ベーカー(読み)べーかー(英語表記)Anita Baker

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ベーカー(Anita Baker)
べーかー
Anita Baker
(1958― )

アメリカのロック・シンガー。オハイオ州トレドに生まれる。1980年代、「クワイエット・ストーム」(メローで美しいメロディをもつリズム・アンド・ブルース)や「アダルト・コンテンポラリー」(大人向けの穏やかなロックやソウル・ミュージック)といった音楽スタイルが流行したが、この流行の頂点に立ち活躍した黒人女性シンガーである。
 若いころからゴスペル合唱隊に加わり、同時にエラ・フィッツジェラルドやカーメン・マクレエ、ナンシー・ウィルソンNancy Wilson(1937― )といったジャズ系女性ボーカリストに熱中し、16歳のときには、デトロイト近辺のバンドに加わってプロ・シンガーとして活動していた。地元の人気バンド、チャプター8に加わりレコード・デビューしたもののうまくはいかず、一時はほかの職業についたこともあった。その後ソロ・シンガーとしてふたたび活動を始め、1983年、初アルバム『ザ・ソングストレス』を発売する。
 1980年代のアメリカ音楽は、ラップ・ミュージックに代表されるような若者たちによる激しい革新運動が広範な支持を得る反面、深夜のラジオから流れるリラックス・ミュージック、クワイエット・ストームやアダルト・コンテンポラリーが大きな市場をもつまでになっていた。ジャズの洗練を背景に、感情の起伏を抑えゆったりと大人の歌を歌えるシンガーとして、ベーカーは待ち望まれていた存在だった。
 1986年のアルバム『ラプチュア』で大きな注目を集めるが、このアルバムは彼女にとっての最初のグラミー賞受賞作品となった。翌1987年、ゴスペル・グループのワイナンズと共演した「エイン・ガット・ノー・ニード・トゥ・ウォリー」もグラミー賞に輝き、続く1988年には、彼女のシングル曲「ギビング・ユー・ザ・ベスト・ザット・アイ・ガット」が同賞2部門(ベスト・リズム・アンド・ブルース・ボーカル・パフォーマンス(女性)部門およびベスト・リズム・アンド・ブルース・ソング(女性)部門)を受賞する。ベーカーは、ホイットニー・ヒューストンWhitney Houston(1963―2012)、ナタリー・コールNatalie Cole(1950―2015)、ルーサー・バンドロスLuther Vandross(1951―2005)、ライオネル・リッチーLionel Richie(1949― )、フレディ・ジャクソンFreddie Jackson(1956― )といった当時の黒人シンガーと同じく、拡大する黒人中流層だけに留まらず、さらに大きなマーケットである白人層へ無理なく入り込むことに成功したシンガーだった。
 1980年代後半に大スターとなったベーカーだが、1994年のアルバム『リズム・オブ・ラヴ』以後目だった活動はない。[藤田 正]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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