アメリカのジャズ・サックス奏者。ニューヨークに生まれ、1960年代後半にマンハッタンの音楽学校でアルゼンチン生まれの作曲家レオナルド・バラダLeonardo Balada(1933― )に作曲を学ぶ。71年から72年にかけセントルイスのウェブスター・カレッジに学び、そこで教鞭をとるアルト・サックス奏者オリバー・レークOliver Lake(1942― )から、彼の所属する黒人ミュージシャン団体BAG(Black Artists' Group)や、シカゴの「創造的音楽家の前進のための協会」(AACM)の音楽を聴くことを勧められる。ゾーンはAACM(Association for the Advancement of Creative Musicians)のアルト・サックス奏者アンソニー・ブラクストンAnthony Braxton(1945― )のソロ・アルバムの知的な構成に関心をもつ。ゾーンはもともとピアノ科の学生だったが、こうした体験からアルト・サックスを主要な楽器と定め、1日8時間にも及ぶ練習によって高度の演奏技術を身につけ、西海岸へ赴(おもむ)きソロ・パフォーマンスを行う。74年ニューヨークに戻り、マンハッタンのロワー・イースト・サイドに居を構え、当時ニューヨークにたくさんできた小規模なライブ・クラブを中心に実験的な音楽活動を開始。ジャズ、ロック、クラシックなどさまざまな音楽ジャンルのミュージシャンたちと共演する。この時期の彼の音楽は自家録音され、後に『ファースト・レコーディング1973』(1995)として発表される。
70年代後半は、ウェブスター・カレッジで学んだ、トリオからオーケストラにいたるさまざまな編成のための「構造化された即興演奏」を実践する。それらは複雑な一連の規則、あるいは体系に従った指針によって演奏され、86年のアルバム『コブラ』につながる。1980年前後のニューヨークはゾーンをはじめ、イギリスからやってきたギター奏者フレッド・フリスFred Frith(1949― )、ドラム、パーカッション奏者のデビッド・モスDavid Moss(1949― )、ベース奏者のビル・ラズウェルBill Laswell(1955― )などが各自小グループを組織し、またその各々のメンバーが交差するといった状況にあった。彼らの音楽は従来のカテゴリーには収まりきらないが、即興を重視したところから「ニューヨーク新即興派」と呼ばれるようになる。83年、ドイツ、ノルトライン・ウェストファーレン州の都市メールスにおけるインターナショナル・ニュー・ジャズ・フェスティバルに、ゾーンを含む「ニューヨーク新即興派」の面々が招待され好評を博し、一躍先鋭的音楽ファンの注目を集め活動範囲が飛躍的に拡大する。
ウェブスター・カレッジで映画も専攻していたゾーンは映画音楽への関心も高く、イタリア人作曲家エンニオ・モリコーネの書いた映画音楽へのオマージュ作品『ザ・ビッグ・ガン・ダウン』(1984~85)など、この方面でも精力的に活動し、一連の映画音楽作品「フィルム・ワークス」を発表する。またジャズ・レコード・コレクターとして大量のLPを所有するゾーンは、過去のジャズマンにも強い関心を示し、50年代から60年代にかけ活躍したケニー・ドーハムKenny Dorham(1924―72、トランペット)、ハンク・モブレーHank Mobley(1930―86、テナー・サックス)、ソニー・クラークらの作曲した作品を現代的感覚で再演したアルバム『ニュース・フォー・ルル』(1987)を録音。89年にはアルト・サックス奏者オーネット・コールマンの作品を驚異的なスピードで演奏したアルバム『スパイ vs. スパイ』を録音する。同年、ギター奏者ビル・フリゼール、キーボード奏者ウェイン・ホービッツWayne Horvitz(1955― )、ドラム奏者ジョーイ・バロンJoey Baron(1955― )そしてベースをフリスが担当するグループ「ネイキッド・シティ」を結成。90年、ゲストにボーカルの山塚アイ(1964― )を加えたアルバム『ネイキッド・シティ』を録音。
93年、ナチスによるユダヤ人襲撃事件をテーマとしたアルバム『クリスタルナハト』で、ゾーンは初めてユダヤ人としての自らの出自を正面から取り上げた。翌94年トランペット奏者デーブ・ダグラスDave Douglas(1963― )、ベース奏者グレッグ・コーエンGreg Cohen、バロンをサイドマンとするグループ「マサダ」を結成。このグループ名は、ユダヤ民族の象徴ともいえる「マサダの砦」(イスラエル東部の古代遺跡)にちなんでいる。同年アルバム『マサダ1』を発表、ジューイッシュ・メロディとコールマン的な方法論を巧みに融合させる。
ゾーンの非常に多岐にわたる音楽をひとことで総括するのは困難だが、彼の活動の主軸が10枚を超える「マサダ・シリーズ」であることを考えると、彼が民族的アイデンティティを主要なテーマとしていることは疑いない。
[後藤雅洋]
(2013-5-8)
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