日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファエトン」の意味・わかりやすい解説
ファエトン
ふぁえとん
Phaethon
ギリシア神話の太陽神の子。普通、父はヘリオスとされるが、後代になると、たとえばオウィディウスではアポロンとなっている。ホメロスでは、この名は「光り輝く」を意味する形容詞として太陽について用いられる。成人したのち初めて父の名を知ったファエトンは、世界の果てにいる父を尋ねて行く。太陽神は、父である証拠にどのような願いでもかなえてやろうと約束したので、ファエトンは太陽神の二輪車に乗ることを願った。太陽神は、その危険から、ほかのことを願うよう彼を諭(さと)すが、結局約束どおり許してしまう。ファエトンには四頭の馬を御すだけの力がなかったので、二輪車はたちまち太陽神の教えた太陽の軌道を外れ、狂奔する太陽の炎は地上を焼き払った。ついにゼウスは雷霆(らいてい)をファエトンに投げつけ、彼はエリダノス河に撃ち落とされて死ぬ。彼の姉妹たち(ヘリアデス)は、彼の死骸(しがい)を葬ったのちも嘆き悲しみ、ついにポプラの木と化した。その流れ落ちた涙は琥珀(こはく)になったという。物語は、アイスキロスやエウリピデスによって劇化されたが、いずれも散逸して伝わっていない。
[伊藤照夫]