精選版 日本国語大辞典 「ケルビン」の意味・読み・例文・類語
ケルビン
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イギリスの物理学者。アイルランドのベルファストの生れ。本名はウィリアム・トムソンWilliam Thomson。1892年,彼の業績に対してバロンの爵位が贈られケルビン卿と名のった。父はグラスゴー大学の数学教授を務めた人で,兄ジェームズ・トムソンJames Thomson(1822-92)も同大学の工学の教授となり,圧力による水の氷点降下,水の三重点などの物理学上の発見で知られる。ウィリアムは10歳でグラスゴー大学の入学を許可され,のちにケンブリッジ大学で学んだ。この間すでにフーリエ展開,熱および電気に関する10編ほどの論文を発表している。ケンブリッジ大学卒業(1845)後,パリのルニョーHenri Victor Regnault(1810-78)の下で実験の指導を受け,実験に関する能力を啓発されるとともに,B.クラペイロンの論文を通してS.カルノーの熱機関の研究を知る機会を得た。1846年,弱冠22歳でグラスゴー大学の物理学教授となり,1904年には同大学の総長に推された。
彼の研究領域はきわめて多岐にわたり,熱力学,電気磁気学をはじめ,当時の古典物理学のほぼ全分野に及ぶ。発表論文数は600を超える。熱力学に関しては,R. クラウジウス,W.ランキンと並んで熱力学の開拓者の一人である。カルノーの研究に注目し,カルノーの原理とルニョーの実験結果に基づいて,1848年絶対温度目盛を導入,のちに彼の名にちなみその単位はケルビンと名づけられた。また,1847年のJ.P.ジュールの熱の仕事当量に関する論文の重要性を高く評価し,熱と仕事の同等性の見地からカルノー理論の一般化を試み,51年独自に熱力学第2法則を定式化した。同年トムソン効果の名で知られる熱電気の研究を行い,翌年にはジュールとともにジュール=トムソンの実験として有名な細孔栓の実験を行ってジュール=トムソン効果を発見した。電気磁気学に関しては,電気伝導,鏡像法,電気放電の振動性などの理論的業績に加えて,55年以降始めた海底電信の研究との関連で電気信号の理論的研究,実験装置,機器の開発を行った。66年には大西洋電信会社に招かれて海底電線の敷設を指導,完成させたが,この間受信装置のための鏡式電流計,サイフォンレコーダーを発明した。また,電気諸単位の完成に努力し,単位測定用の絶対電気計,象限電気計,電気ばかりなどを考案した。航海技術に関しても,羅針盤の改良,ジャイロコンパスの発明で知られる。ほかに,潮汐,地球の年齢の推算などの地球物理学的研究,渦の運動に関する流体力学の研究があり,後者を応用した渦動原子モデルなどによって古典的な原子構造論を展開し,原子論にも深い関心を示した。ケルビンは電磁現象をエーテルの力学的構造から導こうと試みるなど,基本的には機械論的自然観の立場にあった。多くの物理学者が彼の指導,影響を受けたが,日本の物理学者田中館愛橘もケルビンの下で教えを受けた。
執筆者:井上 隆義
温度の単位。厳密には熱力学温度(絶対温度ともいう)の単位。記号はK。国際単位系の基本単位の一つで,水の三重点の熱力学温度の1/273.16と定義される。温度測定の基準を定めようとするとき,液体の膨張などの個別的物性を利用して温度目盛を決めても,普遍的な基準は得られない。そこで,可逆サイクルという理想的な熱機関の効率(これは個別的物性に左右されず,高低二つの熱源の温度だけで決まる)を尺度として温度を表すことにし,そのような温度を熱力学温度と呼ぶ。一方,純粋な水の氷,液体の水,水蒸気の三つの相が同時に存在する場所の温度は,きわめて安定しているので,これを基本の温度定点とし,その数値をセルシウス度を使ってきたという伝統尊重の立場から273.16Kと定める。この定め方を別の形で表したのが,上記の定義文である。今日,セルシウス度(℃)その他の内容はすべてケルビンから導き出される。絶対温度の考えを導入したケルビンLord Kelvinに由来する。
執筆者:高田 誠二
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(今井秀孝 独立行政法人産業技術総合研究所研究顧問 / 2008年)
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…なお,効率ηは1を超えることはありえないから絶対温度には下限すなわち絶対0度が存在する。このような絶対温度の概念は1848年にW.トムソン(ケルビン)によって導入された。理想的な熱機関とは可逆的に働く熱機関で,カルノーサイクルに代表される。…
…電気盆をきっかけにして,静電誘導を利用する多くの起電機が発明されたが,その中では,イギリスの技術者のJ.ウィムズハーストが,1882年ごろつくった回転運動を利用して連続的に電荷を集めるようにした起電機がとくに有名である。(2)水滴起電機 ケルビンが1867年に発明したもの。図2に示すように,ノズルを出た水滴が金属円筒A,A′の中を通って,金属容器B,B′まで落下する。…
…熱力学的温度ともいい,また1848年にケルビン(W.トムソン)によって導入されたことからケルビン温度とも呼ばれる。熱力学の第1,第2法則に基づいて理想的な熱機関の効率により定義される温度。…
…なお,効率ηは1を超えることはありえないから絶対温度には下限すなわち絶対0度が存在する。このような絶対温度の概念は1848年にW.トムソン(ケルビン)によって導入された。理想的な熱機関とは可逆的に働く熱機関で,カルノーサイクルに代表される。…
…熱力学的温度ともいい,また1848年にケルビン(W.トムソン)によって導入されたことからケルビン温度とも呼ばれる。熱力学の第1,第2法則に基づいて理想的な熱機関の効率により定義される温度。…
…この生成熱量あるいは吸収熱量は流れる電流に比例し,その比例定数は二つの金属によって決まる。一方,トムソン効果Thomson effectは,長さ方向に不均一な温度に保たれた金属線に電流を流すとき,ペルチエ効果と同様に熱の生成あるいは吸収が起こる現象で,W.トムソン(ケルビン)によって発見された。これら二つの効果はともに電流の流れる向きが逆になると,熱の生成,吸収が逆転する。…
※「ケルビン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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