タングステン(その他表記)tungsten
wolfram

デジタル大辞泉 「タングステン」の意味・読み・例文・類語

タングステン(tungsten)

クロム族元素の一。単体は光沢のある白色または灰白色の金属。融点は金属中最高でセ氏3387度。電球のフィラメント電極合金などに利用。主要鉱石は鉄マンガン重石灰重石かいじゅうせきなど。名はスウェーデン語で重い石の意。元素記号W 原子番号74。原子量183.8。ウォルフラム

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精選版 日本国語大辞典 「タングステン」の意味・読み・例文・類語

タングステン

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( [英語] tungsten スウェーデン語で「重い石」の意による ) クロム族元素の一つ。元素記号W 原子番号七四。原子量一八三・八四。白色ないし灰白色の光沢のある金属。等軸晶系。灰重(かいじゅう)石・鉄マンガン重石などのタングステン酸塩鉱物として産出。酸化タングステン(VI)を還元し、得られたタングステン粉末を摂氏約三〇〇〇度で焼結してつくる。常温では安定。空気中で摂氏四〇〇度以上に加熱すると酸化する。硬度・比重ともに大。融点は金属中最高で摂氏三三八七度。電気の良導体なので電球のフィラメント、X線管の対陰極、溶接用・アーク炉などの電極、真空管電気接点などに広く用いられる。また高速度鋼・永久磁石鋼・耐熱耐食合金などの合金元素としても重要。
    1. [初出の実例]「チュングステン」(出典:明六雑誌‐二二号(1874)化学改革の大略〈清水卯三郎〉)
  3. タングステンでんきゅう(━電球)」の略。
    1. [初出の実例]「通りへ買ひに遣った、タングステンが、やがて紙包みに成って現れて」(出典:日本橋(1914)〈泉鏡花〉三四)

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改訂新版 世界大百科事典 「タングステン」の意味・わかりやすい解説

タングステン
tungsten
wolfram

周期表第ⅥA族に属するクロム族元素の一つ。ウォルフラムともいう。古くスズ鉱の冶金に際してこれが混在すると,多量のスズを奪いとり鉱滓としてしまうことから,むさぼり食うオオカミ,オオカミの出す不潔物という意味で坑夫がWolfrahm(ドイツ語)と呼んで嫌っていた。このことから16世紀ころからタングステンの鉱石(鉄マンガン重石)をWolframitと呼んだが,これにちなんでこの元素はドイツ語系ではウォルフラムと呼ばれるようになった。また1758年スウェーデンの鉱物学者クロンシュテットA.F.Cronstedtがこの元素の金属単体をとり出し,比重が高いためtungsten(スウェーデン語で重い石)と称し,これの酸化物は,スウェーデンのK.W.シェーレによっても鉱物tungsten(現在の灰重石scheelite)中に見いだされている。英語系,フランス語系の元素名タングステンはスウェーデン語に由来する。

主としてタングステン酸塩鉱物(灰重石CaWO4,鉄マンガン重石(Fe,Mn)WO4など)として広く存在するが,量はあまり多くない。中国,ロシア,韓国,ボリビア,アメリカなどからこれらの鉱物を含む鉱石が産出される。

白色または灰白色,白金に似た金属。金属として最高の融点3400℃をもつ。α型,β型の2型があるが,いずれも立方晶系で,α型は空気中で安定,β型は不安定。市販品一級は99.9%以上の純度があり,一般に粉末。乾いていると安定であるが,湿っていると空気中では酸化される。β型は室温でも発火するが,α型の粉末はきわめて安定で,熱すると300℃で酸化が始まり,650℃で酸化タングステン(Ⅵ) WO3を生ずる。希塩酸希硫酸と温めるとわずかに侵されるが,濃硝酸では熱時よく溶ける。またフッ化水素酸と硝酸の混合物には急速に溶ける。アルカリ融解すると酸化剤の存在でよく反応する。

鉄マンガン重石からタングステンを製錬するには,鉱石を水酸化ナトリウムで加圧下水蒸気加熱し,タングステン酸ナトリウムNa2WO4として溶解する。この溶液に塩化カルシウム溶液を加えてタングステンを灰重石と同じCaWO4として沈殿回収する。灰重石は加熱塩酸で処理して不純物を溶かし,オルトタングステン酸H2WO4としたのちアンモニア水で中和してpHを約7.3に調節して,純粋のパラタングステン酸アンモニウムとして晶出させる。これを焙焼してWO3としたのち,乾式で水素還元して粉末タングステンとする。タングステンは融点が高いため,粉末を圧縮成形後に通電焼結する粉末冶金法を用い,細線や板材などとする。金属単結晶をつくるには有機化合物を結合剤として,水素気流中で2200℃に熱する。

電球や真空管のフィラメント,溶接用電極,電気接点,各種電極,炉材,ノズルなどの耐熱材料,熱電対や半導体の部品に用いられる。合金として高速度鋼,永久磁石鋼,耐熱合金その他に添加される。炭化物はきわめて硬く,焼結炭化物合金(超硬合金)として工具に用いられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タングステン」の意味・わかりやすい解説

タングステン
たんぐすてん
tungsten

周期表第6族に属し、クロム族元素の一つ。原子番号74、元素記号W。ウォルフラムwolframとよばれることもあるが、学術用語としてはタングステンが正式名称である。

[岩本振武]

歴史

タングステンを含む鉱石である鉄マンガン重石(Fe,Mn)WO4がスズ鉱に混入すると多量のスズがスラグ化されるため、スズをオオカミのようにむさぼり食うとの意味で、その鉱石をウォルフラム石wolframite、元素をウォルフラムといった歴史がある。タングステンの名称はスウェーデン語で「重い石」の意となるtungstenによっている。

[岩本振武]

存在

地殻には比較的広く分布しているが、存在比はあまり高くない。主にタングステン酸塩の鉱物に濃縮されている。主要鉱物として灰重石(かいじゅうせき)CaWO4、鉄マンガン重石などがある。

[岩本振武]

製法

鉄マンガン重石はアルカリ融解してから、灰重石はそのまま、塩酸処理してタングステン酸(三酸化タングステン一水和物)を得、これを水素気流中で700℃、あるいは炭素、ケイ素、ナトリウム、マグネシウムなどの還元剤と強熱すると単体金属となる。融解塩中での電解還元でも得られる。これらのタングステン金属は一般に粉末状で、粉末を加圧成形して焼結する粉末冶金(やきん)法によって純金属のインゴット(鋳塊)とする。高純度単結晶は有機物と押し固めた粉末タングステンを水素気流中で2200℃に加熱して得る。

[岩本振武]

性質

白色または灰白色金属。融点、沸点ともきわめて高く、いずれも立方晶系のα(アルファ)形、β(ベータ)形のうち、β形は空気中で発火するが、α形は安定で、高温で酸化される。希酸にはあまり溶けず、濃硝酸、王水に溶ける。化合物には酸化数0から+Ⅵまでのものがあり、イソポリ酸塩、ヘテロポリ酸塩としての多種の縮合オキソ酸塩の存在が知られている。

[岩本振武]

用途

電球のフィラメントに使われるほか、耐食性が高く耐熱性もあるため、電極、電気接点として、また多くの合金(高速度鋼、永久磁石鋼、ステライト)に利用される。炭化物はとくに硬く、焼結炭化物合金(超硬合金)として工具に使われる。

[岩本振武]



タングステン(データノート)
たんぐすてんでーたのーと

タングステン
 元素記号  W
 原子番号  74
 原子量   183.84
 融点    3400℃
 沸点    5700℃
 比重    19.3(20℃)
 結晶系   立方
 元素存在度 宇宙 0.16(第73位)
          (Si106個当りの原子数)
       地殻 1.5ppm(第52位)
       海水 0.1μg/dm3

タングステンの性質

 線膨張係数 4.44×10-6 K-1(27℃)
 比熱容量  0.0321cal K-1 g-1
 蒸気圧   750mmHg (6970K)
 熱伝導率  0.382cal cm-1 S-1 K-1(20℃)
 抵抗率   5.64×10-6Ωcm(300K)
 ヤング率  3.96kg/cm3(27℃)
 剛性率   1.35×106kg/cm2
 引張り強さ 約13kg/mm2
 硬さ    5~8

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化学辞典 第2版 「タングステン」の解説

タングステン
タングステン
tungsten

W.原子番号74の元素.電子配置[Xe]4f 145d46s2の周期表6族遷移金属元素.原子量183.84(1).天然同位体存在比は 180W 0.12(1)%,182W 26.50(16)%,183W 14.31(4)%,184W 30.64(2)%,186W 28.43(19)%.質量数158~190までの30種の放射性核種がつくられている.元素名はスウェーデン語の“重い石”を意味するtung stenから.元素記号はドイツ語の名称ウォルフラム(Wolfram)の頭文字.
1771年,スウェーデンのK.C.W. Scheele(シェーレ)がタングステン鉱物中の元素から酸ができることを見いだし,1783年,スペインのde Elhuyar兄弟がこの酸を木炭で還元して金属の単離に成功した.地殻中の存在度1.0 ppm.主要鉱物は灰重石(sheelite,CaWO4),鉄マンガン重石(wolframite,(Fe,Mn)WO4)などで,資源として中国,ロシア,カナダ,オーストリアなどに産出する.中国が主要産出国で世界の産出量の約85% を占める.埋蔵量も約65%.日本国内採鉱は1992年に停止.1983年からはじまったレアメタル国家備蓄制度の対象鉱種の一つ.上記の鉱物をアルカリばい焼で処理して酸化物WO3を得て,水素または炭素で還元して金属を得る.タングステン製品のリサイクルも重要資源である.国内では鉱石処理も停止され,ほとんど中国からの炭化タングステンなどの中間原料輸入によっている.純粋な金属は灰白色で軟らかい.密度19.3 g cm-3.融点3410 ℃ で最高,沸点5700 ℃.第一イオン化エネルギー733.2 kJ mol-1(7.60 eV).高温で酸素と反応して三酸化物WO3になる.フッ素と室温で反応して六フッ化物WF6をつくる.塩素とも容易に反応して六塩化物となる.酸化数1~6.通常の酸,希アルカリ水溶液には侵されない.常温で水と反応しない.
金属は白熱電球,蛍光灯のフィラメント,電子管,ブラウン管の電極,X線管のターゲットなどに用いられる.鋼との合金や炭化タングステンは超硬合金として高速切削用工具,強力・耐蝕合金ハステロイはNi,Cr,Moとの合金,タングステン酸カルシウムは蛍光灯用の蛍光体,硫化タングステンは高温用の潤滑剤に用いられる.[CAS 7440-33-7]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タングステン」の意味・わかりやすい解説

タングステン
tungsten; wolfram

元素記号W,原子番号 74,原子量 183.84。周期表6族に属する。 1871年スウェーデンの化学者 K.W.シェーレにより発見された。希元素の1つで,主要鉱石は鉄マンガン重石,灰重石などである。地殻の平均存在量 1.5ppm,海水中の存在量はほぼ 0.1 μg/l 。単体は白色ないし灰白色の金属。比重 19.35,硬度 6.5~7.5,融点 3410℃。乾燥空気中では安定であるが,赤熱すると三酸化物となる。水にはおかされないが,水蒸気と反応し,二酸化物を生じる。酸に対しては非常に安定。高速度鋼,永久磁石鋼,耐熱合金,耐食合金などの製造に使われ,純金属は電球のフィラメント,電子管電極,電気接点用金属などとして用いられる。

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百科事典マイペディア 「タングステン」の意味・わかりやすい解説

タングステン

元素記号はW。原子番号74,原子量183.84。融点3407℃,沸点5555℃。元素の一つ。ウォルフラムとも。光沢ある灰色金属。硬度7。空気中できわめて安定。酸,王水,アルカリに不溶。電球や真空管のフィラメント,電極,電気接点などに用いられ,合金として高速度鋼,永久磁石鋼,耐熱耐食鋼などに使用。主要鉱石は鉄マンガン重石,灰重石など。原料鉱石をアルカリまたは塩酸で融解して抽出し,酸化物としたのち,水素,炭素などで熱時還元してつくる。
→関連項目劣化ウラン弾

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