ブタ(読み)ぶた(英語表記)pig

翻訳|pig

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブタ」の意味・わかりやすい解説

ブタ
ぶた / 豚
pig
swine
hog
[学] Sus scrofa var. domesticus

哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目イノシシ科に属する動物。同科イノシシ属に含まれるヨーロッパイノシシやアジアイノシシを馴化(じゅんか)して成立した肉用の家畜である。ブタの英名は前記のほか、とくに雄ブタをいう場合にはboar、雌ブタにはsowが用いられる。ヨーロッパイノシシとアジアイノシシは、体格、毛色、涙骨の形などが明らかに異なるので別種とされているが、両者間には正常な繁殖力をもつ雑種が生まれるので、同一種内の亜種と分類する学者もある。ヨーロッパ、西アジア、中国など別々の土地でそれぞれの土地のイノシシから家畜化されたが、現在飼育されている改良種の多くのものはこれらが交雑されてつくられたものである。家畜化の時代は中国南部で紀元前8000年、西アジアで前6000年ごろと考えられる。

[正田陽一]

特徴

ブタは祖先種のイノシシと違って、人間の庇護(ひご)の下で生活しており、そのため自己防衛力は低下して形態は変化しているところが多い。自ら餌(えさ)を探す必要がないため、吻(ふん)は著しく短縮して上方へしゃくれ、犬歯も小さくなっている。耳は垂れ下がっているものが多く、尾も短くて巻いている。イノシシの子には生後しばらくの間、瓜坊(うりぼう)とよばれるように縦縞(たてじま)があり保護色の役目を果たしているが、改良されたブタの子にはみられない。毛色も白、黒、赤褐色などさまざまで、斑紋(はんもん)のあるもの、有色で白いベルトを肩の部分にもつものなど、変異が多い。産肉性の改良が進んだため、腸管の長さはイノシシの17メートルからブタの26メートルへと長くなり、胴が伸びて、肋骨(ろっこつ)の数がイノシシの14対からブタの16対へと増え、前躯(ぜんく)に比べ、肉のつく後躯の発達が著しい。

 また繁殖力も強くなり、野生のイノシシが春にだけ子を産む季節繁殖動物であるのに対し、ブタは一年中いつでも繁殖可能な周年繁殖動物である。性成熟に達する月齢も早く、産子数もイノシシの1腹平均約5頭に比べて約10頭と多く、乳頭の数も7対以上ある。

 一方、嗅覚(きゅうかく)の鋭敏な点や、食性が広くなんでも好食する点などイノシシに似た点も多い。

[正田陽一]

品種

ブタの品種は主要なものだけでも300種を超える。これらの品種は、普通その生産されたものの型質によって、加工用型(ベーコンタイプ)、生肉用型(ポークタイプ)、脂肪用型(ラードタイプ)の3型に分けられる。しかし、この3型も連続的なもので、中間の型もあり、また時代によって改良の目標が変化して別のタイプに移った品種もある。

〔1〕加工用型 ベーコン、ハムなどの加工品の原料に適した品種で、体の伸びがよく、わき腹(ベーコン)が長くて、臀(しり)(ハム)が充実している。肉は赤肉が多くて脂肪が薄い。代表的な品種にランドレース、大ヨークシャーウェルシュ、ブリティッシュサドルバック、ドイツ改良種、ラカム、ミネソタ1号などがある。

〔2〕脂肪用型 脂肪の蓄積が盛んで、早くよく太る品種である。最近では高タンパク低カロリーの食品が喜ばれるため、ラードの需要が激減し、品種も少なくなっている。中国のブタはほとんどこの型であり、ハンガリーのマンガリッツァ、スペインのエストラマドラもこの型に属する。

〔3〕生肉用型 前の二つの型の中間のもので、体の幅と深さがあり、体積が豊かで肉量も多い。デュロック、ポーランドチャイナなどは昔は脂肪用型であったが、現在は生肉用型であり、ほかに中ヨークシャー、バークシャーハンプシャー、ミルゴロドなどが代表的なものである。

 以上のうち、日本で飼われているおもな品種は次のとおりである。

(1)ランドレースLandrace デンマークの在来種を大ヨークシャーで改良した白色のブタ。頭が小さく、耳は前方へ垂れ、胴が長くてももが充実している。脂肪が薄く、赤肉率が高い。発育が速く、生後6か月でと畜体重(90~100キログラム)に達し、成熟すると300~350キログラムになる。

(2)大ヨークシャーLarge White イギリス原産の白色大形のブタ。顔が長く、耳は大きくて直立している。体重300~350キログラム。成熟は遅いが、発育は速い。

(3)中ヨークシャーMiddle Yorkshire 大ヨークシャーと、脂肪用型の小ヨークシャーをかけ合わせて成立した白色種。顔はしゃくれ、耳は立ち、胴は楕円(だえん)形で四肢は短い。中形で成体重200~250キログラム。飼いやすいブタで、1955年(昭和30)ごろまでは日本のブタの90%を占めていたが、発育の速い大形種に置き換えられて数が減った。

(4)バークシャーBerkshire イギリス原産。皮膚、被毛は黒色で、鼻端、四肢端、尾端に白い部分がある。体型は中ヨークシャーに似るが、顔のしゃくれが少ない。粗繊維の消化力が優れているが、やや脂肪がつきやすい。肉質は佳良で肉色もよい。九州南部に多く飼われている。

(5)デュロックDuroc アメリカ合衆国東部原産の赤色種。耳は立っているが、中ほどから前へ折れている。成体重250~300キログラム。性質温順、体質強健で、飼いやすい品種である。

(6)ハンプシャーHampshire アメリカの五大湖南部が原産地。皮膚、被毛は黒色で、肩から前肢へかけて帯状の白斑(はくはん)がある。体質強健で、性質は活発。探食性が強いので放牧に適している。成体重250~300キログラム。肉質はたいへん優れており、三元交雑の第三の品種としてよく用いられている。

[正田陽一]

育種と繁殖

繁殖に用いる種豚(しゅとん)は、血統の確実な、体型の優れた、能力の高い個体でなければならない。日本では種豚登録協会が純粋種の血統を明確にするために前記6品種について子豚(しとん)登記と種豚登録を行っている。体型の優れたものを選ぶためには、それぞれ品種ごとに審査標準が設けられ外貌(がいぼう)審査が実施される。共進会が随時開かれ優秀な個体が選賞される。能力については産肉能力検定と産子検定が行われ、その成績が選抜の基準となる。最近では、生産された子豚の発育、と畜後の肉の成績を調べて親の育種的価値を評価する後代検定が組織的に実施され、改良に大きく貢献している。

 繁殖に供用する年齢は、普通生後10か月(体重120キログラム以上)から5~6歳で、雌はこの間21日間隔で発情を繰り返す。発情期は約3日続き、雌は雄の交尾を許容するので、自然交配または人工授精で受胎させる。妊娠期間115日前後で分娩(ぶんべん)する。産子数は通常8~11頭。中国種には20頭前後を産む品種もある。出生時の体重は約1キログラム。哺乳期間は7~8週であるが、繁殖効率を高めるための早期離乳を行う養豚家が多い。離乳体重は9~12キログラムである。離乳すると親ブタは7~10日で発情が再帰するから、年に2~2.5回の出産が可能である。

[正田陽一]

飼養・管理

哺乳期の初期には冬季なら保温が必要である。子ブタの吸い付く乳頭は生後3日目ごろには定まって、以後はかならず自分専用の乳頭に吸い付き、哺乳時の混乱はみられなくなる。早期離乳を行った子ブタには代用乳を与える。また離乳時の子ブタにはかならず豚(とん)コレラの予防注射を行うことが必要である。

 ブタの発育は速く、イノシシでは体重が90キログラムに達するのは生後400日以後であるのに対し、ブタでは180日である。それだけに飼料の給与が適切でないと、種々の故障が生ずる。飼料を微細な粉末の形で給与すると、消化、吸収が容易で、飼料効率は高くなるが、胃に潰瘍(かいよう)などの病変を生じやすい。これは、雑食性のブタの胃はある程度の繊維を必要とするからである。飼料は主として穀物、糠(ぬか)や麬(ふすま)類、いも、食品製造かす、牧草などである。幼時はタンパク質、ビタミンの多いものを与え、成長するにつれて炭水化物の多いものを与える。給与量、配合率などは飼養標準によるか、市販の配合飼料を用いるとよい。肉用のブタは、雄は生後3週齢で去勢し、肥育後6~7か月で出荷する。

 ブタは不潔な動物のようにいわれているが、意外にきちょうめんで、排出の場所は低い所、湿った所に固定する性質があるから、豚舎の設計を考慮して清掃管理労力を節約し、ブタの体の清潔を保つことが肝要である。また管理者によくならしておくことが、交配、分娩など人との接触の多い繁殖豚の場合、とくに必要である。

 ブタの病気は多く、伝染病では豚コレラ、豚丹毒、流行性脳炎などの家畜法定伝染病のほか、伝染性肺炎、萎縮(いしゅく)性鼻炎などがある。また近年ではウイルス性の伝染病であるオーエスキー病の被害も大きい。このほか一般的な疾病には下痢症、胃潰瘍、皮膚病、日射病などがあり、予防と早期発見が肝要である。

[正田陽一]

利用

肥育してと畜される肉豚としては、交雑種がおもに利用される。これは一代雑種や三元交雑種には雑種強勢(ヘテローシス)が現れて、純粋種よりも発育が速く、じょうぶで病気にかかりにくく、産子数も多くなるからである。

 ブタの場合、成体重に対する肉部分の百分率、すなわち枝肉歩留りは65~70%である。豚肉は淡紅色または灰紅色を呈し、軟らかく、脂肪が多い。ビタミンB1の含量が非常に高く、牛肉の15倍もある。生肉を料理に用いるほか、ベーコン、ロースハム、ボンレスハム、骨付きハムをつくったり、ほかの畜肉と混ぜて各種ソーセージ、プレスハムなどの加工品とする。ベーコンはあばら肉を塩漬けしてから薫煙したもので、ハムは肉塊を塩漬け後、薫煙または加熱して仕上げる。ソーセージは種類が非常に多いが、長期保蔵を目的としたドライソーセージ(サラミソーセージなど)と、製造後まもなく調理供食されるドメスチックソーセージウィンナソーセージフランクフルトソーセージなど)に大別される。いずれも細切りした豚肉に調味料、香辛料を加えてチョッパーにかけ、これを動物の腸管でつくったケーシング(最近では人工ケーシングもある)に詰めて水煮、薫煙したものである。肉のほか脂肪、内臓も食用に供される。豚脂はラードlardとよばれ、色は白色で、融点は牛脂、羊脂に比べて低く、柔らかい。食用以外にも薬用、化粧品用、せっけんや硬化油などの工業原料に用いられる。皮革はなめすと毛根の穴が残り、強度に欠けるが、細工物、袋物に用いられる。豚毛はブラシや、椅子(いす)やクッションなどの詰め物材料となる。

 ブタの利用法として最近重要視されてきたのが、実験動物としての利用である。ブタは生体機構上、人間とよく似た点が多い。心臓や肝臓が類似しているので、これらの臓器の外科手術の技術を開発する実験に適しており、また皮膚が裸出しているため化粧品のテストにも好適である。実験動物として、体の小さいミニブタもいくつかの品種が作出されている。

[正田陽一]

世界の養豚

全世界のブタは、1997年現在、9億3597万頭が広く各地域に飼われているが、とくに飼養の盛んな所は、ヨーロッパではデンマーク、北部ドイツを中心とした地域、アメリカの五大湖の南に広がるコーンベルト地帯、それに中国で、これを世界の三大養豚地帯という。ヨーロッパではランドレース、大ヨークシャーを中心とした加工用型の品種が、アメリカではデュロック、ハンプシャーなどの生肉用型の品種が、中国には東北民猪、梅山猪、大花白猪など脂肪用型の品種が多く飼われている。

 日本では奈良時代に、猪養部(いかいべ)という役職の名が記録に残っており養猪の行われていたことが推察されるが、肉食禁止とともに廃れた。江戸時代の末には鹿児島、長崎では養豚が行われるようになったが、本格的に全国で飼われるようになったのは明治時代中期以降である。その数も、1887年(明治20)にはわずか4万頭にすぎなかったものが徐々に増加し、ことに第一次世界大戦後に急速に発展して1938年(昭和13)には114万頭にまで達した。しかし第二次世界大戦から戦後にかけて飼料事情の悪化のために激減し、1946年(昭和21)には8万8000頭になった。1955年ごろから戦後の食生活の変化は豚肉の需要を増し、飼料事情の好転したこのころからは順調に発展し、1997年(平成9)には981万頭にまで達している。飼養品種も戦前までは中ヨークシャーのみであったのが、近年はランドレースをはじめ、たくさんの品種が導入され、雑種強勢を利用した近代的な企業養豚が盛んに行われている。

[正田陽一]

ブタと人間生活

『古事記』や『播磨国風土記(はりまのくにふどき)』に猪養の記録がみられるが、日本ではもともとブタの飼育は盛んでなく、そのうえ仏教の肉食禁止の思想も加わったため、明治時代に至るまでほとんど飼育されなかった。しかし奄美(あまみ)、沖縄は例外で、正月や葬式、先祖祭などの機会にブタが食された。奄美諸島では、12月の29日か30日に各戸で飼っているブタを正月用に殺し、大みそかの晩には「年とり骨」とよばれる厚い肉のついたその豚骨と餅(もち)がふるまわれた。また、中国では早くからブタの飼育が盛んで、半坡(はんぱ)の遺跡(新石器時代)などからは多数の骨が出土しているが、今日でもなおもっとも価値の高い肉とされている。他方イスラム教徒のように、ブタを不浄視してその肉を食さない文化もあるが、ニューギニア島やメラネシアでは、ブタは人々の生活のなかでもっとも大きな部分を占めている。単に富や交易の対象として経済的価値をもつばかりでなく、社会、儀礼生活上でも主要な役割を果たしている。たとえばニューギニア高地人には、ブタをいかなるものをもってしてもかえがたい貴重なものとみなす人々がいる。したがって信頼される女性がその飼育にあたり、ブタに誇りをもつとともに、名前を与え、同じ小屋の下に寝て子供のようにかわいがる。また彼らは一度に数百頭、ときには数千頭のブタを殺し、大祭宴を催す。このようなブタをめぐる文化の根底には、ブタの雑食性でしかも動物性タンパク質や脂肪の豊富な供給源としての貴重な経済的価値が存在する。

[田村克己]


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改訂新版 世界大百科事典 「ブタ」の意味・わかりやすい解説

ブタ (豚)
hog
pig
Sus scrofa var. domesticus

偶蹄目イノシシ科イノシシ属の肉用家畜。英語では,とくに集合的に用いるときはswine,雌ブタに対してはsowという表現もある。祖先種はイノシシで,新石器時代に農耕が始まってから,中国,インド,西アジア,中部ヨーロッパで,それぞれその土地のイノシシを馴化(じゆんか)して家畜となったものである。イノシシに比べて,外部形態では吻(ふん)が著しく短くなり上方にしゃくれて,きばもたいへん小さく,体軀(たいく)は後軀が長くなっており,経済性の高い肉のとれる部位が発達している。またイノシシの幼獣に見られる縦縞は,改良種のブタには見られない。発育も早くなっていて,体重90kgに達する日齢も,イノシシでは同一飼養水準で1年以上を要するのに,ブタでは6ヵ月と半分以下であり,性的な成熟も早い。繁殖力も増しており,周年繁殖可能で,年に2回以上分娩(ぶんべん)し,1腹の産子数もイノシシの5頭前後に対し,10頭以上と増えている。しかし,歯式がの合計44本である点や,嗅覚の鋭い点,食性の幅の広い雑食性である点など,祖先のイノシシとよく似た特徴も多く残っている。

ブタの品種は現在400種ほどあるが,これらは屠体(とたい)の品質から脂肪用型(ラードタイプ),生肉用型(ポークタイプ),加工用型(ベーコンタイプ)の3型にわけられる。最近ではラードの需要が減少してきているので,脂肪用型の品種はだんだん減ってきており,加工用型のものへと改良が進められる傾向にある。おもな品種として次のようなものがある。

 (1)ランドレース種Landrace デンマーク原産の白色・加工用型の品種。在来種を大ヨークシャー種で改良して成立した。現在,世界で最も広く分布,飼養されている。頭は小さく耳は垂れ,胴は長くももが充実し,脂肪が薄く肉量が多い。大型で体重300~330kg。発育が早く生後6ヵ月で90kg前後になる。(2)大ヨークシャー種Large White(Large Yorkshire)(ヨークシャー種) イギリス,ヨークシャー原産の白色・加工用型の品種。顔はまっすぐで耳は立ち,胴は長く後軀も充実している。四肢は長い。体重300~350kg。(3)ハンプシャー種Hampshire アメリカのマサチューセッツ州およびケンタッキー州原産の生肉用型の品種。皮膚,被毛は黒色で,肩から前肢にかけて白い帯があり,耳は立耳。性質は活発で,放牧の際の探食性が強い。肉質も優れている。成体重250~300kg。(4)デュロック種Duroc アメリカのニューヨーク州およびニュージャージー州原産の赤色・生肉用型品種。成立の初期は脂肪の蓄積の早い脂肪用型の品種であったが,後に生肉用型に改良された。性質は温順,体質は強健で,アメリカでは飼いやすいブタとして好評。(5)バークシャー種Berkshire イギリス西部バークシャー原産の黒色・生肉用型品種。全身黒色であるが,鼻端,四肢端,尾端の6ヵ所に白斑がある。体質は強健で,粗飼料の利用性もよく,肉質が優れている。日本では戦前,中ヨークシャー種に次いで多く飼われた品種で,現在でも九州南部に飼育されている。(6)中国種Chinese 世界最大の養豚国,中国原産の品種の総称。おもな品種だけを数えても100品種ほどあるといわれ,毛色も白・黒・黒白斑(花猪(かちよ)と呼ばれる)とさまざまで,体型も変異に富むが,一般に繁殖力が優れ,粗飼料の利用性に富み,抗病性が高い特徴をもつ。新淮(しんわい)種,吉林黒種,新金種,金華種,そして台湾の桃園種などが有名。(7)ミニチュア・ピッグminiature pig ブタは形態的にも生理的にも人間と似た特徴をもち,医学用の実験動物として価値が高い。アメリカ,ドイツでこの目的に開発された小型種で,体重は60~90kgぐらい。(8)その他 イギリス原産のウェルシュ種Welsh,ラージ・ブラック種Large Black,アメリカ原産のチェスター・ホワイト種Chester White,ドイツ原産のドイツ改良種German Improved Landraceなどがある。

繁殖に供用されるブタは生後10ヵ月(体重120kg以上)から5~6歳までが普通である。成熟した雌は21日の周期で発情を繰り返し,この発情期(3日間)にだけ雄を許容するので,自然交配か人工授精で受胎させる。妊娠期間は115日前後で分娩する。1腹の産子数は10頭ぐらいであるが,中国種のように20頭も産む多産の品種もある。子ブタは生時体重1kgぐらいであるが,40~50日の哺乳期間を終えると,8~12kgになる。最近では子ブタ用の飼料が進歩したので,早期に離乳ができるようになり,親ブタの分娩間隔が短縮され,年に2.5回分娩させることが可能となった。

ブタは食性が広いので,飼料として利用できるものはたくさんある。粗放な飼養形態では農業副産物を給与したり,草,果実などの自然の飼料資源を利用したりすることもあるが,近代的な企業養豚では,市販の配合飼料を利用する場合が多い。穀物,ぬか類,食品製造かす,いも,牧草などもよい飼料となる。幼時はタンパク質,ビタミンの多いものを与え,成長するにしたがって炭水化物の多いものを与える。給与量は飼養標準によって決定するのがよいが,肉豚肥育の場合は,不断給飼で自由採食させることが多い。肉豚は生後6~8ヵ月の90~105kgで出荷される。

 ブタは不潔な動物と思われがちであるがそうではなく,豚舎やブタの体は清潔を保つように留意すべきである。野生のイノシシが水辺で排出する習性があるように,ブタも濡れた場所に好んで排糞(はいふん)排尿するから,豚舎をその性質にあわせて作っておけば,一定の場所に排出させて,寝場所や飼槽付近を清潔に保つようにしつけることができる。

多頭数を飼育することの多いブタでは,伝染性の疾病はひじょうに大きな被害をもたらすから,予防と早期発見には最大の努力を払う必要がある。防疫上重要な伝染病の代表的なものは豚コレラである。これは豚コレラウイルスによる急性熱性敗血症性の伝染病で,症状が激しく死亡率も高い。ブタ水疱病もウイルスによって起こり,ひづめのまわりや鼻,口唇,皮膚の粘膜に生じた水疱が破れて,ただれたようになる。同じくウイルスによって起こる病気に口蹄疫や日本脳炎がある。後者は繁殖豚の死,流産と種雄豚の造精機能障害を起こす。細菌による伝染病には,ブタ赤痢,ブタ丹毒,大腸菌症などがある。ブタ赤痢は粘血便を排出して発育不良となり,大腸菌症は新生子ブタの敗血性疾患,白痢,浮腫病を多発する。また病原菌の感染によって鼻甲介が萎縮し,いわゆる鼻曲りを示す萎縮性鼻炎もある。寄生虫病としてはトキソプラズマ病(人獣共通の原虫病)やブタ回虫症(肝臓に白斑。発育不良)などがある。そのほか微粉飼料の供与によって胃潰瘍が胃食道部に多発する。

屠体歩留りは65~70%,肉,脂肪,内臓は食用に供される。豚肉は柔らかく,特異臭も少なく,脂肪の融点が低く冷食にも適するところから,ハム,ベーコン,ソーセージなどの加工品の原料肉として多く利用される。皮革は多孔で,強靱性はないが袋物に用いられ,骨は細工物,工業原料に利用される。毛は背部の剛毛が毛長もあり弾性に富むので,ブラシの材料として珍重される。

 なお,ブタの飼養は〈養豚〉の項目を参照されたい。
執筆者:

ブタは家畜のなかでも,もっぱら肉用家畜として,もっとも古くから飼養され始めた家畜の一つといってよい。イヌと同様,人間の住居の周囲,残りかすや排出物があるところ,また作物の植えられた畑に出没し,それらを食べることを通じて半家畜化し,飼育されるにいたったと考えられる。現在でもオセアニアにおけるブタの飼い方は放飼いで,ときに森に入って,イノシシと交雑することもある。

 ブタは,ウシ,ヒツジに比べると群居性の度は低く,追随性も弱い。地中海地域で,40~50頭の群を放牧する例もあるが,一家に数頭,舎飼いで飼養する例の方が普通であり,草原の家畜というよりも,むしろ家付きの家畜である。またどんぐりや木の根などもたべるので,野よりも集落周辺の森と里との境界域で飼養されている。

 イスラム世界では,ブタを食べることはタブーとされている。これはユダヤ教における,食物禁忌に関する伝統に由来するものと考えられる。旧約聖書の《申命記》や《レビ記》には,ブタの食の禁忌規定が記されている。反芻(はんすう),偶蹄という二つの属性をもつウシ,ヤギ,ヒツジ,そしてその近縁野生種は食べてもよいが,そのいずれかの属性を欠くものは食べられないといって,偶蹄ではあっても,反芻しないブタをも禁忌対象としている。イスラエルの民は伝統的にヒツジ放牧をする遊牧の民で,周辺のカナンやエジプトの定着農耕的文明世界と対立していた。これら農耕的なオアシス都市の世界で,ブタは食べられていた。遊牧民にとってブタの飼養は困難であり,農耕民の家畜とみなされたことも,忌避の理由となったと考えられる。

 ブタの食の禁忌はキリスト教世界では消滅したものの,汚れた霊が宿るという観念はなお残ったようである。ヨーロッパ中世において,ブタは平民のための肉食源として重要であり,秋に屠殺し,塩漬にして食に供されたにもかかわらず,悪態の中にしばしば登場し,蔑視(べつし)の代用語にさえなっている。中世都市では,街路に投げすてられた排出物や食物の残りで飼われており,このことも,ブタの汚れ,そして低評価の背景をなしている。

 他方,中国,東南アジア,そしてオセアニアで,ブタはイヌを除くともっとも価値のある家畜とみなされている。中国古代においても,ブタは一般的な家付き家畜として飼われており,《周礼(しゆらい)》に記された六畜の一つに数えあげられている。日本においても,イノシシを野に放ったという《続日本紀(しよくにほんぎ)》の天平4年(732)の記事や,猪養部といった部民名の存在から,ブタの飼育が確認される。ただ仏教による殺生の禁とともに,野猪(やちよ)は別として,ブタの飼養は衰えた。そして長崎地方で渡来中国人がブタを飼い始めるのは,17世紀になってからである。

 インドネシアやニューギニアでは,ブタは儀礼における犠牲として欠かせぬ家畜とみなされ,儀礼的消費の対象としてときに大量屠殺される。
執筆者:

ブタは西洋では不潔な動物の代表であり,怠惰な人間を揶揄(やゆ)するときにも,しばしば引合いに出される。本来はオシリスやアッティスなど豊饒(ほうじよう)神の聖獣であり,一方で多産の部分が強調され,〈貪欲〉や〈性欲〉のあからさまな象徴ともなった。大プリニウスは《博物誌》において,〈生後8ヵ月から,場所によっては3ヵ月から,8歳までは生殖能力をもつ〉と述べており,古代ローマからブタと性欲との強いむすびつきは成立していたらしい。当時,犠牲獣は前歯がはえるまでは供犠に使わないならわしであったが,〈子ブタは4日,子羊は7日,子牛は1ヵ月後が捧げどき〉といわれるように,その早熟性が注目されていた。中世では貪欲の寓意として図像に取り入れられ,例えば女性の姿をした〈貞節〉に踏まれる図柄が描かれた。近世に至って,性欲にかかわる悪夢にはしばしばブタが現れるといわれたのも,これら古い象徴の影響であろう。また,ブタは魔女や淫夢魔(いんむま)(インクブス,スクブス)の化身ともいわれた。

 他方,ブタは古い家畜であることから,従順,愚鈍,家庭的温和さの象徴ともされてきた。船でさらわれると,飼主の声が聞こえる方の船べりに寄り集まって船をくつがえし,元の小屋に泳ぎ帰るといい,また市場へ売られても家へ逃げ帰ってくるなどと信じられた。人間を獣に変える魔力をもつキルケが,オデュッセウスの配下をブタに変えてしまうギリシア神話中の逸話も,家畜化の寓意と考えられる。なお童話にあっては愚鈍で非力な動物として描かれ,しばしば狂暴なオオカミと対比される。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ブタ」の意味・わかりやすい解説

ブタ
Sus scrofa domestica; pig

偶蹄目イノシシ科。イノシシを家畜化したもので,前 4000年頃にはメソポタミアですでに家畜化されていたと考えられている。おもに肉用として改良が行われ,ヨークシャー,バークシャー,ランドレースなど,世界で 300種類以上 (地方的な変種も含む) がつくりだされている。大型の品種では体重が 400kg近くにも達する。

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栄養・生化学辞典 「ブタ」の解説

ブタ

 [Sus scrofa].哺乳綱ウシ目イノシシ亜目(猪豚類)イノシシ属の動物.家畜化されて有用な肉の給源.

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世界大百科事典(旧版)内のブタの言及

【イノシシ(猪)】より

…平地から標高4000mまでの森林や低木林にすむ。ブタの祖先ともいわれている。日本のイノシシはふつう本州,四国,九州のニホンイノシシS.s.leucomystax,奄美大島と沖縄のリュウキュウイノシシS.s.riukiuanusの2亜種に区別される。…

【沖縄[県]】より

…面積=2266.04km2(全国44位)人口(1995)=127万3440人(全国32位)人口密度(1995)=562人/km2(全国10位)市町村(1997.4)=10市16町27村県庁所在地=那覇市(人口=30万1890人)県花=デイゴ 県木=リュウキュウマツ 県鳥=ノグチゲラ日本の最南西に位置し,沖縄島(本島)ほか160の島々からなる島嶼(とうしよ)県で,そのうち40島が有人島,他は無人島である。…

【畜産】より

…農業生産は植物生産と動物生産の二つに大別されるが,養蚕を除く動物生産にかかわる農業が畜産である。畜産は家畜飼養を中心にした農業だということになるのであるが,人間生活にとけこんでいる家畜家禽(かきん)のなかには犬,猫,小鳥といった愛玩用の動物も含まれており,畜産という場合はこれらの愛玩用家畜・家禽は含めない。役用に供する,肉にする牛・・鶏・七面鳥,卵をとる,乳を搾る乳牛,毛をとるなど,生産目的に飼養する家畜が畜産の対象家畜である。…

【肉食】より

…鳥獣の肉を食することをいう。人類は雑食的な高等猿類の延長上にあって,単に植物食だけでなく動物食つまり肉食もするということは,あらためていうまでもない。肉食には動物の殺害が不可避であるが,他の動物を殺すことに,われわれと同じ生命の略奪を感じとるか否か,それは観念世界のあり方にかかわる。そこに人の殺害にも似た行為をみるとき,殺生あるいは肉食が,倫理的問題として浮上してくる。またそれとかかわって,肉食のための殺害法,解体法,そして調理法が,儀礼的作法として問題視される可能性をもつ。…

【養豚】より

…ブタを飼育し,食肉その他を生産すること。養豚はその内容によって種豚(しゆとん)経営,繁殖豚経営,肥育豚経営の3種に分けられる。…

※「ブタ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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