胎児水腫(読み)タイジスイシュ(英語表記)Hydrops fetalis

デジタル大辞泉 「胎児水腫」の意味・読み・例文・類語

たいじ‐すいしゅ【胎児水腫】

胎児胸腔腹腔液体がたまり、さらに全身に浮腫が生じる病気。母体と胎児の血液型の不適合によって起こるもの(免疫性胎児水腫)と、上室性頻拍症双胎間輸血症候群再生不良性貧血先天性心疾患先天性ネフローゼ症候群などによるもの(非免疫性胎児水腫)がある。

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六訂版 家庭医学大全科 「胎児水腫」の解説

胎児水腫
たいじすいしゅ
Hydrops fetalis
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 胎児水腫とは、胎児がさまざまな原因で、いわゆる「水ぶくれ」状態になっていることをいいます。具体的には、胎児の皮膚がむくみ、さらにおなかや胸のなか、あるいは心臓の周囲に液体がたまっている状態を指します。

 発生頻度は約0.6%程度で、かなりめずらしい病気です。

原因は何か

 原因はさまざまです。古くは、お母さんと胎児の血液型が一致しない血液型不適合妊娠の場合に多くみられましたが、最近では予防法が開発され、このタイプの胎児水腫はほとんどみられなくなりました。

 これに代わって、胎児の先天的な異常(心臓の奇形不整脈、首の周囲のリンパ液の異常な貯留染色体異常)、胎児の先天的な感染症、一卵性双胎(いちらんせいそうたい)などにおいて胎児水腫が発見される割合が増えています。

検査と診断

 診断には、胎児超音波検査が有用です。超音波検査で胎児の皮膚が厚くなり、腹水胸水(きょうすい)が認められれば診断できます。

治療の方法

 残念ながら、ほとんどの胎児水腫の赤ちゃん心不全状態になっているため、予後は一般的にはよくありません。多くは子宮内で死亡するか、生後早期に亡くなってしまいます。

 しかし、ごく一部の赤ちゃんでは、治療により助けることができます。たとえば、不整脈のために胎児水腫になった赤ちゃんでは、お母さんに不整脈の治療薬を投与することにより、薬が胎盤(たいばん)をとおして赤ちゃんに届き、胎児水腫が消えることがあります。

 また、妊娠初期にお母さんがリンゴ病にかかってしまうと、このウイルスが赤ちゃんに感染して重症貧血を引き起こし胎児水腫になります。この場合には、お母さんのおなかから輸血用の針を刺して子宮内の赤ちゃんに直接輸血をすれば劇的に症状がなくなることもあります。

 一卵性双胎の一方の赤ちゃんが胎児水腫になった場合は、お母さんのおなかから小さな内視鏡を子宮のなかに刺して、カメラで観察しながら、2人の赤ちゃんをつないでいる胎盤表面の血管を焼いて胎盤を別々にすることにより治療できることもあります。

亀井 良政

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「胎児水腫」の解説

たいじすいしゅ【胎児水腫 Hydrops Fetalis】

[どんな病気か]
 胎児(たいじ)の全身の浮腫(ふしゅ)(むくみ)、心不全(しんふぜん)、重症の貧血などをおもな症状とする病気で、多くの場合Rh式死産となります。胎児水腫がおこる原因には、Rh式血液型不適合妊娠(「血液型不適合妊娠」)に代表される免疫性のものと、先天性心疾患や腎臓(じんぞう)の形態異常などによる非免疫性のものとがあります。
[検査と診断]
 免疫性か非免疫性かを確かめるため、母親の血液型がRh(-)かどうか検査し、母体血の間接クームス試験(コラム「クームス試験」)を行ないます。
 また、超音波断層法で胎児の頭部皮下組織の浮腫、脾腫(ひしゅ)(脾臓(ひぞう)の肥大)や腹水(ふくすい)、胎盤(たいばん)の浮腫状巨大化などの有無を調べます。羊水(ようすい)中のビリルビン様物質の測定(胎児が溶血性黄疸(ようけつせいおうだん)(「新生児溶血性黄疸」)をおこしていないか調べる)や、胎児心拍数図でのサイナソイダルパターン(コラム「サイナソイダルパターン」)の確認なども行ないます。
[治療]
 原因が免疫性の場合で、胎児が心不全をおこしたり、水腫のため危険な状態におちいっているときには、胎児を早期に娩出(べんしゅつ)し、交換輸血を行ないます。また、母体血の間接クームス試験の検査値が上昇を示したときは、抗体がつくられるのを予防する抗D抗体を使用する方法もあります。
 ただし、非免疫性の胎児水腫の場合には、根本的な治療法はありません。
[予防]
 免疫性の胎児水腫は、Rh(-)のお母さんからRh(+)の赤ちゃんが生まれたとき、お母さんに分娩後すみやかに抗D抗体を注射することで、次回妊娠の際の発症を予防することができます。
 しかし、非免疫性の胎児水腫には、特別な予防法はありません。

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