翻訳|allergen
アレルギー反応の誘因となる物質のこと。アレルギーは、自己を外敵から守る仕組みであるはずの免疫が、本来は無害なはずの他者に対して反応することにより、体にとって不利益な症状が引き起こされる現象である。この免疫反応は外部の抗原と、体内でつくられた抗体が結合することによりおこるが、アレルゲンはこのアレルギーのきっかけとなる抗原のことをさす。アレルゲンとなる物質は通常、自己以外の生物のタンパク質である。
どの物質がアレルゲンとなっているかは、人により、また経過により異なる。それは免疫を担当する細胞がつくる抗体が異なることや、その抗体がどの細胞の表面にいるかなどの条件による。何がアレルゲンとなっているかをみつけるためには、二段階で確認を行う。第一に、症状のきっかけとなっている状況、すなわちどういった物質がどこに接触していることで症状が発現しているのか、事実を確認し、アレルゲンの候補をみつけだす。第二に、その物質に対する免疫グロブリンE(IgE)抗体があるかどうかを、血液検査や皮膚検査で確認する。症状と結び付いていない場合は、IgE抗体が検出されても、アレルゲンとなっているとはいえない。
IgE抗体の検査は、通常どの生物に対する抗体かを測定することで行われているが、近年ではどの生物のどの物質に対する抗体かを測定することも行われるようになってきている。たとえば、ピーナッツに対するIgE抗体を検査する方法に加えて、ピーナッツのタンパク質のうち、とくにアレルギーの原因となることの多いタンパク質であるAra h2に対するIgE抗体の有無を検査することができるようになっている。
かつてアレルギーは、免疫反応のうち生体にとって不利に働くものととらえられ、アレルゲンはその原因物質とされていたので、生体をおびやかす原因としての負の存在と位置づけられてきた。したがってアレルギーの対応は、アレルゲンを同定し、除去することに主眼が置かれてきた。しかしアレルゲンは、それがきっかけとなり免疫反応が引き起こされなければ、除去する必要があるとはいえない。そこで近年では、アレルゲン免疫療法によって、アレルゲンの存在がアレルギーの症状につながらない状態を目ざす治療が試みられている。
[高増哲也 2021年12月14日]
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ヒトにおける気管支喘息(ぜんそく),花粉症などのアレルギー性疾患もしくはアレルギー反応をひき起こす抗原物質をいう。1906年ピルケーClemens Pirquet(1874-1929)が,異物の侵入をうけたあとでその異物に対する生体の反応性が変化することをアレルギーと名づけ,その異物をアレルゲンと呼んだ。現在では,おもに免疫グロブリンIgE型抗体による即時型アレルギーの発生に関与する抗原をアレルゲンと呼ぶ場合が多い。アレルゲンの種類としては,ブタクサ花粉,カモガヤ花粉,スギ花粉などから抽出される花粉アレルゲン,ウマ,ネコなどの毛や皮膚からの脱落物,ダニなどから抽出される動物アレルゲン,魚肉,牛乳,鶏卵などから抽出される食物アレルゲンおよびカビアレルゲンなどがある。これらのアレルゲンの本態はおもにタンパク質であるが,薬物などの低分子の単純化学物質も特殊な条件のもとではアレルゲンとなりうる。アレルゲンの活性の測定法としては,皮膚反応,試験管内でのヒスタミン遊離反応,RAST(radioallergosorbent test)などを応用した方法が一般に用いられる。
→アレルギー
執筆者:村中 正治
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出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…このアトピー性レアギンの本態は,66年石坂公成らにより,特異な生物活性をもった免疫グロブリン(IgE)に属する抗体であることが証明された。体外から侵入した抗原物質(アレルゲン)に対してIgE抗体が産生される状況は,個人個人によって異なり,遺伝傾向が強い。現在,アトピーとは〈IgE抗体とアレルゲンとの免疫反応にもとづく症状をおもな症状とする遺伝傾向が強いアレルギー性疾患群〉と定義されている。…
… なおIg E産生細胞は抗原と接触する機会の多い気道や消化管粘膜にかなり多いことが知られていて,アレルギー反応の局在性を暗示している。
[アレルゲンについて]
アレルギーの原因となる抗原をアレルゲンという。非自己non‐selfの物質はすべて抗原として作用する可能性があるが,とくにI型アレルギーの病因的抗原としては,吸入性抗原として室内塵(その主要抗原としてのダニ),花粉(木の花粉としてはスギの花粉,草の花粉としてはイネ科の植物,ブタクサ,ヨモギ,カナムグラなど),カビ類(カンジダ,アスペルギルス,アルテルナリア,ペニシリウム,クラドスポリウムなど),動物の毛あか,植物繊維などがある。…
…【伊藤 新作】
【病態】
気管支喘息の病態は,気管支平滑筋の攣縮(れんしゅく),粘膜の浮腫,粘液分泌の増加などによる広範な気道の狭窄によるものであり,この原因として,気道過敏性の亢進および慢性の気道炎症が考えられている。気道過敏性とは,いろいろな刺激(ダニ,家のほこり,花粉などのアレルゲン,冷気,タバコの煙など)に対して,正常人より有意に気道が反応することであり,気管支喘息患者では一般にこの反応が亢進しており,何らかの遺伝的素因の関与が考えられている。気道炎症とは,気管支喘息患者の気道において慢性的に炎症細胞(肥満細胞,好酸球など)やサイトカインと呼ばれるタンパク質などが出現し,メディエーターとよばれる化学伝達物質が放出されるなどして,気道粘膜の浮腫や,粘液分泌をもたらされていることであり,気管支喘息の主たる原因として近年注目されている。…
…回避できないアレルゲンによってひき起こされるアレルギー性疾患に対する特殊な治療法。抗原物質に対して過敏な状態にすることを〈感作sensitization〉といい,その過敏性を除去する処置を〈減感作〉(かつては除感作,脱感作といった)という。…
… 物質がもつ抗原としての性質は抗原性と呼ばれ,その能力の強弱は抗原性が高(強)い,低(弱)い等という。また,抗原を抗体産生を含む免疫の成立,免疫学的寛容やアレルギーを起こす能力に焦点をしぼって考えるとき,免疫原(イムノーゲンimmunogen),寛容原(トレローゲンtolerogen),アレルゲンallergenなどともいう。さらに,抗原を生体に与えて免疫状態等を成立させることを免疫(感作)するなどという。…
…しかし,現在では,表皮に付着した化学物質を身体が拒絶して起こす遅延型アレルギーにより,表皮内に小水疱の形成されることが湿疹の本態と考えられており,したがって湿疹は,病名ではなく症候名ということになる。このような接触アレルギーのメカニズムがわかったのは,パッチテストという臨床検査法が実用化されて,多くの化学物質が接触アレルゲンとなって湿疹をつくることがわかってからである。 アレルゲンが皮膚に接触すると,まずかゆみのある紅斑性丘疹や小水疱が生じ,それらをかきこわしたあとがアワ粒くらいの糜爛(びらん)になり,鱗屑(りんせつ)(ふけのような,表皮の角化したもの)を生じて治る。…
…アレルギー反応によって誘発される鼻炎で,頻発するくしゃみ,水様性鼻汁,鼻閉を主症状とする。アレルギー反応やアレルギー性疾患をひき起こす抗原性物質をアレルゲンというが,鼻粘膜にアレルゲンがつくと,すでに粘膜のマスト細胞表面に存在しているIgE抗体との間で抗原抗体反応が起こる。この疾患が遺伝子病といわれるゆえんは,遺伝子の異常によって,ある抗原に対してIgE抗体が著しく多量に産生されるようになることによる。…
※「アレルゲン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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