(読み)キュウ

デジタル大辞泉 「及」の意味・読み・例文・類語

きゅう【及】[漢字項目]

常用漢字] [音]キュウ(キフ)(漢) [訓]およぶ および およぼす
ある線まで追いつく。ある範囲まで届く。「及第及落企及言及溯及そきゅう追及波及普及論及過不及
[名のり]いたる・しき・たか・ちか
難読埃及エジプト

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精選版 日本国語大辞典 「及」の意味・読み・例文・類語

およ・ぶ【及】

〘自バ五(四)〙
① 腰をかがめ、手をのばして目標に届くようにする。及び腰①になる。また、追いかけて前の人や物に届くようにする。
※遍昭集(10C後か)「をみなへしの見えしを、およびて折りしほどに馬よりおちて」
源氏(1001‐14頃)紅葉賀「ひき放ちて出で給ふを、せめてをよびて、『橋柱』と恨みかくるを」
序列の中のある物、所、時、程度などに達する。
(イ) ある物、場所などに届く。ある地位に達する。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「岩のうへにならべて生ふる松よりも雲井にをよぶ枝も有りなん」
※源氏(1001‐14頃)行幸「はかばかしからぬ身にて、かかる位におよび侍て」
(ロ) ある時期や数量などに達する。
書紀(720)用明即位前(図書寮本訓)「是の皇女、此の天皇の時(みとき)より炊屋姫(かしきやひめ)の天皇の世(みよ)に逮(オヨフ)まで日神の祀に奉(つかまつ)る」
徒然草(1331頃)二一五「心よく数献(すこん)に及びて」
(ハ) ある範囲に行き渡る。影響する。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「聖鑒遐く覃(オヨヘ)り」
平家(13C前)二「父祖善悪は必子孫に及ぶとみえて候」
(ニ) ある状態に達する。あることをするようになる。
※福翁自伝(1899)〈福沢諭吉緒方の塾風「熱病を煩(わづら)ふて幸に全快に及(オヨ)んだが」
(ホ) (「…に及ぶ」の形で) ついに…となる。…の状態にたちいたる。
※保元(1220頃か)中「但法勝寺なども風下にて候へば、伽藍滅亡にや及(および)はんずらん」
(ヘ) (手、心、言葉などが)その働きを発揮する。また、自分の力が届く。なしとげられる。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「かたちよりはじめ、交らひたるさまなど、もどかしきところなく、かどかどしく、目もをよばずすぐれいでたれば」
※徒然草(1331頃)一三四「及ばざる事を望み、叶はぬ事を憂へ」
③ (否定表現を伴って) ある高い標準に達する(ことがない)。
(イ) 程度の高いものと肩を並べる(ことができない)。
※枕(10C終)二六八「およぶまじからむ際をだに、めでたしと思はんを、死ぬばかりも思ひかかれかし」
※徒然草(1331頃)五八「そのうつは物、昔の人に及ばず」
(ロ) あとから行なって、もとの状態をとりもどす(ことができない)。とり返しがつく(つかない)。
※右京大夫集(13C前)「高倉院かくれさせおはしましぬとききしころみなれ参せし世の事かすかすにおぼえて、およばぬ御事ながらもかぎりなくかなしく」
(ハ) (「…に及ばず」の形で) …のことができる(できない)。
方丈記(1212)「或は身ひとつ、からうじて逃るるも、資財を取り出づるにおよばず」
(ニ) (「…に及ばず(及ばない)」の形で) …のことが必要である(ことがない)。…するまでも(ない)。
※平家(13C前)灌頂「かかる身になる事は一旦の歎申にをよび候はねども」

および【及】

(動詞「およぶ(及)」の連用形から)
[1] 〘名〙 およぶこと。とどくこと。限り。
※海人刈藻物語(1271頃)三「これも心のおよびはいかでかおろかに侍らん」
[2] 〘接続〙 (漢文訓読の際、「及」の訓として用いられ始めた。名詞と名詞とをつなぐ場合に用い、動詞や形容詞などには用いられない) 先行の事柄と、後続の事柄とが並列の関係にあることを示す。ならびに。また。と。
※彌勒経疏寛平二年点(890)「依と正と報と及(およヒ)生むと欲る因を脩ること」
[語誌](1)(二)は、漢文における接続用法の「及」「及与」「及以」などを訓読する際に、四段活用動詞「およぶ(及)」の連用形を、直訳語としてそのまま転用したもの。当初は、訓点資料では、これらの文字を不読にして、前後に並立助詞「と」や係助詞「も」を補読することが多く、「および」は、平安時代中期以降になってから、次第に一般化した。なお、この語は漢文訓読系の語であるため、和文の文献にはほとんど例を見ず、院政期以降の片仮名まじり文においても例は少ない。
(2)法律では選択的接続が二段階にわたる場合、大きい方の接続に「並びに」を用い、小さい方の接続には「及び」を用いて区別する。

およぼ・す【及】

〘他サ五(四)〙 (「およぶ(及)」の他動詞形)
① ある所に達するようにする。ある範囲に行き渡らせる。
※新訳華厳経音義私記(794)「後悔海無及、乃智久伊矣与保須(オヨボス)奈(「海」の字は衍字)」
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「この木〈略〉三分にわかちて、上(かみ)の品は三宝よりはじめ奉りて、忉利天までにをよぼさむ」
② ある状態にたちいたらせる。
※天草本伊曾保(1593)イソポ、アテナスの人々に述べたる譬へ「ワレラガ イチルイヲ コトゴトク メツバウニ voyobosuuo(ヲヨボスヲ) アワレマセラレイト」

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