翻訳|Phaethon
ギリシア神話で,太陽神ヘリオスの子。その名は〈輝く者〉の意。成人してはじめて会った父神に,どんな願いもかなえてやるといわれた彼は,1日だけの約束で父の馬車を借りて大空に乗り出したが,荒馬を御すすべを知らなかったため,軌道を踏み外した火炎の車があやうく地を焼き払いそうになったとき,ゼウスの雷霆によってエリダノス川へ撃ち落とされた。このとき河畔に集まった彼の姉妹たちのヘリアデスHēliades(太陽神の娘たち)は,その死を悼んで嘆き続けるうちにポプラの木と化し,彼女たちの涙は凝固して琥珀(こはく)になったという。エリダノス川は古くは北洋に注ぐ大河と想像され,のちにはポー川と同一視されたが,河口にエレクトリデス(琥珀)諸島があるというこの川は,ヨーロッパではバルト海にしか産しない琥珀が青銅器時代の地中海世界に入ったときの交易路,いわゆる〈琥珀の道〉の記憶をとどめるものと考えられている。
執筆者:水谷 智洋
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ギリシア神話の太陽神の子。普通、父はヘリオスとされるが、後代になると、たとえばオウィディウスではアポロンとなっている。ホメロスでは、この名は「光り輝く」を意味する形容詞として太陽について用いられる。成人したのち初めて父の名を知ったファエトンは、世界の果てにいる父を尋ねて行く。太陽神は、父である証拠にどのような願いでもかなえてやろうと約束したので、ファエトンは太陽神の二輪車に乗ることを願った。太陽神は、その危険から、ほかのことを願うよう彼を諭(さと)すが、結局約束どおり許してしまう。ファエトンには四頭の馬を御すだけの力がなかったので、二輪車はたちまち太陽神の教えた太陽の軌道を外れ、狂奔する太陽の炎は地上を焼き払った。ついにゼウスは雷霆(らいてい)をファエトンに投げつけ、彼はエリダノス河に撃ち落とされて死ぬ。彼の姉妹たち(ヘリアデス)は、彼の死骸(しがい)を葬ったのちも嘆き悲しみ、ついにポプラの木と化した。その流れ落ちた涙は琥珀(こはく)になったという。物語は、アイスキロスやエウリピデスによって劇化されたが、いずれも散逸して伝わっていない。
[伊藤照夫]
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…同じくティタン神のひとりアストライオス(〈星男〉の意)とのあいだにゼフュロスZephyros(西風),エウロスEuros(東風),ノトスNotos(南風),ボレアスBoreas(北風)などの風神と,暁の明星その他の星を生んだ。ランポス(光)とファエトン(輝く者)という名の2頭の馬がひく戦車に乗り,太陽神の先駆けとなって大空をはせる女神は,ホメロスの叙事詩に〈ばら色の指をもてる〉〈サフラン色の衣をまとえる〉女神と歌われている。彼女はまた美男子の狩人オリオン,アッティカの王子ケファロス,トロイア王プリアモスの兄弟ティトノスらを恋人として誘拐したが,ティトノスとのあいだにもうけた子メムノンは,トロイア戦争でアキレウスに討たれた。…
…もっとも,このリュンクリウムは黄コハクとは関係がなく,青や緑や赤の燃えるような色を呈するケイ酸塩鉱物の一種,トルマリン(電気石)だという説もある。 ギリシア神話では,太陽の黄金の二輪車を走らせているうち,誤って軌道を踏みはずし,転落して死んだファエトンの姉妹たち(太陽神ヘリオスの娘たち)が,ファエトンの死を嘆き悲しんでポプラの樹と化し,彼女たちの涙が太陽の光で乾かされ,河底に沈んでコハクになったという。ギリシア人がコハクをエレクトロン(〈太陽の石〉の意)と呼んだのは,この神話と関係があるかもしれない。…
※「ファエトン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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