イルハン国(読み)イルハンコク(その他表記)Īl-khante; Īl-khaniyān

デジタル大辞泉 「イルハン国」の意味・読み・例文・類語

イル‐ハンこく【イルハン国】

モンゴル帝国四ハン国の一。1258年、チンギス=ハンの孫フラグアッバース朝を倒し、イランの地を中心に建国。都はタブリーズ。7代のカザンハン在位1295~1304)の時代にイスラム教国教とし、領土を広げ全盛期を迎えたが、1335年以降は内紛衰退、1353年に滅亡
[補説]「伊児汗国」とも書く。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イルハン国」の意味・わかりやすい解説

イル・ハン国
イル・ハンこく
Īl-khante; Īl-khaniyān

イランのモンゴル王朝(1256~1353)。代々の王が「イル・ハン」(トルコ語で「国の王」の意。→イル)の称号をとったのでこの名がある。1253年モンケ・ハンの命により,その弟フラグ(旭烈兀)(在位 1256~65)は遠征軍を率いてイランに向かい,まずアサッシン派教徒を覆滅し,次いでバグダードアッバース朝を滅ぼし,さらにシリアパレスチナをも占領した。フラグは 1259年モンケの死の報に接して帰還しようとしたが,エジプトマムルーク朝のシリア進出に備えて遠征軍とともにイランの地にとどまった。フラグをはじめ諸代のイル・ハンは朝を宗室と認め,友好関係を保ったが,チャガタイ・ハン国キプチャク・ハン国とは領土問題をめぐって対立を続けた。イル・ハン国支配の前半期には,各王家の支持を背景とする諸族が各地に割拠し,王位継承問題や領土問題をめぐってしばしば内乱を起こしたため,王権は弱体であった。しかし,第7代ガーザーン・ハン(合賛汗)(在位 1295~1304)はこれら諸族を押さえ,また税制改革や行政改革を実施して中央集権的支配体制を確立し,さらにイスラムを採用してモスクマドラサの建築にも意を傾け,イスラム国家としての統治方針を打ち出した。ガーザーン・ハンの弟ウルジャーイトゥー(在位 1304~16)は,兄の統治方針を踏襲したが,その没後,再びモンゴル諸族の対立が表面化し,内乱と無政府状態のなかにイル・ハン国は急速に衰退していき,チョバン朝ジャラーイル朝実権を掌握するにいたって,事実上その支配は崩壊した。イル・ハン国の治世には,異民族の支配ながら,イラン・イスラム文化が保護,育成され,天文学(→イル・ハン表),歴史学などの学問や建築・美術(→イル・ハン朝美術)にみるべきものが多い。特に歴史学においては,ジュバイニーラシード・ウッディーンのような優れた史家が現れ,彼らの著した歴史書はそれ以後のペルシア語歴史著述の一つの典型となっている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「イルハン国」の解説

イル・ハン国(イル・ハンこく)
Il Khan

1258~1411

フレグ・ウルスともいう。モンゴル帝国の諸ハン国の一つ。始祖はチンギス・カンの孫フレグ。1258年,アッバース朝を倒し,イラン北西のマラーガ,のち,タブリーズを都として建国した。地中海岸からアム川までを領有したが,元朝を宗主国として戴いた。初めはローマ教皇,キリスト教国と結んでマムルーク朝と争ったが,モンゴル人イスラーム教徒が増加したので,ガザン・ハンの治世(1295~1304年)にイスラームを国教とし,モスク,神学校などを建てた。歴史家で『集史』の著者でもある宰相ラシードゥッディーンの輔弼(ほひつ)のもと軍制,税制などを改革して財政を再建し,イル・ハン国の黄金時代を築いた。のちハン位争いと有力貴族の跋扈(ばっこ)のため国勢が衰え,チンギス・カンの子孫が絶えた(1353年)。王統が臣下のジャライル家,チューパン家などに移ったのち,ティムールに征服された。

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旺文社世界史事典 三訂版 「イルハン国」の解説

イル−ハン国
イル−ハンこく
Il Khan

1258〜1411
フビライの弟フラグがアッバース朝を滅ぼして西アジアに建てたハン国
都はカスピ海南西のタブリーズ。モンゴル系四ハン国のうち,元朝に最も友好的であった。シリアの領有をめぐってエジプトのマムルーク朝と争ったため,初めイスラームに反対,ネストリウス派キリスト教を支持し,ローマ教皇やキリスト教国に接近した。しかし,13世紀末に即位した7代ガザン=ハンはイスラームを国教に定め,文化の興隆にもつとめ,宰相ラシード=ウッディーンによって『集史』として知られる世界史が編纂 (へんさん) された。14世紀になるとハン位争奪の内乱も起こって衰退し,ティムールの攻撃を受けたのち分裂して滅亡した。

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