に及ばず」
(ロ) あとから行なって、もとの状態をとりもどす(ことができない)。とり返しがつく(つかない)。
※右京大夫集(13C前)「高倉院かくれさせおはしましぬとききしころみなれ参せし世の事かすかすにおぼえて、およばぬ
御事ながらもかぎりなくかなしく」
(ハ) (「…に及ばず」の形で) …のことができる(できない)。
※
方丈記(1212)「或は身ひとつ、からうじて逃るるも、
資財を取り出づるにおよばず」
(ニ) (「…に及ばず(及ばない)」の形で) …のことが必要である(ことがない)。…するまでも(ない)。
※平家(13C前)灌頂「かかる身になる事は
一旦の歎申にをよび候はねども」