ウーマン・リブ(読み)ウーマンリブ(英語表記)Women's liberation movement

百科事典マイペディア 「ウーマン・リブ」の意味・わかりやすい解説

ウーマン・リブ

単に〈リブ〉とも言う。〈女性解放運動women's liberation movement〉を略して,日本で広く使われている呼称。1960年代から1970年代にかけての,フェミニズム運動の世界的な盛り上がりをさす。その発端は1960年代後半,米国の公民権運動ベトナム反戦運動において,女性の運動家が仲間の男性の性差別的な運営と衝突し,それまでの運動を飛び出して独自の組織をつくり始めたことであった。やがて他の国々においても,〈女性解放〉を目標に掲げた組織やネットワークが次々と誕生した。日本でも安保闘争を背景として1970年に女性だけの独立した運動が生まれ,集会,デモ,合宿などが活発に行われた。ウーマン・リブはレズビアンゲイの解放,第三世界の解放,黒人解放など,他の抑圧されたグループの〈解放〉と呼応しながら世界的に連帯し,1975年メキシコで開かれた国連の第1回世界女性会議において運動はピークに達した。ウーマン・リブの運動家は,これまでのフェミニズム運動における女性の権利要求に加えて,女性の意識や個人的な人間関係にまで立ち入り目に見えにくい形で女性を抑圧してきた権力構造を分析し,そこからの解放を目指した。新しい運動方法を模索して,女性だけの共同生活(コレクティブ)を営んだり,個人の体験を少人数グループで共有して意識を高め合う〈意識覚醒/高揚(コンシャスネス・レイジング)〉を行ったりした。また,ここで生まれた新しい現状認識から,これまで重要視されることの少なかった要求――避妊の自由,中絶の自己決定権,託児所の充実,性暴力の根絶,レズビアンに対する差別撤廃など――を広く社会に訴えた。日本においては特に,優生保護法,ピル解禁,生殖技術の発展などに対する現実的な批判が行われるとともに,女性の性表現に関する独自の言葉と認識とが編み出されていった。ウーマン・リブの掲げた問題点は,1976年から1985年の〈国連女性の10年〉の過程で,一般の主婦層をふくむ多くの人々に受け継がれ,現在もその解放に向け,さまざまな形で運動が続けられている。また,女性学男性学ジェンダー研究などもようやく研究分野として認められつつあり,歴史文化,社会などあらゆる分野において,これまで自明とされてきたことの見直しが試みられている。
→関連項目公民権運動シスターフッド女性史第二の性俵萌子フリーダンミレットメンズ・リブレズビアン・ゲイ解放運動

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウーマン・リブ」の意味・わかりやすい解説

ウーマン・リブ
Women's liberation movement

女性のために男性と平等な権利を求め,男性と対等の地位や自分自身で職業や生き方を選べる自由を獲得しようとする社会運動。フェミニズム運動とも呼ばれる。
女性の権利を求める考え方は啓蒙時代にさかのぼり,当時の自由主義平等主義,改革主義の理念がブルジョアジーや農民,都市労働者から女性たちに拡大された。女性解放運動黎明期の理念は,1792年にイギリスで発行されたメアリー・ウルストンクラフトの『女性の権利の擁護』A Vindication of the Rights of Womanに網羅されており,女性は男性を喜ばせるためにのみ存在しているという考え方に挑むとともに,教育や仕事,政治において女性も男性と同じ機会を得ることが提唱されている。しかし 19世紀における男女平等の認識は,女性参政権運動として結晶したものの,女性たちの社会的立場や役割,経済に占めるその位置づけについて根本的な再評価を行なうものではなかった。19世紀後半になると,一部の女性たちが職業につくようになり,女性全体としても 20世紀前半には選挙権をほぼ獲得したが,女性の職場参加にはまだ明らかな制約があり,かつ女性たちを妻や母親,主婦といった伝統的な役割に押し込める考え方が一般的だった。やがて子供数の減少と家庭電化製品の普及によって労働集約的な家事労働の大半から女性が解放されるに従い,女性たちを劣った(少なくとも依存的な)立場に追いやっていた経済的条件は変化していった。
第2次世界大戦以降,西ヨーロッパ社会でサービス産業が発展したことも,女性が男性同様に就業できる新たな職種の誕生に寄与した。そうしたすべての要因が重なって,社会の伝統的な女性観は自分たちの現実生活ほど急激には変化しないことに気づく女性がますます増えていった。さらに,1960年代のアメリカ合衆国における公民権運動の影響を受け,女性たちは大衆への世論喚起や社会批判など公民権運動に似た方法で,みずからのためによりよい状況を獲得しようと努めるようになった。シモーヌ・ド・ボーボアールによる近代フェミニズムの記念碑的著書『第二の性』Le Deuxième Sexe(1949)は,世界中でベストセラーになり,女性解放は男性も解放するという理念を唱えることでフェミニズム意識をかきたてた。もう一つの重要な著作は,1963年にアメリカのベティ・N.フリーダンが発表した『新しい女性の創造』(原題『女らしさの神話』The Feminine Mystique)である。フリーダンは息のつまるような家庭生活──女性たちに受動的な役目を受容させ,男性支配に依存させるような条件づけ──を批判した。
1966年フリーダンはほかのフェミニストたちとともに全米女性組織 NOWを設立。その直後,アメリカをはじめとする西ヨーロッパ諸国で平等権を求める女性団体が続々と誕生した。こうした団体は,契約や財産権,雇用や給与,家計の管理,セックスや出産関連の問題(たとえば避妊や中絶)などをめぐる差別によって,女性たちを劣った立場に押し込めている法や慣行を覆そうとした。より広い観点に立てば,フェミニズム運動が変えようとしたのは,女性は相対的に弱く,受動的,依存的であり,男性ほど合理的でなく感情的だとみなす社会に行き渡ったステレオタイプであった。フェミニズムは,女性当人さえ望むなら,職業について経済的かつ心理的に男性に依存しないでいられるように,さらに大きな自由を獲得することを目指した。フェミニストたちは,性欲の対象になることを女性に強いる社会的圧力を批判し,男性と同程度まで女性たちの自意識や機会を拡張することを求め,政治的意志決定などあらゆる公的場面に女性たちを参加させることを目指す。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウーマン・リブ」の意味・わかりやすい解説

ウーマン・リブ
うーまんりぶ
women's lib.

ウイメンズ・リベレーションwomen's liberationの略。1960年代後半以降、アメリカを中心とする先進資本主義諸国に広がった女性解放運動の一潮流。日本でも1970年(昭和45)前後からウーマン・リブのグループが結成され、街頭に、小グループの学習会に、活動を展開した。思想的な背景としては、1950年代にマルクス主義の自己変革を目ざして誕生したニュー・レフト思想、さらには、その思想的継承性のうえに60年代後半に展開された新左翼の思想につながる。

 ウーマン・リブの主張はグループごとに、また著作ごとに多岐にわたるが、いまその主要な論点を指摘するならば、第一に、性差別の根源を男性による女性の抑圧・差別と支配を中心に把握する点にある。第二に、性の解放の主張である。具体的には、避妊と妊娠中絶の合法化、無料化により性と生殖を切り離すことによって、性行為における男女の平等性、主体性を追求する。同時に、私有財産制度下の一夫一婦制家族の形態に批判の目を向ける。第三に、「内なる女意識の克服」と名づけられる意識変革の重視である。意識変革には、今日の資本主義社会を貫く業績・効率万能の論理を男の論理として否定し、それにかわる女の論理を模索する志向も含まれる。

[布施晶子]

『ケート・ミレット他著、高野フミ他訳『ウーマン・リブ――女性は何を考え、何を求めるか?』(1971・早川書房)』『田中美津著『いのちの女たちへ――とり乱しウーマン・リブ論』(河出文庫)』『溝口明代他編『資料日本ウーマン・リブ史』1~3(1992~95・松香堂書店)』

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世界大百科事典(旧版)内のウーマン・リブの言及

【女性運動】より

…しかし,最大の組織である〈全国地域婦人団体連絡協議会〉(地婦連)が,戦時中の女性団体の行政癒着的性格を払拭しきれないで存在する一方で,1960年代から女性運動に対する政党による系列化が進み,社会党系の〈日本婦人会議〉,共産党系の〈新日本婦人の会〉,民社党系の〈民主婦人の会〉,公明党系の〈主婦同盟〉が結成され,〈働く婦人の中央集会〉(総評,日本婦人団体連合会などが中心となり,女性労働者の交流と学習のために1956年以降毎年開催)にも政党が影を落とすようになった。
[ウーマン・リブ以降]
 1960年代後半に,アメリカ合衆国でウーマン・リブwomen’s lib.(women’s liberation)の運動が発生し,急速に世界各地に波及した。第2次大戦後の安定期に家庭に帰った女性が,その生活に満足できなかったこと,また高等教育を受ける女性が増大したにもかかわらず,彼女たちには能力を生かす機会が与えられなかったことなどが,黒人運動や学生運動における性差別に触発されて,新しい女性運動を生みだしたのである。…

※「ウーマン・リブ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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